罰ゲーム(1)
「――ほら、早く行くわよ!」
「……あぁ」
「もう、そんなぶっきらぼうに! もうちょっと可愛く答えなさい!」
「…………うん」
俺はアリスに手を引かれながら屋敷の廊下を歩いていた。そして、現在アリスは俺と同じ背丈――いや、俺がアリスと同じ背丈になっている。
理由は簡単だ、勝負に負けてその罰ゲームに『虚実の仮面』を使うことになったのだ。
どうやらこの姿はアリスの好みにどストライクだったらしく、アリスの前でこれを使って以来、定期的に使ってほしいと頼まれるようになってしまった。
最初は断っていたのだが徐々に押されていき、最近は三日に一回くらいの頻度でねだられるようになってしまったのだ。
それで、勝負に負けたら『今後一切虚実の仮面を使ってほしいとせがまない』ことを条件に、勝負に勝ったら『定期的に虚実の仮面を使ってあげる』ということを賭けてある勝負をした。
その勝負は『的あて』だ。
ただ、コルク銃なんかを使ってやったわけではない。投擲用の投げナイフを五本使って、十メートル先の五十センチくらいの的に当てるというものだ。
結果はお察しなのだが、俺が二本アリスは四本だった。……なんで俺よりも投げナイフがうまいんだよ。
「あ、ソータさん」
「……よく俺ってわかったな」
「前に一度見ましたし、その姿が印象的でしたから」
俺たちがリビングルームに入ると、そこにはアルバニアがいた。
手には一口かじったクッキーがあり、テーブルの上には紅茶の入ったカップとポットがあった。
「今は家事の合間の休憩か?」
「ソータ、言葉」
「えーと……今は家事の合間の休憩かしら?」
「はい、花壇への水やりも終わりましたので、少ししたら夕食の支度をしようかと。……アリスのわがままがすみません」
アルバニアは小さく頭を下げた。
「まぁ、厳正な勝負の結果だから受け入れてるさ――受け入れてるよ。……納得はしてないけどね」
「……心中お察しします」
俺が言葉に気をつけながらそう言うと、アルバニアは少し言葉に悩んだあとそう答えた。
ぶっきらぼうに喋るたびに、アリスがひじで横腹をつついてくるからな。うかつにしゃべれたもんじゃない。
「姉さん、私たちはちょっと町に買い物に行ってくるわ。夕方には帰るわね」
「わかりました、あまりソータさんに迷惑をかけてはいけませんよ?」
「……ねぇ、本当に行くの? 別のことで埋め合わせるからやめておかない?」
少し前聞かされた予定では、数時間ほど町を買い物しながら歩くらしい。
正直、マジでやめてほしい。今の気分は無理やり女装させられて町を歩かされるような感じだ。とんだ屈辱である。
「なに言ってるの? いまのソータに拒否権はないわよ?」
「……頼むから、お手柔らかに頼むよ」
アリスの態度に確たる意思があるのが見て取れた。こっちから勝負を持ちかけた手前、強く拒否できないんだよな……。
もう、どうにでもなれって気分になった。
「――あ、そういえば外で『ソータ』って呼ぶのは変ね。なんて呼べばいいかしら?」
そうアリスに言われて初めて気がついた。確かにこの姿で『ソータ』と呼ばれるのはいろいろとまずい。
「そういうのはアリスが考えてよ。俺……私はネーミングセンスないんだし」
「そうねぇ……じゃあ、『アンジェリカ』はどう? 愛称は『アンジェ』で!」
「それでいいよ」
正直、この姿の名前はどうでもいい。よほど変な名前じゃなければなんでもよかった。
定期的にこの姿になったときにそう呼ばれるだけだしな。
「では、私もアンジェさんとお呼びしますね」
「好きにしてくれ」
「それじゃあアンジェちゃん、そろそろ行くわよ!」
「……うん」
マジで行くんだな、マジで……。
「二人ともお気をつけて」
「行ってきます」
「……行ってきます」
俺はアリスに手を引かれながらリビングを後にした。
―― ―― ―― ―― ――
俺はアリスに手を引かれながら町を歩いていた。
行きかう人々がいつもより大きく見える。ちょっと不思議な感覚だ。
「――アンジェちゃん! 見て、あの服可愛いわよ!」
「そうだね」
アリスは服屋のショーケースにあった、フリルのついたワンピースを指差した。
全体的に白色で、アリスにピッタリくらいの大きさだ。値札を見てみると、そこには白金貨四枚と書かれていた。
「私アンジェちゃんに似合うと思うの。せっかくだから着てみない?」
「えっ!? お――私が着るの!? 着るならアリスが着なよ!」
突然アリスがとんでもないことを言い出した。
俺にフリルのついたファンシーなワンピースを着ろと?
「ほら、せっかくだから……ね?」
「……今回だけだからね」
結局、俺はアリスに根負けしそのまま手を引かれて服屋へと入っていった。
「いらっしゃいませ、どのような御用でしょうか?」
店の中に入ると、四十歳ほどの女性が話しかけてきた。
それほど大きくはないが、見たところそれなりに高級な店のようで、飾られている服はどれも高価なものだった。
「ショーケースにあった白色のフリルワンピースを試着したいの。問題ないかしら?」
「かしこまりました、ではお持ちしますので少々お待ちください」
店員はそう言うと、カウンターの後ろにあった扉の部屋へと入っていった。
しばらく飾られている服を見ていると、店員は畳まれた状態のショーケースにあったワンピースと同じものを持って戻ってきた。
「こちらになります、試着はあちらの試着室をご利用ください」
「ありがとう。――ほら、私が着せてあげるからこっちに来なさい」
「……うん」
アリスは店員からワンピースを受け取ると、服を見ていた俺を手招きした。観念して、俺はアリスの手招きに従った。




