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鍋奉行(2)

 出鼻をくじかれたが、すき焼きはまだまだ続く。


「――追加の肉を入れて、火の通りにくい野菜を入れる。そして、さらに砂糖としょうゆを追加して、再び煮込む」


 俺は追加でベヒモスの肉を入れる。そしてほどよく焼けると鍋の端によせ、野菜を入れて調味料と水を追加で投入し蓋を閉めた。


「ある程度煮込んだら、今度は火の通りやすい野菜を入れて煮込む」

「結構手間がかかるんですね」

「まぁそうだな、それも楽しみのうちだ」


 俺たちが話しをしている間にも、鍋はぐつぐつと煮込まれていく。

 しばらくして俺は鍋の蓋を開いた。もわっと湯気が立ち上り、あたりに甘辛い匂いがただよう。


「さ、完成だ」

「わー! おいしそうね!」

「えぇ、ではさっそく」


 二人は野菜を口へ運ぶ。俺も白菜のような野菜を食べた。


「……うまっ」


 きちんと肉の旨みもしみており、かなり満足のいく味わいだった。ちょっと予想とは違ったが、それでもずいぶんとおいしい。

 二人の方を見るとどうやらお気に召したらしく、黙々と野菜や肉を食べていた。

 俺はしばらくして、二人に問いかける。


「どうだ? 気に入ってくれたか?」

「そうね、結構味が濃いけど気に入ったわ」

「はい、しばらくすき焼きでも飽きそうにありませんね」

「そうか、ならよかった」


 喜んでくれたなら、作ったかいがあるというものだ。結構手間はかかったが、またやるのも悪くないな。


「たださすがに毎日とはいかないぞ、材料費がかなりかかったからな」

「へぇーどれくらい?」

「だいたい白金貨一枚だな」


 俺がそう言うと、二人の手がピタリと止まる。そして先ほどまでは笑顔だったはずが、なぜか今は真顔になっていた。


「……これ、そんなにするの?」

「あぁ、肉はベヒモスの肉を使ったから実質無料だが野菜は軒並み高価だし、卵なんて十個で金貨一枚もするし、そんなポンポンと食べれるものじゃないな。やっても月一くらいだ」


 別に週一くらいならまだ可能かもしれないが、そうなるとありがたみも薄くなる。なので、月一くらいの頻度がベストだろう。

 それに、おいしいからと言って短期間にたくさん食べると確実に飽きるしな。


「なら、月一でお願いするわ」

「それは別にかまわないが、食べ過ぎると太るぞ。すき焼きって結構カロリー高いしな」

「問題ないわ、私太らないし」

「たぶん、今ので全世界を敵に回したな」


 それに、アリスの場合は太らないじゃなくて『育たない』の間違いじゃないか?


「――ソータ、思っていることは口に出さないと伝わらないのよ?」

「……いや、なんでもない」


 俺はアリスに凄みのある笑みを向けられたので、野菜を口に入れてごまかした。

 ……なぜ心を読まれた。表には一切それらしい言動をしていなかったはずなんだが……。



 そして、すき焼きは終局へと向かう。

 買っておいた具材を全て使い、鍋の中にある具材が少なくなったので、これでシメにすることにした。


 すき焼きのシメもいろいろあるが、今回は定番であろうものにした。


「……なにそれ?」


 アリスは俺がストレージから取り出した物に視線を向けたが、そこには疑問しかなかったようだ。


「『うどん』だ――いや、だと思う」


 俺が取り出したのは、うどんのような麺類だった。

 ただし、俺の知っているうどんと比べてコシがあまりないし、色も完全に白ではない。しかし、これはうどんだ。そうに違いない。


「これでシメにしよう」


 俺はうどんを鍋に入れた。

 おじやはしたことがなかったので今回はそれにしようと思っていたのだが、考えてみればそもそも米が売っていなかった。

 まぁ、麦ですら全然ないのに米があるはずもない。少なくとも、今いるチェイス付近には。


「これくらいでいいだろ、食べていいぞ」


 俺は蓋を取り、二人に食べるように勧めた。

 二人はさっそく食べるために、フォークでうどんをお椀によそう。相変わらず、その光景はシュールであった。


「結構お腹がいっぱいでしたが、これならまだいけますね」

「モチモチしてて面白い食感ね!」


 口に合ったようで、二人はそれぞれ感想を言ってくる。

 俺もうどんを口にした。コシがもの足りなくはあるが、懐かしい味がする。悪くないな。


「――どうだった? すき焼きは」


 食べ終わったので、俺は総評を聞いてみることにした。


「すごくおいしかったわ! またやって頂戴!」

「えぇ、よければまたソータさんの知っている料理を食べてみたいです」


 二人は俺が思っていた以上に気にいってくれたようだ。

 また俺の知っている料理を作ることにしよう。喜んでくれるのなら、多少の苦労もやすいものだ。


 俺は二人と談笑しながら、すき焼きの余韻に浸るのだった。

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