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現在の戦況

「――それでは、現在の戦況を説明させていただきます」


 品のいいプレートアーマーをまとったフレッドの副騎士団長が、部屋の中にいる全員にしっかりと聞こえるよう大きな声を上げた。


 現在俺たちがいる場所は、フレッドにある領主館の大きな一室だ。

 普段はパーティーを行う際に使われている部屋らしいが、今はそこに武装した者たちが全長二十メートルほどもある長方形テーブルに腰掛けていた。ここに座っている者たちは全員がある程度の強さを有しているか、一定以上の地位に就いている者たちである。


 帝国軍の基地を襲撃する作戦には俺たちだけではなく、ほかの者も参加することになっている。各町の冒険者や騎士などの中から、選び抜かれた精鋭だけが参加することになっているのだ。

 チェイスからはクレア以外にも、もう一人Bランクの冒険者が参加するらしい。


 襲撃作戦に参加する者たちは、必ずこの説明会に出席することが義務づけられている。なので、俺たちのパーティーもこの説明会に出席することが許された。

 ……というか、強制的に出席させられたのだ。


「まず、戦況はあまりよろしくありません。昨日(さくじつ)の日暮れごろ、帝国軍にも増援部隊が合流しました。人数はおよそ十万人ほどのようです」


 元々いた帝国軍二十万に、増援部隊が加わったことによって三十万になったと……。

 本当に、レナード帝国は本気でベネット王国を陥落(かんらく)させるつもりらしいな。


「対して、我ら王国軍はこの町の既存の軍や冒険者を合わせた二万に、全ての増援部隊を合わせても、十六万にしかなりません。あまりにも戦力差があり過ぎます」

「……なぁ、ベネット王国には帝国のやつらよりも強いのが多いだろ? それでも帝国に勝つのは厳しいのか?」


 ロングソードを携えた冒険者が手を挙げて、副騎士団長に疑問を口にした。


「確かに王国の冒険者や騎士の平均的な強さは、帝国を上回ります。ですが、帝国はそれを容易にくつがえすことの戦力を動員してきているのです。それに、帝国軍には例の『転移者』がいます。いくらなんでも、戦力差があり過ぎるんです」

「……なるほど、帝国軍の本陣を襲撃することになったのは、そういうことか」


 一人の冒険者が副騎士団長へと確認するようにつぶいた。

 男はミスリル製のフルプレートアーマーをまとっており、頭部にはヘルムをかぶっているため声がくぐもっている。


「はい、そうです。ではそれをふまえて説明を続けさせていただきます。実は五日前に一度、帝国軍がこちらに攻めてきていました。そのときに攻めてきたは帝国軍の人数はおよそ十万で、私たちもそれを迎え撃ちました。双方被害は出ましたが、帝国軍の死傷者はおよそ三千人ほどに対し、我々は千人に満たない人数ではありました。ですが双方の規模を考えた場合、我々の方が受けた被害は大きいのです」


 ……なるほど、百人の内十人が死ぬのと千人の内五十人が死ぬのでは、百人の方が一見被害が少ないように見える。しかし割合で考えてみれば、千人の方が被害は少ないのだ。

 このままの状態がじりじりと続けば、確実に王国側が押し負けるだろう。


「増援部隊がこちらに合流し戦力は増していますが、今の状態を停滞させるのはいたずらに被害が増やすだけでしょう。ですので、これを打破するために帝国軍の本陣を襲撃することになりました。それにはこの説明会にも参加していただいた、二十四名の方々に遂行していただきます」


 副騎士団長の言葉を聞いた者たちの視線が俺たちに向いた。その視線には、強い期待が込められている。


「全員が冒険者でいうBからAランクほどの強さを有していますので、甚大な被害をあたえるか壊滅は間違いありません。そうなれば、帝国軍は撤退せざるを得ないでしょう」

『おぉ……っ!』


 その場に感嘆の声が上がった。

 そこまで期待してもらえるのはうれしいが、あまりに期待されると失敗しそうで怖いんだが……。


「大体はわかったんだが、実行するのはいつなんだ? それに、まさか俺たちだけで帝国軍に突っ込め、なんて言わないよな?」


 襲撃作戦に参加する冒険者の一人が副騎士団長に鋭い目を向けた。


「それに関しては安心してください。作戦は帝国軍が本気でこちらに仕掛けてきたときに行います。それはなぜかと言うと、できるだけ本陣に兵士が少ないときに実行したいからです。帝国軍の大部分がフレッドに集中している際に襲撃すれば、抵抗は最小限にできるはずですので」

「……ならいいけどよ」


 確かにフレッドに攻撃を集中させていれば、本陣の防御は薄くなるだろう。そうなれば作戦が上手くいく確率は上がるはずだ。


「……おい、私たちが本陣を襲撃している間、こちらは敵の侵攻を防ぐことはできるのか? ただでさえ戦力は少ないが、それは承知の上か?」


 ヘルムをかぶった男が、くぐもった声で副騎士団長に問いかけた。


「はい、このままの状態が続くのは絶対にさけたいのです。ですので、リスクを(おか)してでも実行すべきである、と私たちは考えています。それに、いくら優先的に実力者を襲撃部隊に配属させたとしても、致命的なまでの戦力差が生じるわけではありません。厳しい戦いにはなるでしょうが、襲撃作戦が実行されている間くらいは持ちこたえることは可能でしょう」

「……了解した」

「増援部隊はまだあと何組か来るはずです。帝国軍が本腰を入れてこなければ作戦は実行されませんが、いつ帝国軍が侵攻してくるか見当がつきません。ですので、いつでも作戦を開始できるよう準備を整えておいてください。では、次にそれぞれの待機場所などについて説明いたします」


 副騎士団長はそう言うと、資料をいくつか取り出した。説明会は深夜まで続いたのだった。

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