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尾行者

 俺は夕食の材料を買うために商業街に来ていた。

 基本的にストレージの使える俺が買い出しで、料理はアルバニアが作る。アリスは、味見係かな。……冗談だ。



 俺は一通りの買い出しを終えると、屋敷の方へ歩き出した。だがしばらく歩いていると、ある()()()に気がついた。


「……やっぱり、ついてきてるな」


 俺は気づかれないように後ろを一瞬見た。

 そこには普段となにも変わらない光景が広がっている。だが、先程からなぜか俺を尾行している者たちがいるのだ。

 最初は気のせいかと思ったので、屋台で買い物をしてみたり、急に立ち止まって水を飲んでみたりしたのだが、そのたびに尾行者たちは必ずなにかしら反応を示す。


 尾行者たちの人数は二人……いや、三人か?

 はっきりとは分からないが、少なくとも二人はいる。

 性別は男が一人か二人で、女は一人だ。尾行者たちの容姿はよくあるような服に中肉中背とこれといった特徴のない、ごくありふれた町人の格好をしている。

 しかしその動作に無駄が一切なく、どことなくただものではない雰囲気を放っていた。

 見る人が見れば、すぐに一般人でないと気づくだろう。


 俺は路地に入り、しばらく歩く。そしてある程度歩くと、立ち止まって後ろに振り返った。

 そこにはもう取り繕うのをやめたのか、短剣を持っている者が二人いた。そして、さらに後ろには屋根から飛び降りてきた者が二人。

 四人全員が短剣を持ち、その短剣は薄い黄色の液体に濡れている。

 ……まぁ、十中八九毒だろうな。


「さっきからずっとついてきてたみたいだが、なんか用か? どうにも握手して欲しいとかって雰囲気じゃないみたいだが」

「……やはり気づいていましたか。さすがですね、ソータさん」


 尾行者たちに問いかけると、その答えは薄く笑みを浮かべた男から帰ってきた。

 ……この男、最初から尾行者たちの中にいたか?


「まぁな。それで、一体なんの用だ? 場合によっては容赦する気はないぞ」


 俺はストレージからバスタードソードを取り出し、薄い笑みを浮かべている男へと向けた。

 剣を向けたにもかかわらず、男におびえた様子はない。


「……なるほど、それがあなたの『魔剣』ですか」

「そうだが、それがどうした?」


 魔剣とは、魔法金属――ミスリルなどのとりわけ多くの魔力を内包する金属で作られた剣や、魔術によって何らかの効果が付与された剣などのことである。また、特殊な能力を持つ剣のことを総称してそう呼ぶこともあるそうだ。

 俺の持つバスタードソードも、名前は分からないが赤い魔法金属で作られている。


「――それは本来、我々と共にあるべきもの。あなたのような下賤(げせん)な者が持っていていいものではありません。……それを即刻、私に差し出してください。そうすれば命だけは譲歩して差し上げましょう」


 なにを言い出すのかと思えば『剣をよこせ』、か。


「はっ、つまりは盗賊か」

「そうです、あなたは盗賊なのです。……さぁ、素直に渡してください。私だってあまり手荒な真似はしたくありませんから」


 ……まるで会話がかみ合わないな。

 言ってることは支離滅裂だし、まともな奴じゃなさそうだ。


「話にならないな。目障りだ、早く消えてくれ」

「……そうですか、それは仕方のないことです」


 男はそう言うと、手を上にあげた。


「では、その命を(もっ)て罪を(あがな)えっ!!」


 男が手を振り下ろすと、まわりにいた者たちが一斉に俺へと襲いかかってくる。


「《ショックウェーブ》!!」


 だが、刃が届く前に俺のまわりから衝撃波が発生し、男たちを吹き飛ばした。

 本来ショックウェーブはそこまで強い衝撃を放つことができない。しかし、通常以上に魔力を込めれば、威力を強化することができるのだ。


「ウィンドカッター!!」


 俺は吹き飛んだ屋根から降りてきた方の男たちへ風の刃を二つ放つ。刃は男たちの首元へ飛んでいくと、首を切断した。

 胴体は後ろへ吹き飛んでいくと、置いてあった木箱を破壊して大きな破砕音を立てた。

 俺はもう一方へと走っていくと、体勢を崩していた女へバスタードソードを振るう。


「くっ!?」


 女はなんとか防御しようとするが、結局防御が間に合うことはなく、俺は女の首を斬り裂いた。


「――ちっ」


 指示を出した男は舌打ちすると、(ふところ)から白いの玉を取り出した。男はそれを振り上げる。

 なにかはわからないが、止めた方がよさそうだ。


「させるかっ!」

「――ぎ、あああああああぁっ!?」


 俺は男の腕を切断した。

 男は悲鳴を上げながら膝を地面に突き、腕を押さえる。


「お前には聞きたいことがいくつもあるからな、簡単には殺さないぞ」

「クソがっ!! これだから啓蒙(けいもう)は嫌いなんだっ!!」

「は?」


 男は意味不明なことを叫ぶと、懐から小さなカプセル剤のようなものを取り出した。そして、男はなんの躊躇もなくそれを飲み込む。

 怪訝な顔をしながら男を眺めていると――。


「……え?」


 手を突くことなく、男は前のめりに倒れて頭を強打した。

 俺は足で男の顔を上に向ける。


「――なっ!? 毒か!」


 瞳孔は完全に開かれており、男はすでに息絶えていた。呼吸を行っている様子もなく、完全に死んでいる。

 ……しまったな、殺すとは言ったが情報を聞き出せたら警備兵に突き出すつもりだったのだが、聞き出す前に毒で自殺するとは思ってもみなかった。

 相当毒性が強かったのだろう。そうじゃなければ、これほど短時間で死ねるはずがない。


 これからどうしようかと考えていると、遠くからどたばたと足音が聞こえてきた。それは次第にこちらへ近づいてくる。


「ソータさん!?」

「カーシーか」


 こちらへ走ってきていたのは、前に城門で門番をしていた『カーシー』をふくむ、三人の警備兵だった。

 息を切らしており、かなり急いできたというのは明白だ。


「……ソータさん、この状況は?」


 俺のまわりには首から先がない死体などが無造作に転がっており、強烈な血の臭いが漂っている。

 カーシーが息をのむのも理解できた。


「尾行されていることに気がついてな、それで路地裏に入って話を聞いてみたんだが……まぁ、そういうことだ」

「……わかりました。とりあえず近くに警備兵の詰所がありますので、そこで詳しい話を聞いてもいいでしょうか?」

「あぁ、わかった」


 カーシーはほかの二人にあとのことを任せ、警備兵の詰所へと歩き出した。俺もそれについていく。

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