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いつかの悪夢

 描写を少し変更しました。

 ――俺はどうやら夢を見ているようだ。だが、それは決して楽しいものではない。

 どす黒く、絶望的な悪夢の類だった。深くフカク、心の底に刻まれた、トラウマの夢だった。


 ――  ――  ――  ――  ――


 車通りの多い大通り。空からはさんさんと陽光が降りそそぎ、通りゆく人々の肌を焼いていく。

 たくさんの人々が行きかい、そこらかしこから楽し気な談笑が聞こえてきた。しかし次の瞬間、唐突に悲鳴が上がる。

 人々は()()を見たとたん、我先に逃げ出した。


 そこには、ダガーナイフを持った男が目を見開きながら走っていた。

 慌てふためき、人々はその男からなんとしても逃げようと、蜘蛛の子を散らすように別々の方向へと逃げ出した。そんな様子に男は心底楽しそうな笑みを浮かべ、わざと走る速度を落とす。

 だがその中に、一向に逃げ出さず立ち尽くしている小学生ほどの少年少女がいた。


 その二人は恐怖の表情を浮かべ、足を震わせていた。男は嬉々として、そのダガーナイフを少年へと振りかぶる。

 ……しかし、ダガーナイフが突き刺さったのは少年の方ではなく、少女の方だった。


 ――少女は、咄嗟に前から抱きつく形で少年をかばったのだ。

 少女から流れ出る血が、二人を紅く染め上げていく……。


 歯を食いしばり涙を流しながらも、少年が無事でよかったと、少女は苦しそうに安堵を顔に浮かべた。少年は困惑し、ただ少女に抱きつかれることしかできない。

 その光景を眼前に、男は悦楽に浸っていた。


 つい先ほどまで悲鳴が上がっていた大通りは、不気味に静まりかえったのだった――。


 ――  ――  ――  ――  ――


「……最悪だ」


 俺はそうつぶやき、頭を抱えた。

 冬であるにもかかわらず、びっしょりと嫌な汗をかいていた。どうやら、うなされていたようである。


 夜中に焚き火に薪を新たにくべたり、魔物寄ってきたりして何度か起きたものの、まったくと言っていいほど疲れが取れていなかった。……いや、むしろ余計に疲れた気がする。

 俺はまだうっすらと燃えていた焚き火を踏んで消すと、聖王国がある方向へと歩き出した。


 いろいろとストレスを感じていたのか、悪夢を見てしまった。それも、トラウマになっているものをだ。

 ……本当に最悪だ。もう二度と思い出したくないのに、そう思えば思うほど余計に意識してしまう。


「……できるだけ早く聖王国に行こう、ここに長居するのはキツすぎる」


 俺は最大限に歩く速度を上げた。


 ――  ――  ――  ――  ――


 森の中に入ってから三日が経過した。

 特段なにか問題が起こるようなこともなく、旅路は順調である。

 ここにもある程度慣れてきて、最初の頃よりは恐怖や緊張は和らいだ。……まぁ、だからといってここに長居する気はないのだが。


「――ん? ……なんの臭いだ?」


 突如、なにかが腐敗したような深いな臭いがただよってきたため、俺は顔をしかめた。どうやら、この臭いは俺が行こうとしている方向からただよってきているようである。

 俺はその原因を確かめるために近づいてみることにした。


「……本当にひどいな」


 迂回しようかと考えていると、俺は臭いの元を見つけた。

 ――それは、四足歩行の魔物の死体だった。腐敗がかなり進んでおり、肉は(ただ)れてハエがたかってはいたが、なんとかその魔物の名前は判断することができた。


 この魔物は『ブレイブラーテル』というBランクの魔物だ。

 成体の体高は平均一・五メートルほどと大型で、性格はかなり凶暴で一切恐怖を感じることがないらしい。

 鋭利な爪から放たれる一撃の攻撃力の高さもさることながら、強靭かつ分厚い毛皮をまとっているために防御力はものすごく高く、かなり強力な魔物らしい。


 すでに死んでいたのが幸いだった。もし生きていたら苦戦を強いられたのは間違いないだろう。

 だが、なぜかブレイブラーテルは()()()()()死んでいた。


 死体を回収しておこうかとも考えたが、触るのはためらわれたのでやめておいた。

 俺は原因を特定できたので、死体を大回りしながら足早にその場から立ち去ろうとする。しかし――。


「なっ!?」


 突然ブレイブラーテルの死体は独りでに動き出し、俺に前足を振り下ろしてきた。俺はそれをすんでのところでよける。

 ズドンッ! という鈍い音が周囲に響き、攻撃の反動でブレイブラーテルの体のいたる所から赤黒い液体が零れ落ちた。


「…………」


 ブレイブラーテルは一切声を発することはなく、俺を凝視してくる。だが、その目は通常の生物のものではなかった。

 ブレイブラーテルの目には眼球がなく、代わりとでも言うのか不気味な赤い光の玉が眼窩に存在していた。そして、生物であれば必要不可欠である呼吸を一切行っていなかった。


「……なるほど、『アンデッド』か」


 アンデッドとは、すでに死んでいたり無生物であるにもかかわらず活動する者たちのことの総称だ。

 いまだに解明されていないことも多いが、生前に未練があったり強い怨みを抱いたまま死ぬことで、アンデッドになると言われている。そのため、人間の死体は教会で浄化とやらをするのが義務付けられているらしく、町中で発生することはまずないらしい。

 ただなにもせずに放っておくと、アンデッドになる確率がかなり高まるらしい。自然界ではまれに自然発生することもあるそうだ。


 アンデッドは総じて怪力で、痛みも感じることはないのでかなり危険だ。当然毒は一切効かず、生者に対して効果的な攻撃はほぼ通用しない。

 しかし、アンデッドにも弱点はある。それは、アンデッドとなることで体内に生成される『アンデッドコア』と呼ばれる宝石のようなものを破壊することだ。


 アンデッドコアはその名の通り、アンデッドの中核となるものだ。これを破壊することにより、アンデッドは活動することができなくなる。

 だが、コアのある場所はその個体によってまちまちであり、肉が完全に腐り落ちていないかぎりはどこにあるか非常にわかりづらい。


 ブレイブラーテルは急に動き出すと、俺を鋭い爪で斬り裂こうと前足を横薙ぎに振るう。

 俺はそれよけると、お返しにファイアボールを五発打ち込んだ。

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