正義の味方
「――なっ、てめぇは……っ!?」
「私のことを知ってくれていて嬉しいよ。それで、その子から離れてくれるかな?」
「……っ! お前らっ!! とっととずらかるぞっ!」
男たちはきらびやかな鎧を着た男のことを知っていたらしく、顔を真っ青にして俺から離れていった。
どうやら、鎧を着た男は俺と敵対する意思がないようだ。
「君、大丈夫だった? 怪我はない?」
「……あ、えっと、うん」
「そう、ならよかったよ」
笑みを浮かべ、男はホッとした様子を見せる。俺はなんとか立ち直り、返事を返した。
「えっと……あなたってもしかして?」
「うん、そのもしかしてだと思うよ。僕は『アンドレアス・ボールドウィン』、ここ聖王国の勇者だよ。君は?」
……やっぱりか、薄々そんな気がしたんだよな。
アンドレアスは白を基調としたプレートアーマーをまとっており、二振りのロングソードをそれぞれ腰と背中に携えていた。
そして金髪碧眼であり……俺が見たことがある者の中で、一番か二番目くらいのイケメンだった。
「私は……『アンジェリカ』」
「アンジェリカか、素敵な名前だね」
…………まさか現実に素敵な名前と言われるとは思ってもみなかった。しかも同性に言われるとか……なんか寒気を感じる。
別に偽名ではあるのだが、それでも絶句するほどには衝撃的だった。
「……ありがとう」
「僕のことは気軽に『アンドレ』と呼んでくれてかまわないよ。その代わりと言ってはなんだけど、君のことはなんて呼べばいいかな?」
「え、えっと……じゃあ『アンジェ』で」
「そうか、アンジェだね。ありがとう」
……なんかこいつ、やたらとグイグイくるな。正直、苦手なタイプだ。
「ねぇ、アンドレって勇者だよね? いつもどういうことをしているの?」
せっかくなので、俺は情報収集をしておくことにした。
わざわざ調べるよりも、本人に聞いた方が早いだろう。それに、本人からしか聴けないこともあるしな。
「そうだね……暇なときはこうして王都を警備していたり、魔物や盗賊なんかに困っている所があるならそこに派遣されたりしているね。もっとも、僕が派遣されるのはよっぽどの事がない限りはないんだけど」
アンドレアスは自虐的な笑みを浮かべる。
自身では、あまり派遣されないことをよく思っていないのかもしれない。
「最近だとベネット王国で昆虫型の魔物が暴れていたときに王国へ派遣されたんだけど、全く役に立っていなかったよ。まぁ、『教会』の行動はかなり遅いから仕方のないことなんだけどね」
「教会?」
俺は話の中に出てきた気になる単語について聞いてみた。
「神様にお願いをするところだよ。それと、ここの教会は少し特殊でね、教会の聖騎士団が付近の警備なんかを国営騎士団や警備兵たちと合同で行っているんだよ。そして、僕もその聖騎士団に所属しているんだ」
……なるほど、教会は絶対に敵に回すべきじゃないな。少なくとも、アンドレアスがいる時点で勝てる気が一切しない。
「へぇ、教えてくれてありがとう」
「どういたしまして。――あぁそうそう。アンジェ、次から路地裏は危ないから絶対に来ちゃだめだよ? ここの治安はいい方だけど、さっきみたいなことは結構あるからね」
アンドレアスは人差し指でビシッと立てて、子どもをしかるかのような口調で俺を窘める。
やっぱり子ども扱いしていたのか……。いやまぁ、この身長で子ども扱いするなという方が無理な話なのだが。
「え、えぇ……次から気をつけるよ」
「本当だよ? もう少し僕が来るのが遅れていたら危なかったんだから。――ほら、ここで別れるのは危ないから僕が送ってあげるよ。こっちにおいで」
「あ、うん」
俺はうながされるまま、アンドレアスについて行った。
―― ―― ―― ―― ――
路地裏から出てアンドレアスと別れると、俺は中央研究所のある場所までやってきた。
研究所を見た感想は、『でかい』というのが一番最初に出てきた言葉だった。外観はほかの建物と同様に白いのだが、ほかとは一線を画すほどに巨大だったのだ。
俺は見つかりづらいように路地裏に隠れながら研究所を観察する。
「……入口にはつねに警備兵が二人いるのか。二階や三回の窓にも鉄格子があるし、用意周到だな」
見るからに、研究所の警備は厳重だった。しかし、別に侵入が不可能というわけではない。
四階以降の階にある窓には鉄格子がついていないし、六階にあったバルコニーには警備兵もいなさそうだ。それに、侵入は夜に《インビジブルミスト》を使って行おうと思っているので、早々に見つかることはないだろう。
俺は日が暮れるまで、研究所の観察を続けたのだった。
アンドレアスの一人称が『僕』と『私』になってるのは仕様です。




