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模擬戦

 俺は宿にある庭でバスタードソードを素振りしていた。

 別にやりたいこともなく暇だったため、『とりあえず素振りでもするか』という軽い気持ちで始めた次第だ。


 ここは襲撃部隊の者に割り当てられた宿だ。俺たちのほかには誰も泊まっておらず、貸切状態である。

 クラスとしては一般的な宿で、特に不満な点はない。


 ……あと全く思い出したくはないのだが、素振りをしてると昔のことを思い出すんだよな。まぁ、今は剣を振るう理由があるだけましにはなっているか。


「――おっ! 早速やってんじゃねぇか!」


 俺が素振りをしていると、ロングソードを携えた男が俺に話しかけてきた。確か、名前は『ヴァル』だったか。

 王都を拠点にしているAランク冒険者であり、魔法をある程度使うことができるらしい。そして携えているロングソードの腕も一流で、王都ではそこそこ名の売れた冒険者だそうだ。


「あんたも素振りをしに来たのか?」


 現在の時刻は、日もまだのぼって間もない早朝。

 昨日は深夜まで説明会が続いたため、現在起きている者は少ない。かく言う俺も、少し前に起きたばかりなのだが。


「……まぁそのつもりだったんだが、ちょっと気が変わった。お前、少し模擬戦をしねぇか? 相手になってほしいんだ」

「また急な話だな……まぁ、ずっと素振りをしているのもなんだし、それくらいならつき合ってもいいが」

「あぁ、助かるぜ。えっと、あー……すまない、お前の名前ってなんだったか」


 こいつ……きのう一度襲撃部隊の者たち全員で自己紹介をしただろうに。なんでこんな短期間で忘れるんだ。


「ソータだよ、忘れんな」

「あーそうそう!! ソータだソータ! すまんすまん!」


 ヴァルは手を合わせながら苦笑を浮かべた。

 どうでもいいことだが、こいつはずっとテンション高いな。なんでそんなに楽しそうなんだか。


「……む、先客か」


 そんなことをしていると、もう一人庭へ剣を携えた者が出てきた。

 ミスリル製のフルプレートアーマーを身にまとい、カシャカシャと鎧の擦れる音を立てながら出てきたのは、『へクター』という男。その手には昨日は持っていなかった、高級そうなロングソードを携えていた。

 この男も王都を拠点にしている冒険者で、ランクはAだったはずだ。


「おぉ、鎧か! すまないが、いまからこいつと模擬戦をするから、素振りをするなら端の方でやってくれるか?」

「……了解した」


 へクターは特に文句を言うことなく、庭の端へと歩いて行った。

 鎧って……身も蓋もないな。あと、やっぱり名前はおぼえていないのか……。


「よしっ! そんじゃあ早速やんぞ!」

「あぁ、わかった」


 俺たちは互いに離れて距離をとり、剣を構えにらみ合った。

 しかし俺たちはしばらくしても一向に動かない……というか、動けない。ヴァルに斬り込む隙はほとんどないのだ。

 少し目を離しただけで相手のペースに飲み込まれる。そう確信するほどの『覇気』とも呼べる圧力が、ひしひしと伝わってきた。


「……このままじゃ埒が明かないな。よし、なら俺からいくぞっ!!」


 ヴァルは痺れを切らしたのか、自ら走り出した。俺はバスタードソードの両端を持ち、受けの構えをとる。

 俺のバスタードソードとヴァルのロングソードがぶつかり、あたりに金属音を響かせた。俺の体を狙うことなくバスタードソードに打ちつけたのは、最初の手慣らしだからか。

 ヴァルは連撃を放ち、次第にロングソードを打ちつける速度を上げていく。


「そろそろ真面目にいくぞっ!!」

「――っ!」


 ロングソードの軌道が急に変わり、ヴァルは俺の手首めがけて突きを放った。俺はそれを防ぐと、ヴァルの腹部を蹴って距離をとる。


「ぐっ! そうだよ、そう来なくっちゃなっ!!」


 ヴァルはなぜか蹴られた事に歓喜の声を上げた。……マゾなのか? いや、そんなことはないか。

 今度は俺がヴァルにバスタードソードを振るう。しかし、ヴァルはそれを横へと受け流した。攻撃を受け流すのが俺の何倍も上手い。


「よし、もらった!!」


 ヴァルは体勢を崩した俺に追撃を始める。しかし俺は《転移魔法》を使い、ぎりぎりのところでそれをかわした。


「なっ!? それはズルだろ!」

「模擬戦なんだし、相手を殺してしまうような魔法以外なら使っても別に問題ないだろ?」


 転移魔法は回避不可能な攻撃をよけるときや、隙をつくるためなんかにしか使うことはない。魔力を結構消費するからな、ここぞというときにしか使わないことにしているのだ。


「まぁ、確かにそうなんだが……なんか釈然としねぇな」


 ヴァルはロングソードを構えなおした。



 俺たちは一向に決着がつかず、三十分ほど模擬戦を続けていた。

 双方にあまり力量差がなく、決め手に欠けるのだ。というか、途中からある程度相手の行動パターンがよめてしまって、対処がパターン化していた。

 正直に言って……しんどい。そろそろ集中力も限界である。


「――お前たち、そこまでだ」


 そんな俺たちを見て、へクターが模擬戦をやめさせた。

 ヘクターの言葉に、俺たちは糸が切れたように地面に座り込んだ。


「こうも模擬戦で決着がつかなかったのは初めてだな……」

「まぁ、よかったではないか。これで双方のことがよく知れたであろう?」

「それはそれでいいんだが、ものすごい疲れたぜ」


 結局、この後に素振りをするような元気もなく、俺とヴァルは宿の中へと帰っていった。

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