罰ゲーム(2)
俺たちは屋敷へと帰るために町を歩く。
すでに日は落ちかけており、あたりは薄暗くなり始めていた。
そんな中を歩く俺の姿は、出かけた頃と比べてかなり様変わりしてした。
白色のフリルワンピースを着ており、頭には花飾りのついたカチューシャがあった。そして、耳にはイヤリング――穴を開けないでいいタイプのものがついていたりする。
これらはすべてアリスに好き勝手着せられたものだ。
数時間町を歩いただけでこれだ。もっと長時間つき合うことになっていたらどうなっていたことか。
全部アリスの自腹だから文句はまったく……いや、それほどないが、これはちょっと無駄遣いしすぎだと俺は思う。
アリスが今日服なんかを買うために使った金額は、全部合わせてミスリル硬貨二枚にもなる。
普段はそれほどお金をつかっている様子はないが、たまにとんでもない金額の物を気軽に買ったりするからな。はたから見ていて、かなり心配になってくる。
「ねぇ、今日は楽しかったし、また今度もう一回同じように買い物をしましょう?」
「勘弁してよ、普段こんなことしないだけにすごい疲れたんだけど……」
さすがに数時間も言葉遣いを気をつけていたので、この喋り方にもそれなりに慣れてきた。
それがいいのかは分からないが、なにかの役には立つんじゃないかな。……たぶん。
「そんなに疲れることなんてあったかしら?」
「いろんな服を試着させられたり、メイクされそうになったりしたんだけどね、覚えてない?」
「覚えてるわよ。でも、そこまで疲れることなの?」
「主に体じゃなくて心がね、すぐにでも自分の部屋に籠りたいぐらいには疲れてるんだ」
かなりアリスに振り回されたからな。
服屋に宝飾店やメイク屋なんかを行ったり来たりと、とにかく心が疲れた。
……ほんと、アリスは俺を一体どうしたいんだ。
「――おっ、アリスじゃないか。今日は知らないのを連れてるな」
俺たちが会話をしながら大通りを歩いていると、後ろから覚えのある声が聞こえてきた。
振り返って声の主を確認してみると、そこにはオーウェンがいた。
オーウェンはちょうど店から出てきたところだったようで、手には野菜なんかが入った木製のカゴを持っていた。
ちょっ!? なんでこんな時間にオーウェンがここにいるんだ!?
「あらオーウェンじゃない、仕事はもういいの?」
「あぁ、最近は落ち着いてきたからな、今日は早めに帰れたんだ。それでそっちの子は初めて見るが、名前を聞いていいか?」
オーウェンは俺に目を向けた。
幸い俺が俺とはばれてないみたいだが、下手なことを言うと感づかれそうだ。何気にオーウェンの洞察力は高いからな。
「えぇーと……初めまして、私はアンジェリカっていいます」
「アンジェリカか、俺はオーウェンだ。まぁ、その辺のおっさんと思っててくれてかまわない。君はアリスの友達なのか?」
どうやらオーウェンは自分が冒険者ギルドのギルドマスターだということは言わないことにしたらしい。
まぁ、確かに初対面でいきなり『俺は冒険者ギルドのギルドマスターだ』とか言われても混乱するだけだろうとしな。
「あー……は、はい、そうです」
「もう、アンジェちゃんが困ってるじゃない、グイグイ質問しすぎなのよ」
「……いや、そんなつもりはなかったんだがな」
アリスは俺の腕を抱き寄せて、オーウェンにとがめるようなことを言った。
た、助かった……。ばれたら一巻の終わりだしな、これ以上はストレスがやばい。
「この子は人見知りなのよ、だからあまり質問攻めしないであげてちょうだい」
「そうか、すまん。それにしても、アリスにクレア以外の友達がいたんだな。てっきり、クレアとかしかいないのかと思っていたんだが」
「失礼ね、私にも友達くらいたくさんいるわよ」
いや、それは噓だろ。
それなりの時間一緒にいるが、知り合いは多くとも『友達』と呼べる者はクレア以外に俺は知らないぞ。確実に見栄だな。
「確かにお前の友好関係をすべて知っているわけではないしな、俺の知らない友達が一人や二人いてもおかしくはないか」
「そうよ、私を見くびりすぎなのよ」
それからも二人の会話は続く。俺はなにも言わずにそのやり取りを見ていた。
だがしばらく時間がたつと、鐘が五回連続で鳴った。五回ということは、午後の六時になったということだ。
「もうこんな時間か。じゃ、俺はここらでお暇させてもらうよ。じゃあな、アリスにアンジェリカ」
「えぇ、さようなら」
手を振りながらオーウェンは大通りを歩いていく。しばらく後ろ姿を見ていたが、その姿は雑踏にかき消されすぐに見えなくなった。
気づかないうちに、大通りを歩く人数は少し前よりも明らかに多くなっていた。きっと多くの者が仕事帰りだったりするのだろう。
「さ、私たちも帰りましょうか」
「……そうだね」
俺たちも帰路につくべく、屋敷へと歩み出したのだった。




