魔法の基礎
……とりあえず外に出てみることにしよう。ここでじっとしていても時間が無駄になるだけだしな。
扉の取っ手を掴み、外側へと押す。すると、鍵がかかっているということもなく、簡単に開いた。
扉の先にあったのは、これまた同じような広さのある広場だった。
ただし、この部屋の中央には赤いハート型の果物がなっている木が植わっており、それは円状の花壇のような場所にあった。
そしてそのほかには、さらに扉が三つある。
俺は果物がなっている木に近づき、地面に刺さっていたネームプレートを見た。そこには『ハートフルーツ』と、見たことがない文字で書かれていた。
「……知らない文字のはずなんだが、なんで読めるんだ?」
そう考えていると、ある違和感に気がつく。それは、なぜか俺の頭の中に未知の言語の知識が、知らないうちに丸々入っていたのだ。
どう文字を書けばいいのか、どう読めばいいのか。そんなことがはっきりと、手に取るように分かったのだ。
背筋に寒気が走った。なぜ意味が分かるのかが分からず、言語を絶するほどの恐怖を感じる。
……深く、考えないようにしよう。
俺はその場を後にし、一つの扉を開けて中へと入った。
その先には廊下が広がっていた。あまり長くはなかったが、また扉がいくつか見つける。
その中の扉を一つ選んで、俺は中へと入ってみることにした。
部屋の中には机と椅子に本棚などが置いてある。どうやらここは書斎のようだ。
完全に密閉されていたようで、すこし埃がかぶっていたがほかの場所にはあった蜘蛛の巣は一つも見当たらなかった。
本棚にある本を眺めてみる。
様々な分野の本が隙間なく並べられており、俺は目についた『魔法の基礎』と書かれた本を手に取った。
「……魔法があるのか」
俺は表紙をめくり、どのようなことが書いてあるのか見てみる。
『はじめに、本書は魔法の仕組みや魔法の扱い方などを記述したものである。――魔法とは、魂に宿る魔力を炎や水などに変換する術のことである。魔術と混同されやすいが、魔術は論理的に術式を構築し、魔力により発動・維持する術であるため、魔力を使うという共通点以外、全く別の術と言えるだろう』
なにやら小難しいことが淡々と書かれているが、要約すると魔法は感覚的に行使する術であるらしい。
『魔法を実際に発動させるには、まず自身の持つ魔力を認識する必要がある。魔力を認識する方法はいくつかあるが、本書では一番簡単な方法を紹介する。その方法は、魔力を体全体に循環させるというものである。まず、自らの秘められた魔力を体全体にいきわたらせるイメージをし、実行に移す。なお、これができないのであれば、あなたには魔法の才能はないということになる』
ていうか、まず『魔力』って一体なんなんだ?
『魔力とは、様々な物質や力に変換できる万能な力のことである。生物や物質には少なからずこの魔力が宿っており、その量は一定ではない。――なお、魔力については長きに研究がなされているが、その性質や出所については未だはっきりとわかっていない』
「……まぁ、よく分からんがやってみるか」
俺は本を机の上に置いて、本の通りに魔力? を体に循環させてみる。はたから見たら滑稽に見えるだろうが、俺自身は大真面目だ。
しばらくすると、体がじわじわと暖かくなってくるのを感じた。俺は心配になってきたので、一度循環させるのを止めて本の続きを読むことにした。
『魔力を循環させていると、次第に体が暖かくなってくるのを感じるだろう、そうなれば成功である。これは《身体強化の魔法》の一種であり、魔力を認識するのに最適な方法の一つである』
どうやら、これで合っていたようだ。俺はそのまま読み進める。
『次は魔法の使い方についてを説明する。まずは魔力を纏い、自身の利き手に魔力を集める』
書いてある通りに再度魔力を体に循環させ、今度は右手へ集中的に集めた。すると、キラキラとした虹色の霧みたいなものが右手の周りに現れた。
たぶん、これが『魔力』なんだろう。
『そして、手のひらを上にしてそこへ石を作り出すイメージをし、こう唱える。《クリエートストーン》』
「クリエートストーン!」
俺がそう唱えると手のひらに魔力が集まりだして、すぐさま丁度握りやすい大きさの石が現れた。
その石は灰色で、強く握れば崩れるということもない。
「おぉ……! これが魔法か!」
非常に地味ではあるが、今は魔法を使えたことがすごく嬉しい。
俺は『魔法の基礎』をすべて読み、今度は目についた『収納魔法 基礎』という本を手に取った。
「――なるほど、収納魔法は自身で作り上げた特殊な空間に、物を収納したりできるようになる魔法なのか」
よく分からないが、とりあえずやってみるか。
俺は本に書いてある通りに、両手に魔力を集めて自分だけの新たな空間を作るイメージをした。そして、魔法名を唱える。
「クリエートマイストレージ!」
すると、体の中から大量の魔力がどこかへと吸い取られていくのを感じた。あまりの脱力感や疲労感に、俺は地面に膝をつく。
「ぐっ、うぅっ……! ――これで、使えるようななったはずなんだが……」
適当に本を一冊取り、本を空間に収納するイメージをする。すると、手に持っていた本が光となって消えていった。
俺は完全に消滅したのではないかと不安になる。
次に、本を取り出すためにストレージに入ってるものが見たいと念じた。すると、脳内に本の立体画像のようなものが浮かんでくる。
その本を取り出したいと念じると、手に先ほど収納した本が現れた。
なるほど、これは便利だな。
俺は再び本を収納し、本棚にあるほかの本も収納し始めた。持ち主はいないようだし、もらっていっても問題ないだろう。
少し使ってみて本当に便利だと感じたので、バスタードソードも収納しておいた。収納しておいたらすぐに取り出せるし、利便性も問題ないだろう。
しばらくしてすべての本を収納したのだが、なぜか一冊だけ全く動かない本があった。何度も引っ張って取り出そうとするが、一向に出てくる様子はない。横にも倒れず、なにかが引っかかっている感じだ。
俺は本を奥に押してみる。すると、ガコッという音と共に本は奥に入り込んだ。何事かと思っていると、本棚は横へとスライドしていく。
「……隠し扉、か?」
本棚が動いた先には、黒い頑丈そうな扉があった。




