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『冥府の短剣』

 俺が町で男たちに襲撃を受けてから七日が過ぎた。

 結局あの後は一度も同様のことは起きず、特になにもおこらなかった。


 警備兵のもとで男たちの身元や所属組織が調べられたのだが、一切それらしいことはわからなかったらしい。

 男たちの持っていた短剣に付いていた毒は、体内に入ると即座に意識を奪い、直近の記憶を失わせるものであったそうだ。

 もちろん、違法なものである。


 また、指揮官だと思われる男が持っていた玉は、強い衝撃をあたえると破裂して煙をまき散らす、いわゆる『けむり玉』だったらしい。

 つまり、あの男は俺の剣を奪うことができないと判断し、逃げようとしていたようである。


 まぁ、その手のことに詳しい者たちが考えても分からないことを俺が考えたところでなにかが分かるはずもないので、この話は警備兵たちに全部任せておこう。



 俺は産業街を歩いて行く。

 今日、朝食を食べていると突然ベルが鳴り、外に出てみると見知らぬ男がいた。警戒しながらその男になんの用か聞いてみたのだが、どうやらイグネイシャスの使いであったらしく、短剣が完成したことを伝えられた。

 なので、俺は短剣を受け取りに産業街に来ていた。


 俺はイグネイシャスの工房にたどり着くと、扉を開けて中へと入る。


「いらっしゃい――お、ソータ君、さっそく来たね」

「ダガーが完成したって聞いたが、本当か?」

「もちろん、かなり上手くできたさ」


 イグネイシャスは近くにあった小さな木箱を手に取ると、蓋を取って俺に見せてくる。そこには全体的に黒く、どこか禍々しい短剣が入っていた。

 剣身は赤黒く炎のように波打っている。

 俺の頭に浮かんだのは、『フランベルジュ』。


「鞘はいらないって言ってたから予定よりも早くはできたけど、本当にこれでよかったのかい?」

「あぁ、ストレージに収納するから鞘は別にいらなかったんだ。ていうか、この剣身の形状は……」


 俺はダガーを手に取った。

 重心がおかしかったり持ちにくいということもなく、それどころかとても手になじむ。


「ダガーにブラッディスネークの毒を組み込んで欲しかった理由は、再生力が高い魔物の再生を阻害したかったんだよね?」

「そうだな」

「だからより複雑な傷をあたえられるようにその形にしてみたんだ。より治りにくい傷をあたえるためにね」


 なるほど、確かにフランベルジュの波打つ剣身は治りにくい傷をあたえるとして恐れられていたはずだ。

 あまり詳しくはないが、これで斬られればひとたまりもないことは請け合いだろう。


「ありがとう、予想以上の出来栄えだ」

「それならよかったよ。僕としても自信があったからね、喜んでもらえて光栄さ」

「それで、このダガーに名前はあるのか?」

「まだないよ、ソータ君が名前をつけて」


 名前ね、俺にネーミングセンスはないんだが……そうだな。


「じゃあ、『冥府(めいふ)の短剣』で」

「冥府ね、確かにそのダガーで斬られたらほぼ確実にあの世行きになるだろうね」


 俺は一頻(ひとしき)り眺めると、『冥府の短剣』をストレージに収納した。


「俺はそろそろ行くよ」

「もう行くのかい?」

「あぁ、さっそく試し斬りしてくる。防具ができたらまた知らせてくれ」

「わかったよ、それじゃあね」


 俺はイグネイシャスに軽く手を振って、工房を後にした。


 ――  ――  ――  ――  ――


「……いないな」


 俺は冥府の短剣を試し斬りするために果ての森に来ていた。

 フェリクスの森でもいいのだが、最近はベヒモス襲来の余波も落ち着いてきて、強い魔物のほとんどは果ての森へ移動している。

 どうせなら、強い魔物で試したいからな。


 しばらく歩いていると、細長い灰色の巨大な物体を見つけた。よく見てみると、それは巨大なトカゲだった。


「……『フォートレスリザード』か、試し斬りにはちょうどいいな」


 フォートレスリザードはBランクの魔物で、鱗が頑丈で再生力も高い。まぁ、鱗が頑丈と言っても俺のバスタードソードなら普通に斬れるのだが。

 比較的おとなしい魔物だが、戦闘になればその屈強さがかなり厄介だ。頑丈で再生力が高いことも相まって、ダメージを負ういにくい上に多少大きな怪我をしてもすぐに回復してしまう。


 フォートレスリザードは地面に落ちた果物を食べており、俺にはまだ気がついていない。

 俺はストレージから冥府の短剣を取り出すと、フォートレスリザードの方へと走り出した。


「……!」


 フォートレスリザードは俺に気がつくと、食べるのを止めて尻尾を振り上げた。そして、俺がある程度近づくと振り下ろしてくる。

 俺は横へ跳んでかわし、冥府の短剣を尻尾に突き刺した。


「――っ!? シュー……!」


 冥府の短剣は鱗に阻まれることなくフォートレスリザードの尻尾に突き刺さり、傷口から血があふれ出した。しかし、その傷は一向に再生することはなく、血は止め処なくあふれ出ている。


「本当に再生しないな、前に戦ったときはこんな傷すぐに再生したんだけどな」


 俺は横薙ぎに振るわれる岩のような腕をかわしながら、冥府の短剣でフォートレスリザードの脇の下を斬り裂く。そして、今度は噛みつきを後方に跳んでかわし、お返しにフォートレスリザードの胴体を何度も冥府の短剣を突き刺す。


 そして、三分ほど戦っていると次第にフォートレスリザードの動きが鈍くなっていき、地面に倒れ込んで動かなくなった。


「傷を治すことができなくて、失血死したか」


 周囲にはフォートレスリザードの血がまき散らされており、濃い血の臭いを放っている。そう遠くないうちに血の臭いを嗅ぎつけて新たな魔物がここにやって来るだろう。


 俺はストレージにフォートレスリザードの死体を収納した。そして、俺は冥府の短剣を見る。そこには禍々しく鈍く光り、波打つ黒い短剣があった。

 まだ完全には使いこなせていないが、使いこなせればかなり凶悪な武器になるだろう。イグネイシャスは本当にいいものを作ってくれた。


 俺は冥府の短剣をストレージに収納し、素早くその場から離れたのだった。

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