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屋敷にて

 俺は屋敷のリビングルームで本を読んでいた。

 これといった理由はない。ただ今日は狩りが休みであり、特にすることはなかったからだ。

 アリスはクレアと買い物に行っており、屋敷にはいない。アルバニアは少し前に『庭で鍛錬をしてきます』と言って庭に出ていったため、現在リビングには俺しかいなかった。



 俺は『魔術』の基礎について書かれた本を読んでいた。

 一時間ほどは読んでいるのだが、まだ十ページほどしか進んでなかった。それはなぜかというと、単純に俺の頭では理解するのが難しく、一行一行理解するのに時間が掛かるためだ。


 ソファーで本を読んでいると、アルバニアがリビングに入ってきた。風呂に入っていたようで、アルバニアの髪は少し濡れている。


「おかえり」

「はい、ただいまです。ソータさんはどのような本を読まれているのですか?」

「ん、これだ」


 本を閉じてアルバニアに表紙を見せた。

 その表紙には『魔術の全て』と書かれていたと共に、幾何学的(きかがくてき)な模様が描かれている。


「なるほど、魔術の本ですか。もしかしてソータさんは魔術もできるんですか?」

「いや、まったくだ。やってみようとは思ったが、それ以前の問題だった」


 魔術はマジックアイテムを作ったり、論理的に術式を組み上げ炎弾なんかを打ち出したりすることができる。

 魔法とはあなり似通っているが、結果がどうであれその過程がまったく違う術なのだ。


 なにがそんなに難しいのかというと、魔術は化学や生物なんかの知識を活用し、さらに数学で様々な計算を行い手先で細々とした図工をするという、なんというかかなり複雑な学問なのだ。

 はっきり言って俺の頭では理解不能である。『黄金比』だとか『魔力収束の法則』だとか言われても、俺にはなにかなんだか分からなかった。


「ソータさんもですか。私も一度習ったことがありますが、理解不能でしたね」

「あぁ、やたら覚えることが多くて複雑な計算を何度もしないといけないとか、なんの拷問だよ」

「ですね。魔術師はただでさえ少ない魔法使いよりもさらに扱える人が少ないですから、それだけ人を選ぶんですよね」


 魔法を使うことができる者はそれなりにいる。だが、そのほとんどは水を一度に数リットル出すことができるとか、クリーンを一時間に十回使うことができるとかその程度でしかない。

 攻撃魔法ほど高度な魔法を使える者などもっと少ない。ましてやアリスほど魔法を巧みに扱える者などは、ごく限られた一握りでしかないのだ。


 俺も様々な魔法を使うことができるが、アリスほど巧みに扱うことはできない。俺は保有魔力量にものを言わせて適当に発動しているだけで、アリスは魔法を効率化してできるだけ少ない魔力で魔法を使っているのだ。

 俺とアリスでは『魔法行使力』に雲泥の差がある。そういう意味では、アリスは俺よりも魔法を上手に使っていると言えるだろう。



 俺は魔術の本を読むのを諦めると、ほかの本を読み始めた。

 だがしばらくすると、突然来客を知らせるベルが鳴った。しかしそれは一度ではなく何度も鳴らされる。


「……おいおい、一体誰だよ」

「私が見てきましょうか?」

「いや、俺が行こう」

「では、私もご一緒します」


 俺たちは屋敷から出ると、門の方へと歩いて行く。だが、そこには予想外の人物がいた。


「どうしたんだよクレア、そんなに急いで」


 そこにはクレアがいた。しかし、どうにも様子がおかしい。

 クレアは酷く息を切らしており、ここまで急いで来たというのは見て取れた。


「ソータ君どうしよう……っ! アリスちゃんが! アリスちゃんがっ!!」

「お、落ち着けって、アリスがどうしたんだよ?」


 俺が門を開けると、クレアは必死になにかを伝えようとしてくる。しかしアリスになにかがあったことと、かなり急いでいるということ以外なにもわからなかった。


「アリスちゃんが……アリスちゃんが(さら)われたの!!」

「……え?」


 あまりにも予想外のことを言われ、反応が遅れる。だが、次第にその意味を理解し、それどころではないことを悟った。


「アルバニアっ!!」

「少し待っててください!! 装備を取ってきます!!」


 アルバニアは屋敷の中へと走っていった。俺たちはアルバニアが来るのを待つ。


「誰だか知らないが、ふざけたことをしやがって……っ!」


 俺は拳を握りしめる。


 ――自分自身が敵対されるのはまだいい……だが、俺は仲間に手を出されるのが一番嫌いなんだよ!! アリスを攫った奴は、絶対に後悔させてやる……っ!

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