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新たな依頼

 俺は屋敷の庭でバスタードソードを素振りしていた。


 冬に入ってからそれなりに時間がたち、現在は春の気配を少しだけだが感じることができるようになっていた。

 ただ、まだ雪は積もっているし気温はまだ低い。しかし、もう雪が降ることはなくなったので直に暖かくなるだろう。


 冬の間は特にやることがなかったので魔法の練習や素振りをしていたが、いまいち成果は出ていない。やっぱり、一番上達が早いのは実践ということだろう。

 あと一月ほどもすれば完全に雪も解けて、魔物は活発になるはずだ。それまでの辛抱だろう。



 素振りをしていると、来客を知らせるベルが鳴った。俺は素振りをやめ、来客を確認するために門の方へと歩いて行く。

 ベルが鳴る事はそんなに珍しいわけではない。なぜなら、最近クレアがよく遊びに来るからだ。

 今回もクレアかと思っていたが、その予想は外れていた。


 門の所で待っていたのは、見知らぬ男だった。しかし、別にそこまで警戒しなくてもよさそうだ。

 その男は領主館の者であると証明する制服を着ており、身だしなみもかなり気を使っているようだった。一見して怪しさはなく、明らかに正式に雇われている者である。


「お昼時にすみません、ソータ様でいらっしゃいますか?」

「そうだが、領主館からなんの用だ?」

「はい、ソータ様方の冒険者パーティーにご依頼をさせていただきたく、今回はそのことでお伺いしました」


 たぶん、アベルからの指名依頼ということだろう。

 前の戦争のときはかなり金払いがよかったんだよな。もちろん依頼次第ではあるが、受けるのも悪くない。


「そうか、なら領主館にはいつ行けばいいんだ?」

「できれば今日中がよい、と仰せつかっております」

「わかった、後で行くと伝えておいてくれ」

「かしこまりました。それでは、これにて失礼いたします」


 男は馬車に乗って領主館へと帰っていった。

 今の感じを見ると、そこまで急を要するような依頼じゃなさそうだった。別に急いて行く必要はなさそうだ。


 ――  ――  ――  ――  ――


「――入るぞ」


 俺はアリスとアルバニアに用事ができたことを伝え、俺たちは領主館へとやってきていた。

 予想していた通りあまり急ぎの用事ではなかったようで、すぐにアベルとアベルと会えるわけではなかった。


 客間でしばらく待っていると、領主の『アベル・ライマン』が中に入ってくる。だがなぜかもう一人、知り合いも一緒だった。


「ん? なんでオーウェンもいるんだ?」


 アベルと一緒に入ってきたのは、冒険者ギルドのギルドマスターである『オーウェン・ブラウン』だった。


「ひさしぶりだな」

「そうね、ひさしぶり」

「おひさしぶりです」

「あぁ、一ヶ月ぶりくらいか」

「俺のことは後で説明するから、まずはアベルの話から聞いてくれ。その方がわかりやすい」


 オーウェンはそう言うと、俺たちの前にあるソファーへと腰かける。その動作は勝手知ったるようで、慣れた者の動きだった。


「……オーウェンよ。別にかまわぬが、こういう場では私を『辺境伯』と呼ぶべきではないか?」

「ほう? 俺たちは幼馴染だったはずだが、いつからそんな小さいことを気にするようになったんだ?」


 オーウェンはふざけるように、アベルに笑みを返す。

 ……オーウェンとアベルは幼馴染だったのか。どうりで双方の接し方が妙に砕けているわけだ。

 オーウェンは爵位を持っていないが実家は貴族家らしいので、納得のいく話ではあった。


 アベルは俺たちの横、わかりやすくいえば上座の位置にあるソファーに腰かける。


「少なくとも、お前がギルドマスターになったくらいからだな。お前のその大雑把な性格のせいで、私がどれだけ後処理につきやってやったか……」

「それは過ぎたことだろう? それに、お前も勉強になったんだからあれでよかったじゃねぇか」

「そうだな、お前のような者にはどう接すればいいか、非常に勉強になったよ」


 二人は笑みを浮かべながらにらみ合うという器用な真似をしながら、揚げ足を取りあう。

 仲がいいからこそなんだろうが、これまでに一度も見たことがない二人の様子には少しびっくりした。


「――おっと……失礼。よく来てくれた三人とも。さっそくだが、今回来てもらった理由を説明しよう」


 アベルは調子を整えるように咳払いをした。


「実はお前たちのパーティーに指名依頼が届いている、それも他国からだ」

「他国? どういうことだ?」


 しかもアベル自身が依頼をするわけではないのか……ますますよくわからん。


「お前たちに依頼をしてきたのは『ファーガス聖王国の教会』だ」


 俺は動きを止めた。


 ……まて、聖王国の教会? それって……アンドレアスが所属しているとかいう場所だよな。

 なんで俺らに? もしかして、俺のしたことがばれたのか? 一体全体どこからばれた? ……わからん。


「……その教会は俺らにどんな用があるんだ?」

「なんでも、勇者と同行する形で危険地帯の調査に協力して欲しいそうだ」


 調査の協力? 俺がしたことはバレてはいない……のか、ならよかった。

 俺は内心で胸をなでおろした。


「辺境伯、なぜ私たちなのでしょうか? ほかにも腕の立つ者はいますし、聖王国でも協力者を探すことはできるはずですが……?」


 アリスがアベルに疑問を(てい)す。

 確かに俺もそれは不思議に思った。数多くいる冒険者の中から、わざわざ俺たちを選んだ理由が不明瞭だった。


「私が推測するに、聖王国の教会はお前たちと面識を持ちたいんだろう。お前たちの名前が売れてきた証拠だ」

「なるほど……ていうか、なんでオーウェンがいるんだ? 話とのつながりがよくわからないんだが」

「それは冒険者ギルド経由でこの依頼が届けられたからだな」


 俺の質問に答えたのは、オーウェンだった。


「じゃあ、なんでギルドじゃなくて領主館でこの話をすることになったんだ?」

「これには国と国が少し関っていることだからな。俺としては別にアベルに知らせなくてもよかったんだが、そうするとまたこいつが怒るだろうからな。だからこうなった」

「あぁ、ギルドに怒鳴り込むことにならなくて本当に助かったよ」


 なんかいろいろと複雑な事情がありそうだな……面倒事に巻き込まれたか?


「あの……それで、具体的に私たちはどのように行動すればよろしいのでしょうか?」


 言い合いをしていた二人にアルバニアが質問を投げかける。アルバニアもいい加減二人の言い争いに見かねたのだろう。


「あー……すまんすまん」

「……すまない、話を戻そう。では、依頼内容を明確に説明する。まず――」


 俺たちはアベルから一通り説明を受け、その依頼を受けることを決めたのだった。

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