二人の考察
秋気のただよう森の中、そこに引かれた街道には馬車が列をなして走っていた。
馬車に乗っているのは、全員がレナード帝国との戦争に参戦する増援部隊の者たちだ。
人数はおよそ八千。内訳は騎士が三千五百に、冒険者が四千五百。
今回はベヒモス討伐のときと違って相手は数が多く、強さは千差万別なのであまり強くない者でも参加することができた。
ある程度強い相手でも、大人数で戦えば勝つこともできる。なのである程度戦い慣れしている者を集めて、戦場になっている場所まで馬車で移動することになったのだ。
今回は森の中を移動するわけではないので馬車を使うことができるのだが、当然馬車や馬の数にも限りがある。そのため、最大でも八千人しか参加することができなかった。
俺は馬車に揺られながら本を読んでいた。
高級な部類に入る馬車らしく、揺れはあまり激しくない。ただ、いくら高級と言ってもそれなりには揺れるのだが。
「――それにしても、急に皇帝が暗殺されるなんて本当になにがあったのかしら?」
アルバニアと話していたアリスが、そう話題を切り出した。
「帝国内になにかしらの皇帝を恨んでいる組織があり、その者たちが暗殺したのか、はたまた本当に王国の何者かが暗殺したのか。いずれにしても、皇帝を恨んでいた者が実行した可能性がありますね」
「そうね」
「ですが、私はこの情報が発覚した経緯に気になる点があります。ライマン辺境伯の話によると、どうやら皇帝が暗殺されたというのは帝国の国民たちの多くが情報として知っているそうですね」
アベルから聞いた話によると、皇帝が暗殺されたという情報はレナード帝国が戦争を仕掛けてくる前に発覚していたらしい。ただ、皇帝が暗殺されたということ以外はあまりわかっていないそうだ。
暗殺にどのような方法が使われたのか、暗殺したのは何者なのか。
ベネット王国の間者が手に入れた情報は、あまり多くはないみたいだしな。
「普通は一国の王が暗殺されたとなれば、なにがなんでも隠し通そうとするはずです。しかし、今回はそれがなされていない」
「……つまり、それができない状況だった?」
「恐らくですがそうかと。内部の事を知っている者が民衆に流布したのか、それとも大勢の民衆の前で暗殺されたのか。ただ、どちらの場合でもすでに民衆に情報が広まってしまっていますと、箝口令を敷きどれだけ口外することを禁じたとしても、一度広まってしまった情報というのは簡単には消すことができません」
「なるほどね、そうなるともしかしたら今回の戦争は憂さ晴らしや国民の混乱を避けたりするためなんかの目的があるのかもしれないわね。自国の王を暗殺したのが何者かわからないよりは、ベネット王国の犯行と決めつけて国民の士気を上げて戦争を仕掛ける方が、国民の混乱は避けれるだろうしね」
アリスの言っていることは筋が通っており、信憑性がある。
確かにすでに隠し通すことができないのなら、開き直ってそれを利用した方が確実に利益が出るだろう。
実際にレナード帝国はベネット王国から町を一つ奪取することができた。それも、今まで一度も落とすことができなかった町をだ。
これはたびたび感じていることなのだが、二人は地頭がかなりいい。
俺が考えつかないような最適解をなんでもないかのように提案したり、俺がかなり考えないと思いつかないような答えにもすぐにたどり着くことができる。
あと、別段俺はコミュニケーション能力が高いわけではないのだが、二人は俺の数段も高いしな。
「ですね、それなら今まで以上の規模で戦争を仕掛けてきたのにも納得できます」
「まぁ、だとしてもベネット王国からしたら、レナード帝国は侵略国家であるという事実は変わらないんだけどね」
二人はこれから起こるだろう事を予想しあっている。
……よかった、本を読んでいて。この話に加わってしまったら、なんらかのボロが出そうだ。
俺が本を読んでいる間にも順調に馬車は進んでいき、気がつくとチェイスの隣町、バートンに着いていた。
―― ―― ―― ―― ――
チェイスから増援を送る際は必ずほかの町を通ることになる。
当然、チェイス以外のほかの町でも増援部隊が編成されている。そのため、チェイスは町を通る際にその町の部隊と合流し、行動を共にすることになっていた。
すでにいくつかの町を通過し、その町で編成されていた増援部隊と合流していた。
現在の人数は、合計四万五千。内訳は騎士が一万八千、冒険者が二万七千である。
その多くの者が冒険者でいうランクDほどの強さしかないが、中にはランクAの冒険者やそれに匹敵する強さを持つ騎士もいる。
「――あっ! ほら、見えてきたわよ!」
アリスが窓の外を指差す。
そこには、城壁に覆われた町があった。それと同時に、空は若干赤みがかっており、もう少しで日は沈むだろうこともわかった。
「あれが今回の拠点になる『フレッド』か」
「えぇ、ただこれといった特徴はないし、いたって普通の町なんだけどね」
俺はフレッドを眺める。だが、あることを疑問に思った。
「なぁ、なんでフレッドはあんな平原の端っこにあるんだ? 平原はまだまだ広いのに。なにもあんな端っこでなくてもいいと思うんだが」
フレッドは平原の中心から相当外れた場所にあり、森とかなり近い場所にあるのだ。
平原を全体的に使えば、もっと大きな町を作ることもできたはずだ。なぜあんな端っこに作ったのか、俺にはいまいち理解できなかった。
「あぁ、それはこの平原には水脈がほとんどないからですね。水脈がないと井戸を作ることができないですし、近くに川もないので水の確保が中心部では困難なんです。ですがフレッドがある場所には川が通っておりますので、水の確保が比較的容易にできるんですよ」
アルバニアがそんな豆知識を教えてくれた。
確かに、よく見れば平原は草地が広がっているのみで、川は一切見当たらなかった。
「水道を中心部まで敷けばソータさんが考えているようなこともできたでしょうが、そうなるとお金がいくらあっても足らないでしょう。資金は無限ではないですし、ここに有用な資源があるわけでもないですしね。国もここに有用性を見いだせなかったので資金援助がなされることなく、こうなったのかと」
なるほど、なにも有用なものがないならわざわざ金をかける必要はないのか。
まぁ、フレッドは主にルーサーへいくための中継地点として利用されているそうだからな。こんなときでなければ人は集まらないそうだし、利用価値はあまりないということか。
「そんなことよく知っているな」
「ふふっ、一応地理はある程度学んでいましたし、ベネット王国内でしたらある程度ですが自信がありますよ」
アルバニアは嬉しそうな笑みを浮かべた。
馬車は順調に進んでいき、しばらくするとフレッドに到着した。
実はレナード帝国に行く際に一度この町に寄ったことがあるのだが、そのときと比べてかなり物々しい。
城壁の上には兵士が相当数おり、城門も固く閉ざされている。
「やっぱり、かなり物々しいわね」
「そうですね、やはり帝国軍が平原に居座っているのが影響していますか」
平原の向こうには帝国軍のテントが立っていた。
薄っすらとしか見えないが、その数はとても数え切れるようなものではない。その光景は、帝国軍がどれほどの規模なのかを如実に表していた。
俺たちが話をしている間に、フレッドの兵士と増援部隊の間でなんらかの話し合いが行われていた。しかしそれがそれがひと段落したのか、城門が開けられた。
増援部隊の者たちがぞろぞろとフレッドの中へと入っていく。俺たちの乗っている馬車もそれについて行った。




