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渾身の嘆き

「――クソ!! クソッ!!」


 がたがたと激しくゆれる馬車の中で、レナード帝国の第一皇子――カイル・メルキオール・ヒドルストンは、壁に手を打ちつけ怒りをあらわにしていた。

 現在、カイルは帝国に帰還しているところだった。ほかの兵士たちも、カイルの乗る馬車を追従するように馬車を走らせている。


 今回のベネット王国との戦争において、カイルは総大将として戦場に赴いていた。

 今年の戦争は例年の倍以上の規模で行うにあたり、帝国内の各地にいつも以上の人数領民を徴兵するように言い渡していた。

 もちろん、そんなことを一方的に言い渡せば不平不満がでるのは当たり前のことだ。しかしカイルは、『この戦争は必ず我々が勝つこととなる。故に、必ずや其方たちの利益に繋がると約束しよう』と、大勢の貴族の前で宣言したのである。


 『必ず勝つから』『必ず得をするから』、そんなことを言うカイルを信用し、貴族たちは協力することにした。領主である者は無理をしていつも以上に領民を徴兵し、ほかの者たちは利子付きで資金を提供したのだ。

 戦争に勝つことができずに利益がでなければ、カイルの信用はがた落ちである。


 カイルは次期皇帝の座を狙っており、着々と活動を続けていた。

 レナード帝国で皇帝になるには、とにかく自分が有能であることを広く周知させなければならない。そこに、前皇帝の子供だからというのは関係ないのだ。

 レナード帝国は完璧な実力主義で、血統はあまり重要視されていないのである。


「くそがっ!! なんでだよ!! ふざけるな、ふざけるなよ……っ!」


 カイルは今回の戦争に皇帝となるための命運をすべて託していた。

 成功しなければ次期皇帝の道は遠のく。絶対に成功させなければならなかったのだが――結果は散々だった。


 最初は順調だった。例年の倍以上の兵力を確保してベネット王国に進軍し、今までは一度も落とすことができなかったルーサーを陥落させることに成功したのだ。

 しかしルーサーの住民を虐殺し捕虜にして、ルーサーとフレッドの間にある平原に基地を構えたまではよかった。だが、ここからが問題だった。


 フレッドへと最初に攻め入る頃には、すでにベネット王国の各地から増援部隊がいくつか合流してしまっており、激しく抵抗されたため一時撤退した。だが、時間が経てば経つほどに増援部隊が合流していき、攻め入るのがためらわれた。


 こちらにも届いた増援を部隊に組み込み、準備を整えてフレッドに攻め込んだのだが、時はすでに遅かった。

 こちらの人数が前と比べてかなり増えたこともあり、最初はこちらが有利に事を運んでいた。しかし、実力者の大部分を突撃部隊に動員したのがいけなかった。

 本陣の守りを手薄にしたことで、王国軍の奇襲を許してしまったのだ。


 奇襲の懸念があったため、王国軍の動向にはつねに気をかけていた。そのため、すぐに襲撃部隊の存在には気がついたのだ。

 しかしそれが数十人という人数だと聴いて、『あの転移者を送っておけばすぐにでも壊滅するだろう』という結論にいたり、実際に転移者を派遣した。

 転移者――高畑本人も余裕だと言っていたので、特に気にかけてはいなかった。だが、襲撃部隊の殲滅及び撃退を知らせる信号弾の魔法を一向に確認することができなかったのだ。


 高畑の性格はお世辞にも良いとは言えないものだったが、戦闘に関する筋はよく、ぐんぐんと実力を伸ばしていったために解雇や処分にはいたらなかった。

 元々はカイルの父親であるリロイの部下であったが、そのリロイが何者かに暗殺されたためカイルが自分の部下に引き入れたのだ。

 

 地位や名誉、そして金や女につられてカイルの部下となった男だったが、使い勝手はよかったのでそれなりに重宝されていた。……度々問題を起こしてはいたのだが。


 そんな実力だけはある高畑がしばらく音沙汰ないのはおかしいと思い、調査部隊を送ったのだが、それは一足遅かった。

 気づいたころには本陣のテント群に火が放たれており、襲撃部隊と衝突する羽目になった。しかし当然と言うべきか、戦力のほとんどを出払った状態で王国軍の精鋭と対等に戦うことなど到底できず、撤退を余儀なくされたのだ。


「っ……!」


 カイルは焦燥感により顔を歪め、拳を強く握りしめた。

 今回の影響でカイルの名声は地に落ちたも同然だ。なにかしらの手を打たねばならないが、以後の活動で信用を当てにして行動するのは難しい。帝国へと帰ったとしても、多方面から非難の声が殺到するのは避けられないだろう。

 それほどの失態を今回はしてしまったのだ。これを挽回するのには多大な時間を要する。


 次期皇帝候補者はカイルのほかにも三人もいるのだ。うち二人はどうとでもなりそうだが、もう一人は一筋縄では行かないような相手だ。

 カイルともう一人も優秀で、かなりの支持を得ているのだ。裏から何度か消そうとしたのだが、未だに抹殺にはいたっていない。


 カイルは思考を巡らせるが、全く妙案が浮かんでこなかった。

 『八方塞がり』、そんな言葉が脳裏をよぎる。どんな行動をとったとしても、とてもいい結果になるとは思えなかった。


「ふぅ……落ち着け、じっくりと考えればなにか策は思いつくはずだ」


 カイルはため息をつき、深い思考へと落ちていった。

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