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自らが蒔いた種

 初秋に入り、最近は全体的に気温が下がってきた。昼間は残暑がまだ残ってはいるが、朝方はそれなりに涼しくなってきている。


 俺たちは屋敷のリビングでくつろいでいたのだが、領主館から急に使いがやって来た。なんでも緊急の用事らしい。

 用意されていた馬車に乗って領主館へ向かう。そして、しばらくすると馬車は止まり、扉が開かれた。


「到着いたしました」


 御者をしていた男によって開かれた扉から外へと出る。そして案内役のメイドに従って館を歩きたどり着いたのは、前に一度通されたことのある客間だった。


「領主様をお呼びしてきます、少々お待ちください」


 俺たちがソファーに座るとメイドは部屋から出ていった。


「急に呼び出すなんて、本当になんの用なのかしら?」

「使いの方に聞いても知らないようでしたからね」


 前に待たされたときはクッキーと紅茶を出されたのだが、今回はそれが出されていない。それほど忙しいのか、それとも単に忘れているだけか。

 しばらく窓の外を眺めていると、唐突に扉が数度叩かれた。


「失礼する」


 声の主はそう言うと、中へと入ってきた。その体は引き締まっており、まるで戦士のようである。


「ひさしぶりだな、アベル」

「あぁ、数か月ぶりだな」


 入ってきたのはこの町の領主、『アベル・ライマン』だった。


「おひさしぶりです、ライマン辺境伯」

「ご無沙汰しております」


 アリスとアルバニアがアベルに頭を下げた。どうやら二人はアベルに会ったことがあったらしい。


「あぁ、二人とも元気そうでなによりだ」


 アベルはそう言うと、ソファーに腰掛けた。


「菓子や茶を出すことができず申し訳ない、なにぶん今は忙しくて(ろく)に接待できないのだ」

「まぁそれなら仕方がないが、なんでそんなときに俺たちを呼んだんだ?」

「……実は今回呼んだのは、お前たちのパーティーに『指名依頼』をしたかったからだ」


 アベルはいたって真剣な顔をしながらそう言った。


「指名依頼か?」

「そうだ。これはまだ知れ渡っていない情報なのだが、実はレナード帝国が我が国、ベネット王国へ戦争を仕掛けてきた」

「ん? それって毎年のことじゃないのか? それがどうしたんだ?」


 俺の記憶が正しければ、レナード帝国は毎年のようにベネット王国へ戦争を仕掛けてくるはずだ。


 帝国に一番近い『ルーサー』という町は、つねに侵攻を警戒している。

 侵攻して来たとしても籠城(ろうじょう)して食い止め、その間に近隣の町に救難要請を出して増援を送ってもらうのだ。そして、力を合わせて撃退するというのがいつもの流れらしく、一度とて陥落したことは無いらしい。


「あぁ、確かにそうだ。ルーサーの哨戒部隊(しょうかいぶたい)は事前に帝国軍を発見し、籠城を開始した。しかし現れたのはいつもの倍、()()()()()だったのだ。対してルーサーはすでに引退した騎士や冒険者が協力したとしても、最大で八万人しか動員することができない」

「二十万……それって、レナード帝国の動員可能な兵士のほぼ半分じゃないですか! で、ですが、例えその数だとしても問題無いと思うのですが……」


 『攻撃三倍の法則』というのがあるように、攻撃側は防御側よりも戦力が多くなければ、戦況を有利に運ぶことはむずかしい。

 今回くらいの戦力差であれば、ルーサーにある設備でもかわってくるだろうが互角ぐらいには戦えるだろう。


「確かにそうだ。二十万の兵が侵攻して来たとしても、苦戦はするだろうがさほど問題ではない。ルーサーの兵士たちもそう思っていたんだろうな。……しかし、実際にそうはいかなかった」


 アベルの顔が曇った。くやしそうに、うつむき気味で口を開く。


「レナード帝国の兵士の中には、ひときわ(ひい)でた戦力を持つ者がいたんだ。そいつは巨大なグレートソードを縦横無尽に振り回し、強力な魔法を放ってルーサーの兵士たちに甚大な被害をあたえたんだ。ルーサーの城壁が鉄壁といっても、破られてしまえばなんの意味のない。結果、近隣の町からの増援が間に合う前に、ルーサーは陥落した」


