森の中で
「――本当に行くつもりなの?」
「危険と聞いたことがあるので、私はおすすめはしませんが……」
俺たちの姿は王都の外にある森の近くにあった。なぜこんな場所にいるのかというと、俺がファーガス聖王国に行くためだ。
どうやら、聖王国には街道を使うよりも王都近くの森を突っ切った方が早いらしい。なので、俺は危険を承知で森を突っ切ることにしたのだ。
それと、二人には聖王国に調べ物をしに行くとだけ伝えている。
……まぁ、あながち間違いではないしな、別に嘘を言ったわけではない。
「大丈夫だ、森に生息している魔物は大体調べてきたからな」
事前に今から入ろうとしている森に生息している魔物や地形などは調べてある。なにか不測の事態が起きないかぎり、危険な事にはならないはずだ。
それに地図も買っておいたので、迷うこともないだろう。
「あーそれと……悪いな、別行動になって」
「……まぁ別にいいけど、もうすぐ冬なんだから雪が降る前には帰ってきなさいよ」
「あぁ、それはわかってる」
「ソータさん、冬は冬眠できずに凶暴化した魔物などがいることもありますので、帰り際には充分気をつけてくださいね」
一通り二人と話したあと、俺は別れを告げながら森の中へと入っていった。
冬が近いというのもあるが、早朝というのも相まってかなり森の中は冷え込んでいた。ただ、凍えるほど寒いということはない。
これくらいならまだ我慢できるので、なにか特別対策は必要ないだろう。
俺はある程度森の中に入り周囲に誰もいないのを確認すると、ストレージから『偽りの仮面』を取り出した。
今回も犯罪行為を行うことになるので、偽りの仮面を使用することにしたのだ。
最近では偽りの仮面を使用することに慣れたのか、使用時に不快感や痛みを感じることがなくなっていた。それがいいことなのかは知らないが。
偽りの仮面を顔に貼り付け、魔力を流す。すると、意図せずに魔力の煙が発生し、俺の体を包み込んだ。
しばらくすると、煙は俺の体に吸い込まれるようにして消えていく。俺は偽りの仮面が無事発動したのを確認すると、ファーガス聖王国を目指して歩き出した。
聖王国へは、このルートで片道約五日ほどの道のりとなる。そのため、必然的に野営をすることとなった。
魑魅魍魎が闊歩する森の中で無防備に睡眠をとることなどできるはずがないので、必然的にその対策が必要になる。……しかし、その対策としてはできることは寝ないか、もしくは仲間を連れて交代交代に寝るくらいしかないのだ。
俺にできるのは寝ないことぐらいだ。だが、一日二日ならなんとかなるだろうが、さすがに五日ともなるとそういうわけにもいかないだろう。
おそらくは三日目か四日目で必ず限界が来る。なので、寝ないという案は却下だ。
ではどうするかという話だが、俺はつねに警戒しながら寝ることにした。
対策になっていないと言われればそれまでだが、俺の頭ではこれが限界だった。
深く寝すぎて魔物に殺されたら目も当てられないので、本当に浅くしか眠ることができないだろう。しかし、寝ないよりは圧倒的にましであるはずだ。
俺は周囲を警戒しながら、じわじわと温かくなってきた森の中を歩いて行く――。
―― ―― ―― ―― ――
森の中を歩いていると魔物に遭遇することがあるわけで、俺は数度ほど魔物に遭遇することとなった。ただ今回は移動が目的のため、魔物はある程度無視することにしている。
魔物に見つからないように移動したり、こちらの姿を見て逃げ出したものは追わなかったりと、あくまでも移動を優先していた。しかし、そうやっていても戦闘になる事がある。
「――ギィーッ!!」
俺は大型犬ほどもあるリスのような魔物の振り回された尻尾をよけ、その動作のままリスの首を冥府の短剣で斬り裂いた。
リスはバタバタと暴れだしたが、しばらくするとそのまま動かなくなる。
こいつは、『バイオレントテイル』というリスのような魔物だ。
ランクはCで別にそこまで脅威ということはないが、尻尾の毛がまるで剣のように鋭いため、それなりに危険な魔物である。だが、近づくことさえできれば尻尾の攻撃がとどきにくくなるため、やはりそこまで脅威ではない。
まぁ、この世界に来たばかりの頃に遭遇していたら、最悪の場合死にかねないほど強いのだが。
……そう考えれば、ここにきたばかりの頃に比べたら俺はかなり強くなったな。
今ならCランクくらいの魔物ならば、余裕を持って戦うことができるようになったしな。初戦のスケルトンとは大違いだ。
俺はバイオレントテイルの死体をストレージに収納すると、再び歩き出した。
すでに森に入ってから十時間ほどが経過しており、人工物は完全に見ることができなくなっている。
ただそうは言っても、たまに焚火の後なんかを見つけたこともあったが。
俺はできるだけ早く聖王国へと到着するために、歩く速度を少し早めた。
――日がしずみ始め、あたりは暗くなりだしている。
俺は野営のために適当な場所を選ぶと、夜を越す準備を始めた。
……と言っても、やることは木の枝を集めてそれを組んで火をつけたりと、特に変ったことはない。しいて言えばこの体だと食事が必要ないので、なにも食べていない事かくらいか。
しかし一人で暗い森の中にいるというのは、かなり心細い。いるはずがないのに、何者かがずっとこちらを見ているかのような錯覚に苛まれ、どんどんと不安になってくる。
思えば、これまでに夜の野外に一人でいるなんて経験はほとんどなかった。
そんなことを考えてしまうと、よけいに落ち着かなくなってくる。孤独感や絶望感に近しいものを感じ始めた。
「……さっさと寝よう」
俺は焚き火に追加の薪をくべると、木を背もたれにして周囲の様子に気を配りながら目を閉じたのだった。




