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人を殺すということ

 元来た方向へ引き返し、しばらくして石畳に戻ってくることができた。


 ここから見て遺跡は高い山がある方向にあったはずだ。なので、進むべき方向はその逆となる。

 俺は山を背に再び歩き出した。



 三時間ほど歩いた頃だろうか? 俺の視界に町が見えてきた。

 町の周りには分厚く高い城壁がそびえ立っていた。もしかして、あれくらいしないと安全を確保できないくらい危険なのか? この世界は。

 

「おぉ……これなら今日中に到着できそうだな」


 口から自然と感嘆の声が漏れた。


 さらに歩き、しばらくして綺麗に舗装された大きな道に出ることができた。

 そして、町が見えた方向へとまた歩き出す。



 それから三十分ほど経った頃か。

 歩いていると、唐突に俺の前と後ろに三人ずつみすぼらしい格好をした男たちが立ちふさがった。

 髪はぼさぼさで髭は伸び放題になっており、服もかなり汚れている。

 明らかにまともな人間じゃない。


「おいガキ、金目の物をすべてこちらに渡せ。そうすりゃ、見逃してやらぁ」


 前にいた顔が傷だらけでブロードソードを持った男が話しかけてきた。

 男は気持ちの悪い笑みを浮かべると、そのまわりいた男たちもヘラヘラと笑い出す。

 なんだこいつら? ……ていうか、ちゃんと言葉は分かるんだな。


「悪いがなにを言ってるのかよく分からなかった。要するに、お前たちは盗賊かなんかか?」

「おう、確かにそうだ。だが、だったらどうする? 早く金目の物を出した方が身のためだぞ?」


 男はそう言うと、ブロードソードの切っ先を俺に向けた。

 わかりきっていることだが、聞いておかなければならないことがある。


「俺が出さなかったらどうする気なんだ?」

「はっ! そんなの決まってんじゃねぇか。――殺して奪うのみよ」


 男はさも当たり前かのように言う。周りにいた男たちも、各々の武器を俺に向けた。

 愚問愚答だったな。聞くだけ無駄だったか。


「……そうか、残念だ」

「そうだ、さっさとだしゃあいてぇ真似はしねぇ――」

「どうやら、お前たちを殺さないといけないらしいな」


 俺の言葉を聞いた盗賊たちは、なにを言われたのか最初は分からなかったようだ。しかし、次第に俺が言った言葉の意味を理解し、俺を睨みながら武器をにぎる力を強めた。


「……てめぇ、自分がどういう状況かわかってんのか?」

「あぁ、もちろん」


 俺は敵が化け物であろうとも人であろうとも、容赦する気は一切ない。

 誰がおとなしく殺されるのだろうか? こいつらを見てると、反吐が出そうだ。


「それに……人から物を奪ってその上殺そうとしているんだ、お前たちも死ぬ覚悟くらいあるんだろ?」


 なんの代償もなしに人の命が奪えるはずがない。それが無理やり殺そうとしているのならば、なおさらだ。


「あぁっ!? 俺たちゃ六人もいるんだぞ!? てめぇになにができる!?」

「やってみればわかるんじゃないか?」


 俺がそういうと、男は我慢の限界に達したのか走り出しブロードソードを振り上げた。


「クソガキがぁっ!! 死にやがれっ!!」


 男は憤怒に顔を染めながら、ブロードソードを振り下ろす。

 しかし、俺は男のブロードソードが振り下ろされる前にバスタードソードを取り出し、男の両腕と首を切断した。

 ……相も変わらず、この手に絡みつくような感覚は最悪だな。


「なぁっ!? 嘘だろ!?」


 盗賊の一人がそう叫ぶ。ほかの盗賊は声を出すことさえできない。

 なんだ、優勢な時だけいい気になる臆病者か。


「来ないのか? さっきまでの威勢はどうした?」

「ひぃっ……!」


 バスタードソードをむけると、盗賊たちは一目散に逃げ出した。

 俺はバスターソードを収納すると、両手を別々の方向に逃げる盗賊に向けた。そして、魔法を発動する。


「ロックシュート!」


 俺は《ロックシュート》という岩を打ちだす魔法を使い、五つの岩を作り上げた。そして、盗賊たちの頭部に向けて射出する。

 岩はまっすぐと飛んでいき、すべて命中した。盗賊たちの頭は砕け散り、あたりに強烈な血の臭いがただよう。


 ある程度魔法に慣れてきたので攻撃魔法を使ってみたが、うまくいったな。ぶっつけ本番だったが、失敗しなくてよかった。


「……血をかぶってしまったか」


 頬に触れて手を見てみると、べったりと血がついていた。

 俺は自身にクリーンを掛けて体に付着した血を洗い流す。


 ――やっぱり、ろくな人間じゃなかったな。

 大人数で周囲をかこみ、金品を要求する。そして、従わなければ殺して奪い取る。

 ……なんて残忍で、冷酷で、非道で、そして酷く人間性に欠けたゴミのような行いなんだろうか。


 盗賊をしているような奴らにろくな人間はいなかった。

 なにかしらの事情があり、生活に困窮しているのかと思ったが、そんなことは全くなかった。

 あれは完全に人を殺す事を楽しんでいる目だった。

 あの様子だと、命令に従っていたとしても最終的には殺す予定だったんじゃないだろうか?


 これは俺の経験則だが、人を殺して平気でいられる奴らにろくな人間はいない。

 そういう奴らは総じて頭がどこかおかしいのだ。


 確かに人というのは条件さえ整ってしまえば、誰でも冷酷で非人道的な行いをすることができる。これは、すでに『ミルグラム実験』や『スタンフォード監獄実験』で証明されたことだ。

 しかし、『なんのためらいもなく人を殺せる』というのとは、わけが違うのだ。


 いくらなんでも、全員が全員殺人に楽しみを見出せるかと言われれば、それは否だろう。

 だが、楽しむことができずとも、人を殺して平気でいられるというのは、充分頭がおかしいと言える。

 ――まぁ、俺も人のことを言えないんだが。


「……流石に、このままだとまずいよな」


 俺のまわりには盗賊たちの死体や、砕け散った頭部の破片などが散乱していた。

 バスターソードをストレージから出すと、俺はそれを使って盗賊たちの死体をストレージに収納する。

 そして、あたり一帯に《クリーン》を掛けて、周囲をきれいにした。


 死体はまた今度どうにかしないとな。流石にずっとストレージの中に入ってるのは嫌だし。


 俺は周囲を一瞥し、町の方へと歩き始めた。

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