 その場に静寂が訪れる。

 話の流れからうすうす結果は予想できていたが、実際にそうと口に出されてしまうと言葉に詰まった。


「……なぁ、その『ひときわ秀でた戦力を持つ者』ってどんな奴なんだ?」

「わからん、今回の件で急に現れたからな。だが、いくつかの情報を照らし合わせるに、どうやら『転移者』であるらしい」


 ……転移者か。俺も転移者だが、転移する場所は完全に無作為のようだな。

 俺は果ての森の中にあった遺跡のような建造物の中に転移したが、そいつはレナード帝国のどこかしらに転移したんだろう。


「ライマン辺境伯、なぜレナード帝国がこのような手を打ってきたのか判明しているのでしょうか?」


 アルバニアがアベルに疑問を口にする。するとアベルはしばし悩むようなそぶりを見せた。だが、やがておもむろに口を開く。


「……今からする話は他言無用で頼む。ベネット王国は何人かレナード帝国に間者を送り込んでいるのだが、その者たちが手に入れた情報によると、どうやら皇帝が何者かによって暗殺されたらしい。連中は皇帝を暗殺したのがベネット王国の者であると確信しているらしく、それを大義名分に今回は攻めてきたんだ」

「へ、へぇー……」


 や、やってしまった……なんとなくそんな気がしていたんだが、まさかホントにその通りだったとは……。

 『皇帝を殺せばレナード帝国は大人しくなるはずだ』と思っていたのだが、逆に活発化してしまった。まずったな……。


「もちろん、ベネット王国でそんな動きは一切なかった。だが、本当に皇帝は何者かによって殺されたらしく、今回は本気でベネット王国と戦争する気らしいな」

「レナード帝国軍は現在、どの辺りまで来ているんですか?」

「現在帝国軍はルーサーを占領して、ルーサーとその次の町との間に基地を設置してそこを拠点にしている。どうやら王都へ攻め込むつもりらしいな。だが、ベネット王国もやられるだけではない。ルーサーの次にある町で帝国軍を迎え撃っている。……睨み合いが続いていて、現状は膠着状態らしいが」

「なるほど……」


 現在と言っても、ここまで報告が届くまでには何日かタイムラグがあるはずだ。ということは、もしかしたら現在は膠着状態でなくなっている可能性もある。


「それにより、帝国軍を撃退するために各地から増援を送ることになった。このチェイスもそれに含まれている」

「つまり、俺たちをここに呼んだのは、それに参加して欲しかったのか?」

「そうだ、だが少し違う。有象無象を倒したとしてもさほど影響はないだろうが、さすがに本陣が壊滅したら撤退するだろう。そういうわけで、帝国軍の本陣を奇襲して壊滅させるという作戦が決行されることになった。それにお前たちも参加してほしい」


 なるほど、確かに本陣を潰されては撤退するしかないだろう。しかし、気掛かりなのは例の転移者だな。

 どれぐらい強いのかわからないが、いくらなんでも冒険者でいう『ランクS』クラスはないはずだ。なら、苦戦したとしても打倒することは可能なはずだ。


「ちなみに報酬は?」

「ミスリル硬貨十五枚、活躍次第では追加の報酬も約束しよう」


 やけに多いな……それほど重要な役割ということか。


「悪くないんじゃないかしら?」

「ですね」

「だな」


 少し複雑な気分だが、報酬は多ければ多いほどうれしい。報酬が多ければやる気も出るしな。


「依頼内容は帝国軍本陣の壊滅、報酬はミスリル硬貨十五枚、活躍次第では追加の報酬もあり。どうだ? この依頼を受けてくれるか?」

「あぁ、もちろん」


 因果応報なんだと思う。無鉄砲な行動をした結果がこれだ、……自分で蒔いた種は自分で刈り取らないとな。


「助かる。では冒険者ギルドに提出する書類を作らせる。出発は四日後の予定だ、それまでに準備を整えておいてくれ」


 俺たちはアベルが作らせた書類になにか間違いがないかを確認した。そして、問題ないことを確認するとあとのことはアベルに任せ、屋敷へと帰ったのだった。

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