表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/396

帰還方法

 夕陽が窓から差し込み、部屋をあわく照らしだす。そんな一種幻想的な場所で、俺は本を読んでいた。


 ここは王都にある図書館だ。

 なんでもチェイスにある図書館よりも蔵書数が圧倒的に多いそうで、国王との対談の話題に出てきたときに興味がわいたので、対談が終わった後にさっそくよってみたのだ。


 三階建てであり中はかなり広く、目当ての本を見つけるのはかなりむずかしい。なので司書にも少し協力してもらい、やっとの思いで見つけることに成功したのだ。


 その目当ての本というのは、転移者や転生者について詳しく書かれた本のことだ。なぜそれを探しているのかといえば、元居た世界に帰る方法を知るためだである。

 これまでに何度か調べたことがあったので、ある程度のことはすでに知っているのだが、今回はもっと深く調べることにした。



 結論から言うと――元の世界に帰る方法はない。



 ……いや、まだ判明していないだけで何かしらの方法が存在する可能性はあるが、その可能性はゼロに等しい。

 なぜなら、どうやらこの分野はすでにあらかた研究されているらしく、新たになにか判明する可能性は低いそうなのだ。


 数百年ほど研究されていたみたいだが、その成果はほぼ無いに等しい。

 いまだに転移者や転生者がこちらの世界に来る原因も判明していないし、元居た世界に戻れたという実例も皆無だ。

 そういうこともあってか、この分野を現在も研究している者はほぼいないという話だである。


 ただ、少なからず成果はあった。なんでも今もこの分野を研究している機関があるらしいのだ。

 そこで調べてみると、ある程度の情報を手に入れることができた。

 どうやらすでに研究は打ち切られているらしいが、新たにいくつかの発見があったというのだ。


 その機関のある場所は、『ファーガス聖王国』の中央研究所という所だった。

 たしか鉱物資源も採掘する事ができ土壌も肥沃(ひよく)で、中々に裕福な国だったはずだ。黒い噂は聞かないどころか、各国で強力な魔物が暴れた際には『勇者』を派遣したりしていて、かなりの知名度と人気がある国だ。


 残念なことに研究成果は開示されていないらしく、閲覧するにはそれなりの身分や理由が必要になるらしい。

 だが、俺ではどの条件も満たせそうにない。しかし、どうしてもその情報を見たいのだ。


 なので、ここは『()()()()』で行こうと思っている。

 ……まぁ、別に大した作戦ではない。ただこそこそと侵入して、少し資料を見せてもらうだけだ。

 普通に犯罪ではあるが、悪用する気は毛頭ないので大事にはならないだろう。それに、ばれなければいいだけである。



「――ソータ、そろそろ暗くなるわよ。宿に帰りましょう?」

「……ん、あぁ。すまないが先に帰っててくれないか? まだもう少し時間がかかりそうなんだ」


 本を読んでいるとアリスが俺のとなりの席に座ったので、本を机に置く。

 図書館にはアリス俺のと二人で来ていた。アリスもここに興味があったらしく、俺についてきたのだ。


 俺は窓の外を見た。

 日は落ちており星もまだ(またた)かず、宵闇(よいやみ)が空を染め上げていた。


「そういえば聞いていなかったけど、何について調べているの?」

「ん? 言っていなかったか?」

「えぇ、図書館に着いたら一目散に本棚の方に行ったんだもの、聞く暇なんてなかったわ」

「あー……すまん、つい興味があってな」


 アリスには悪いことをしたな。テンションが上がってて目先のことしか考えていなかった。


「別にいいわよ。それで、どんなことを調べていたの?」

「これだ」


 俺は積み上げていた本の一冊をとり、アリスにその表紙を見せた。そこには、『異世界人の存在と定義』というタイトルが書かれている。

 この本は異世界人が元居た世界に帰れるかということや、この世界の者でもあちらの世界に行けるかということを研究した資料集のようなものだった。


「へぇ、なんでこの本を見ていたの?」

「元居た世界に帰る方法や、帰ることができた実例を探していたんだ」

「……え? それってもしかして……ソータは元の世界に帰る気なの?」


 アリスはそう言うと、俺の服のそでをつまんできた。そして、顔には不安そうな表情を浮かべている。


 ちなみにではあるが、今はいつものイグネイシャスに作ってもらった『黒白の鎧』ではなく、布で作られた普通の私服を着ていた。

 少し気分転換するために、戦闘関連のことを一時的に遠ざけた次第だ。


「い、いや、別にそういうわけじゃないんだ。帰れるか調べていたのはただの興味本位なんだ」

「そ、そうなの?」

「あぁ、正直帰る気なんてまったくない。今の環境に満足しているからな」


 確かに元居た世界には少なからず未練がある。両親や知り合いになにも言わずにこちらの世界にきてしまったこととかな。

 しかし、それを踏まえても帰る気にはなれないのだ。


 俺は心からこの世界を受け入れる気である。

 確かに最初は戸惑った。しかし、この世界で暮らせば暮らすほど、ここが好きになっていったのだ。

 つらいこともあるが、それを加味しても帰るなんて選択肢はとっくに消え失せていた。


「それに、元居た世界には退屈してたし、いろんなことにうんざりしていたからな。だから……ある意味ここは俺の理想郷なんだよ」

「ふふっ、ここが理想郷って前はいったいどんな場所に住んでいたのよ」


 アリスは小さく笑った。先ほどの不安そうな様子の面影はなく、今はただ楽しそうだった。


「そうだな……退屈な場所だったな。窮屈で、ずっと自分を殺していたんだ」


 ――本当に退屈だった。

 対して面白味のない日々だったが、ここに来てからはすべてが新鮮に見えた。毎日が刺激的で、退屈はしなかった。

 だからこそ、この世界来て本当によかったと思っている。


「……そこまでなの?」

「あぁ、普通ではない者は仲間はずれにされ、軽蔑される。そんな世の中だ」


 『出る杭は打たれる』。その言葉通り、秀でた者や目立った者は憎まれる。そうではないように見えても、どこかでは確実に憎まれているのだ。

 人は自分と違う者にはあまりいい感情をおぼえないものである。優れた才能なんかを持つ者は嫉妬や憎悪を向けられ、劣った者には侮蔑し嘲笑する。

 俺は何度もそんな目にあってきた。だから、わかる。


「それ、ここでも変わらないんじゃない?」

「まぁそうなんだが、程度が違うんだ。あっちと比べればここはまだ気が楽なほうだ。――って、いいのか? 帰らなくて」


 長々と話し込んでしまったが、元々アリスが帰ろうと言ってきたんだったな。すっかり頭の中から消え失せていた。


「そういえばそうね、ソータはまだここにいるつもりよね?」

「あぁ」

「じゃあ、私はソータが読み終えるまでここで待ってるわ」


 そう言うと、アリスは椅子に深く座りなおした。


「いいのか? 絶対退屈だぞ?」

「それがいいのよ、暇なことは大歓迎だわ。ソータだってそうでしょ?」

「っ……! ――まぁな」


 アリスはにこりとほほえみを浮かべた。

 俺は心音が早くなり顔が赤くなってくるのを感じたので、誤魔化すように本へと視線を向けたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