入市税
しばらく歩いていると、頑丈そうな城門に到着した。
城壁の高さは優に二十メートルを超えており、その上には兵士たちが周囲を警戒している。城門には兵士が二人おり、兵士たちは俺を見ていた。
俺が近づくと、左に立っていた好青年といった印象を受ける兵士に話しかけられる。
「『チェイス』へようこそ。初めて会う方ですよね? このあたりでは見ない服装ですが、旅の方でしょうか?」
「まぁ、そんな感じだ」
「町に入るには入市税が『銀貨五枚』必要になりますが、お持ちですか?」
……困ったな、町に入るのにお金が必要なるとは思ってなかった。
ストレージに貨幣の類を入れた覚えはない。それに、レートがわからないから銀貨五枚というのが安いのか高いのかも判別できないし、参ったな。
「あー……すまないが事情があって今は持ってない」
「そうですか……では、なにか売れるような物は持っていますか? 物を売り、それで得たお金を入市税にするという方法がありますので」
俺は適当なものを売るために、ストレージの中に入っている物を見てみる。
一番最初に目に入ったのが、盗賊たちの死体。
「そういえば、ここに来る途中で盗賊に襲われたんだが、この場合どうすればいい?」
「……盗賊ですか。盗賊を討伐した者には警備兵より報奨金が支払われますが、そのためには盗賊の首が必要になります。もしかして、お持ちなんですか?」
いや……これ、どう答えればいいんだ?
素直に首を持っていると言っていいのか、聞いてみただけと言ってはぐらかせばいいのか。
正直に言った場合、殺人をしたと公言したことになる。
さっきの言い方だと、盗賊を殺したことは罪にはならなさそうだが、答えに迷う。
「なぁ、首じゃないとダメなのか?」
「いえ、ダメなわけではありません。ただ、その代わりになにかしらの盗賊を討伐したと証明できるものが必要になります。そうでなければ、死体を持ってこれば報奨金を受け取れることになってしましますからね」
なるほど、盗賊の死体だと証明できればいいのか。なら、問題はなそうだな。
「盗賊の死体はストレージに入っているんだが、どうすればいい?」
「収納魔法が使えるのですか。ということは、もしかして商人の方ですか?」
好青年は少々驚いた素振りを見せる。
「いや、違うが」
「そうでしたか、失礼しました。では、盗賊の容姿をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
あまり見たいものではないが、俺は首のあった盗賊の死体を見る。まぁ、見ると言っても脳内でだが。
「……顔は傷だらけでやせ型。あと、確かブロードソードを使っていたな」
「え? それって……盗賊の『フランクリン』ではありませんか!」
どうやら、俺が倒した盗賊のことを知っていたらしい。
「知っているのか?」
「えぇ、それはもう。ともかく、警備兵の詰所に持っていけば報奨金をもらうことができます。手下の者たちがいたと思いますが、その者たちは?」
「ストレージに入ってる」
頭は粉砕したが、一緒に出せば特に問題はないはずだ。
「見せていただいてもよろしいでしょうか?」
「おいまてカーシー、ここでか?」
今まで俺たちのやり取りを見ていた男が、好青年の兵士――『カーシー』へ話しかけた。
「おっと。じゃあ『チャールズ』、あとはここを任せてもいいかな?」
「おう、任せとけ。どうせ後少しでここは閉まるしな」
……ギリギリだったのか、もう少し遅かったら町に入れなかったかもしれなかったな。
「それでは詰所に案内しますので、私についてきてください」
俺はカーシーの後ろについていく。一分ほど歩くと、巨大なテントが見えてきた。
カーシーは入り口にあった布をめくり、中へと入っていった。俺もそれに続く。
中に入ると、そこには筋骨隆々で山のような男がいた。
「ん? カーシーか、交代時間はまだだぞ」
「隊長、違います。盗賊の報奨金についてこちらに用がありましたので」
カーシーがそう答えると、屈強な男は俺の方に向いた。その視線には、信じられないものを見るような色がふくまれている。
「お前さんが盗賊を討伐したのか? ていうか、まずその盗賊の死体あどこにある?」
「ストレージに入ってる」
男は少し目を見開いた。
「お前さんは魔法使いなのか? とてもそうは見えないが」
「剣も使えるが、その認識で構わない」
一々説明するのも面倒だしな、適当に言ってても別に問題ないだろう。
「そうか……それで、討伐した盗賊の死体を見せてもらってもいいか?」
「……ここで出すのか?」
俺がいるここは、受付のようなものもある。こんな場所を汚してしまってもいいんだろうか?
「かまわん、出してくれ」
言われるままに、俺はストレージから盗賊の首を取り出し、床においた。
盗賊の首からは、再び血が流れ出す。
「ほう……お前さん、こいつを討伐したのか?」
男は興味深そうに、口角を上げた。
「あぁ、それがどうかしたのか?」
「いやなに、こいつはフランクリンといってな。逃げ足が素早いし察知能力も高い、そのうえそれなりに腕も立ってな、俺たちでも手を焼いてたんだ。取り巻きがいたと思うんだが、そいつらはどうした?」
「ストレージに入ってる。そいつらもここに出せばいいのか?」
明らかに違うはずだが、いちおう聞いてみる。
「いや、それ用の部屋がある、ついてきてくれ。カーシー、お前さんは警備に戻れ、この者は俺が対応する」
「了解です。それでは失礼しました」
カーシーは一礼し、テントから出ていった。
その間に俺は盗賊の首を再度ストレージに収納した。
「それじゃあ……っと、名前を言ってなかったな。俺の名は『ルイス』だ、お前さんの名前を聞いていいか?」
「あぁ、俺の名前は奏多だ」
「『ソータ』か、よろしくな」
「あぁ」
イントネーションが少し違ったが、まぁ別に気にしなくてもいいか。
「よし、それじゃあついてきてくれ」
ルイスは部屋の奥にあった布を潜っていく。その後についていくと、ほかとは違った木製の扉の前にたどり着いた。
腰から鍵束を取り、ルイスは鍵の一つを鍵穴に差し込んで扉を開いた。
そこは、いくつも棺桶が置いてある不気味な部屋だった。