工房
オーウェンから鏖殺の素材を受け取ったその翌日、俺の姿は産業街にあった。
産業街に来た理由は、新しい防具を作ってもらうためだ。
なぜ新しい防具が欲しいのかというと、単純に防御力に不安を感じたからである。
俺の普段着ている服は、そのへんの冒険者がよく着ている所々が頑丈に作られた一般的な服だ。
別に攻撃を食らわなければ問題ないのだが、万が一攻撃を食らった場合、その一撃で戦闘不能になりかねない。
実際に鏖殺の鎌を腹に受けたとき、もしあの攻撃で鏖殺が死ぬことがなかったら、かなりまずい状況になっていた。
なので攻撃を無効化することができなくとも、せめて少しでもダメージを軽減することのできる防具が欲しかったのだ。
なんでも、魔物の素材を使った防具というものがあるらしい。
確かにそう言われてみれば、たまに町中でとても目立つ――素直に表現すれば、変な防具を着た冒険者を見かけたりしたしな。
変なところから角が生えていたり異形のマスクを被っていたりと、場所が場所なら完全に不審者だ。
全部そういうのかと思っていたのだが、聞いてみた限りでは普通の防具もあるらしいので、俺はそれを作ってもらうことにしたのだ。
二人も誘ったのだが、どうやら二人は俺が思っていた以上にいい防具を着ていたようで遠慮された。
アルバニアの服は普通の服にも見えるが、上質な素材で作られえていたみたいだ。そして、アリスのローブは『新緑のローブ』というマジックアイテムであるらしく、高い防刃性があり炎と雷以外の魔法的な攻撃に対して高い防御力があるらしい。
俺はオーウェンから聞いた、『腕のいい防具職人』の工房を目指して歩いて行く。名前は聞いたが忘れた。
しばらく歩き、たどり着いたのは無骨な建物だった。
「……本当にここなんだろうな?」
俺は工房の扉を開けて中に入る。すると、そこには何かを縫っている男がいた。
「いらっしゃい、なにか用かい?」
男は縫うのを止めて、俺に声をかけてくる。
フレンドリーというか、粗野というか……なんというか距離感の近い人だ。
「冒険者ギルドのギルドマスターに高い腕を持つ防具職人を聞いたら、ここを紹介されたんだ。それで、防具を作ってほしいんだが、頼めるか?」
「へぇ、オーウェンにね。わかった、どんな防具を作って欲しいんだい?」
「これを使った防具を作ってほしい」
俺はストレージから鏖殺の外骨格の一部を取り出す。
すでに素材が切り出されてから何日もたっているが、金属ガラスのような輝きは全く失われていなかった。
「ん? これは……なんの魔物の素材だい?」
「マサクルタイラントの変異体、『鏖殺』って言った方が分かりやすいか」
「鏖殺……なるほど、もしかして君は鏖殺を討伐した冒険者パーティーの一人なのかい?」
「あぁ、そうだ」
俺がそう答えると、男は小さく笑った。
「わかった、引き受けよう。防具はどんなタイプが希望なんだい?」
「防具が重いと動きずらいから、軽いものにして欲しい」
確かに防御力は大事だが、あまりにも防具が重すぎるのも問題だ。
できるだけ軽くて、動きやすいものが好ましい。
「なるほど、それじゃあ君のガントレットもあずかっていいかい?」
「ん? なんでだ?」
「マサクルタイラントを使った防具は全体的に黒くなるんだ。だから、鏖殺を使った防具も黒くなると思う。全体的な色を合わせるためにもね。それに鏖殺の素材を使えば君のガントレットも強化できるだろうし」
なるほど、そういうことか。
確かに防具が全体的に黒いのに、ガントレットだけが青いのは変に目立つか。
「そういうことなら頼む」
俺はガントレットを外すと、近くにあった机に置いた。
「そうそう、鏖殺を討伐したってことは他の素材、例えば鎌なんかの素材も持っているよね。見せてくれないかな?」
「まぁ、いいけど」
俺はストレージから鏖殺の鎌を取り出した。男はそれを受け取ると、まじまじと鎌を見つめる。
「……うん、いけそうだね。ねぇ、どうかな? もしよければこの鎌を使ってなにか武器を打ってみたいんだけど。あぁ、もちろん打った武器は君のものだよ」
「武器も作ることができるのか?」
「うん、鍛冶師でもあるからね。どうだい?」
そんな予定はなかったんだが……まぁ、素材を持て余すよりはよっぽど建設的だろう。
「そうだな……じゃあ、ダガーを一本作ってほしい」
「ん? なんでダガーなんだい? ほかにもロングソードとかあるだろう?」
「俺はいつもバスタードソードで戦っているからな、もう一本剣があっても持て余しそうなんだ。でも、バスタードソードだと狭い場所では戦いずらいから、鉄製のダガーを持っているんだ。ちょうどいいから新しいダガーを作ってほしい」
正直、鉄製ではあまり切れ味がよくなくて、若干不満があったのだ。
「わかった、マサクルタイラントの外骨格は濃縮して硬度を上げることができるからね、できるだけ濃縮して作ってみるよ」
「あぁそれと、これってダガーに使えるか?」
俺はストレージから赤黒い液体が入ったビンを取り出した。
「なんの液体なんだい?」
「『ブラッディスネーク』の毒液だ。この毒の毒性をダガーに組み込むことってできるか?」
「ブラッディスネークの毒ね、それならできると思うよ。でも、なんでこれを組み込んで欲しいんだい?」
「ほら、ダガーってあまり火力は出ないだろ? だから、再生力が高い魔物とかだと埒が明かなかったりするんだ。再生を阻害することができるブラッディスネークの毒なら、少しは楽に倒すことができるようになるかと思ってな」
チェイスに帰ってくる途中、実は一度魔物の襲撃を受けていた。襲撃してきた魔物は『ブレインイーター』だ。
試しにダガーで戦ってみたのだが、多少傷をあたえた程度ではすぐに再生してしまい、倒すのに手間取ってしまった。
「ふーん、わかった。そういうことなら組み込んでみるよ」
俺はブラッディスネークの毒液をガントレットの隣に置く。
「出来上がるまでどれくらい掛かりそうだ?」
「そうだね……ダガーは一ヶ月もしないくらい。防具は遅くて半年ってところかな」
「……結構時間掛かるんだな」
俺が思っていたよりも遅かった。
てっきり、どっちも一ヶ月もあればどちらも完成するかと思っていた。
「そうだね、マサクルタイラントの変異種の素材っていっても、もしかしたら通常種とは違う性質を持っているかもしれないからね。最初は調査してみないといけないんだよ」
「そうか、じゃあいくらになる?」
「追加の材料費なんかも含めて、そうだね……ミスリル硬貨六枚ってところかな」
俺はストレージからミスリル硬貨を六枚出して男へ渡した。
今回に限って値切るのは悪手だ。オーウェンから事前に値切るには嫌っているって聞いてたからな。それに、適正価格しか提示しないとも聞いてたし、問題はない……はずだ。
「確かに受け取ったよ。それじゃあ――おっと、自己紹介を忘れていたね。僕の名前は『イグネイシャス』だ、よろしくね」
「俺はソータだ」
「ソータ君だね。それじゃあ、出来上がったら君の家に使いを出すから、家の場所を教えてもらってもいいかな?」
「あぁ、家の場所は――」
俺は屋敷の場所をイグネイシャスに教え体の寸法を測ってもらうと、鏖殺の素材を一通り預けて屋敷に帰ったのだった。




