盗み見
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俺は二日間、中央研究所を観察していた。
わかったことといえば、主に出入口するのは研究員か資材なんかを運び込む業者なんかだということだ。たまに警備兵も出入口しているが、その数は少ない。
そして、警備はそれなりに厳しいが、それなりに穴があることもわかった。
まず日が出ている内は、警備兵がそこそこいたりはする。しかし、夜は警備兵の人数が四分の一ほどに少なくなるのだ。
警備兵たちはあくびをしていたり仲間を談笑をしていたりと、あまり気を張っているようには見えない。なので、そこまで脅威というわけじゃないだろう。
次にセキュリティー関係だが、扉に鍵が必要になるくらいとかなり甘い。別に生体認証が必要というわけではなく、二段階認証なども存在しないみたいだ。
あまり気にする必要はないだろう。
決行は今夜だ。あとは夜を待つのみである。
―― ―― ―― ―― ――
人々が寝静まり、町明かりが一段と少なくなった深夜。俺は建物の屋根の上にたたずんでいた。
今いるここは研究所がよく見えるにもかかわらず周りからは見づらいという、絶好の場所である。
すでに準備は整っており、羽織っていた白色の外套はストレージに収納済みだ。
あとは俺の気持ち次第である……のだが、ここまで来て俺の中である葛藤が起こっていた。
中央研究所はこの国の重要施設だ。そこに不法侵入するということは、この国に喧嘩をうるようなものである。
そんなことをしてはならないという意見と、やったのが俺だとばれなければなにも問題はないという意見で、俺はジレンマに陥っていた。
なにもせずにやめておくか、それとも覚悟して前に進むかどうか。
俺はしばらく考えた。――考えた末に、覚悟は決まった。
ここでひよっていても仕方がない、後のことは後に考えればいいのだ。あるかどうかもわからない未来に恐怖していても、なにも始まらないしな。
「……さぁ、やるか」
俺はインビジブルミストを発動し、あたりを霧で包む。そして、その霧を操作して研究所を包み込んだ。
念のために人がいないことを確認してから、転移魔法を使いバルコニーに転移する。
バルコニーには花壇などはなく、なにかの研究資料が置いてあるのみだった。
建物の中に入るために、ガラス製の扉の取手へと歩いて行く。そしてそれを掴み引いたり押したりしてみたが、当然開くことはなかった。
「ファイア」
俺は取手の近くのガラスを魔法で焼き切って、中に手を入れて鍵を開けることにした。
《ファイア》という火を放つ魔法を使い、取手の近くのガラスを円を描くように焼き切る。そして、焼き切ったときにできた円状のガラスをストレージへと収納した。
そのままガラスを地面に落とすと割れて音が出るからな、それは絶対にやってはいけない。
俺は焼き切った部分が冷えるまで少し待ち、鍵を開けて中へと入った。
さすがに建物の中で霧を発生させるのは不自然すぎるので、ここからは見つからないように行くしかない。
研究所の中は真っ暗なので、そうそう見つかることもないだろう。
俺は資料が保管されている部屋を探して、研究所の中を音をできるだけ出さないように走る。
確証があるわけではないが、こういう場所には資料を保管する部屋が設けられているはずだ。そこを探せばお目当てのものが見つかるはずである。
「――ん? なっ!? 侵入――っ!!」
「くっ……!」
しまった……考え事に没頭してしましまい、気が抜けて警備兵に見つかってしまった。
とっさに警備兵の喉を殴る。喉が殴られたことによって警備兵は頭を下げたが、まだ気絶はしていなかった。
俺は警備兵の首を手刀で打ち付けた。警備兵はよけることができず気絶し、そのまま床へと倒れ込む。
……本当に危ないところだった。もう少し対処が遅れていたら確実に叫ばれていただろう。
俺は警備兵を引きずり、近くの外からは見づらいだろう場所へと隠した。時期にばれるだろうが、しばらくは大丈夫なはずだ。先を急ごう。
俺は再び研究所の中を駆ける。
警備兵は懐中電灯のようなマジックアイテムで周囲を照らしながら警備しているので、ある程度警備兵がいる場所は分かる。……さっきみたいに馬鹿な真似をしなければ、もう見つかることはないだろう。
しばらくして『資料保管室』と書かれたドアを見つけた。そして、そこには当然のように鍵がかかっていた。
ごく一般的な鍵穴にさしこむタイプのものであり、あまり複雑そうには見えなかった……のだが。
「金属製の扉か……さて、どうするか」
そこにそびえるのは、頑丈そうな金属の扉。金属板を何枚も貼り付けて強化したようなその扉は明らかに、壊すのに骨が折れそうであった。
いろいろとここを通る手段を考えてはみたものの、まったくと言ってもいいほどいい案が思いつかなかった。
ピッキングするにしてもやり方がわからないし、無理やり壊すにしても金属製なので簡単に壊れるとは思えない。それに、壊そうとすればかなり大きな音が出るだろう。なので、この二つの案は却下である。
しばらく考え込む。しかし、今度は早々にいい方法を思いついた。
それは『ファイアで鍵穴自体を壊してしまう』、というものだ。
なにも扉自体を壊す必要はない。問題なのは鍵なのであって、扉の強度ではないのだ。
俺は再びファイアを発動すると、鍵穴を焼き始める。シュー……という金属を焼く音がしばらくあわく照らされた廊下に響いた。
さすがに金属を溶解させるのは時間がかかる。先ほどよりも温度を上げており、一千度は確実に出ているだろうが、それでも一向に開く気配がなかった。
しかし少しして手ごたえを感じたので、取ってを引いてみた。すると、ボキッ!という音とともに扉が開いた。
音の正体を確認するために扉の側面を見ると、つっかえ棒の役割をしていた金属の棒が真っ二つにへし折れている。どうやら、熱され溶解しもろくなったところに衝撃が加えられ、こうも簡単に折れたようだ。
俺は資料保管室の中へと入る。中は暗く目先も見えないほどだったので、おれは《ライト》で光球を作り出し、あたりを照らした。
明るく照らされた先にあったのは、膨大な資料の山であった。どれだけの年月があればこれほど資料が溜まるのかわかりかねるが、それでもここが当たりだったのは間違いないだろう。
「おいおい……こんな所から目的の資料を探すのか?」
資料は種類別に分けられているようで、キチンと棚に陳列されていた。しかし、この中から目的の資料を見つけるのに手間取ることは間違いなかった。
俺は資料の間から出ているふせんを見ながら、目的である転移者や転生者について書かれた資料を探す。
「……あ、もしかしてこれか? ――お、ビンゴ!」
部屋へと入りしばらくした場所にある棚には、異世界人関係の資料が複数しまわれていた。雑に、そう表現していいほど、そのしまい方は粗雑なものである。
『関係のあるものをとりあえず集めました』といった感じで、あまり熱心に研究されていなかったというのは一目瞭だ。
俺はいろいろと書類を取り出すと、それらを読み始めた。
――結論から言うと、あまり有意義な情報はなかった。
どうやら、転移者や転生者はほとんどの者が強力な魔法が使えたり、戦闘力が高い傾向にあるようだ。そして、こちらへと転移してくる者は八歳から五十歳ほどと、かなり幅広いらしい。
しかし、肝心の元の世界に帰えれるかということについては、特に新しいことは判明しなかったそうだ。
……残念だ、本当に。
読んでいた資料を片付けているといきなり部屋の灯りがつき、サイレンのような音が鳴り響き始めた。
明らかに緊急性を示すものであり、かなりの大音量で鳴らされている。
「あー……これは侵入したのがばれたか」
惜しく思いつつも資料を手早く元の場所に戻して、再度インビジブルミストを発動した。もはやこの状態になっては、発動させない意味はないだろう。
俺は部屋から出て、最初に入ったバルコニーの扉を目指して走り出した。
何人かの警備兵とすれ違ったが、ミストインビジブルを発動させていたので気づかれることはなかった。
バルコニーへと出ると、ちょうどぽつぽつと小雨が降ってくるところだった。
俺は気にせずに転移魔法を使い、一気に研究所から離れる。そして、そのまま王都を出るべく路地裏を走り出した。
夜ということもあってかなり暗くはあるが、それなりに街頭が点在しているのでなにも見えないわけではなかった。
そんな感じで走っていると、俺は違和感を覚えた。どうやら、俺の後をつけている者がいるようなのだ。
ただ姿が見えないし、どうにも俺に接近してくる様子はない。追いつくことができないのかもしれない。
……いや違うな。たまに明らか俺に追いつくことができるほどの速度を出していることがあるように思える。
そのまま王都を囲っている城壁を飛び越えて、ベネット王国のある方向の森へと入った。
俺は後ろに振り返って、尾行している者を見る。町中よりも隠れることができる場所は少ないし、見つけることができるかもしれない。
そして、俺は尾行している者を見つけることができた。……だが、見つけることができたことによって、俺は絶望することになった。
俺を尾行していた者は――勇者である、アンドレアスだったのだ。




