帰還
「――すみません、つらいでしょうにわざわざ来ていただいて」
「いや大丈夫だ、結構ましになってきたしな」
鏖殺の討伐が成功した日の二日後の朝、俺たちは冒険者ギルドに来ていた。
昨日はというと、ずっと宿で休んでいた。
どうやら血を流しすぎたようで、なにをするにしても体がだるかったのだ。
「すでにアリスさんとアルバニアさんから報告は受けております。今回来ていただいたのは、報酬のことについてです」
リアムは執務机の引き出しから白い袋を三つ取り出してきた。
「今回の報酬はオーウェンからもらうことになってるし、ここでもらうわけにはいかないんだが」
「いえ、これは私からの個人的なお礼です、どうか受け取ってください」
「まぁ、そういうことならありがたく受け取っておくよ。……いいんだよな?」
「問題ないと思います」
心配になったので一応確認を取っておいた。これで確実に大丈夫になるわけではないが、少しは気が楽になった。
俺たちは袋を一つずつ受け取る。
「そういえば鏖殺の死体はソータが持ってるけど、これってどうすればいいの?」
「それでしたらチェイスの冒険者ギルドへ渡しておいてください。チェイスの方で調べてもらうことになっておりますので」
「そう、分かったわ」
いいように使われている気もするが、別にストレージがあるから手間はかからないし気にする必要はないか。
「あーそれと、一つあなた方に用向きがありまして……実はイルーゼの領主様があなた方に良ければお会いしたいそうなのですが、いかがなさいますか? 断ることも可能ですが」
領主ねぇ……めんどくさいな、早く家に帰りたいし。
会ったとしてもお礼を言われたりするだけだろう。それだけなら俺は早く屋敷に帰る方を優先したい。
「早く家に帰りたいし、今回は遠慮しておくよ」
「そうね、正直つかれたしね」
「かしこまりました、ではそのようにお伝えしておきます」
「……いや、普通に遠慮するとだけ伝えてくれたらいいからな?」
『早く家に帰りたい』だの『つかれた』だの伝えられても、ただ印象が悪くなるだけだしな。
別に上げる必要は特にないが、無意味に下げるのは避けたい。
「かしこまりました」
「それじゃあ、俺たちはそろそろチェイスへ帰るよ」
「もうお帰りになられるのですか? まだもう少しゆっくりなさっていてもいいんですよ?」
「いや、大丈夫だ。またな」
俺たちは執務室を後にし、帰路についたのだった。
―― ―― ―― ―― ――
俺たちは三日をかけてチェイスへと帰ってきた。
帰ってきてからはそのまま屋敷でゆっくりしてその翌日、俺はチェイスの冒険者ギルドに来ていた。
「オーウェン、入るぞ」
「あぁ」
俺は執務室の扉をたたき、返事を聞いてから中へ入った。
中には以前となにも変わらないオーウェンの姿があった。だが、少し嬉しそうだ。
「報告は聞いている、鏖殺の討伐ご苦労だった」
「あぁ、本当に疲れたよ」
俺は置いてあるソファーに腰かけた。オーウェンは立ち上がると、ローテーブルの向こうにあるソファーへと座る。
「けがをしたと聞いたが、もう大丈夫なのか?」
「大量に出血したがすぐアリスに回復魔法で治療してもらったし、今はなんともないぞ」
「そうか、ならよかった」
オーウェンは大きく息を吐いた。
どうやら心配されていたみたいだな。
「それでだが、ここに呼んだのは報酬のことか?」
「それもあるが、鏖殺の死体についてもだな。まぁ、まずは報酬からだな」
オーウェンはそう言うと、棚から袋を取り出してきた。
白い袋で、冒険者ギルドの紋章が刺繍されている。
「これが報酬だ」
「あぁ、ありがとう」
俺は袋を受け取ると、すぐにストレージに収納した。
無くすことはないだろうが、念のためだ。
「それで、鏖殺の死体だが……」
「あぁ、少し来てくれ」
オーウェンはソファーから立ち上がると、部屋を出ていく。俺もそれに続いた。
階段を下りて受付の中にある扉に入っていき、しばらくして第三保管室に着いた。
オーウェンは扉の鍵を開け、俺たちは中へと入る。
「よし、早速出してくれ」
「わかった」
俺はストレージから鏖殺の死体を取り出す。
全然時間がたたないうちに収納したため、死体からは生物の焦げた臭いが漂ってきた。
「これは……思っていたよりもかなり変異しているな」
鏖殺とマサクルタイラントの死体を隣に並べてみたら分かりやすいと思うが、鏖殺は通常種とは比べものにならないほど変容している。
もはや、『別種』といっていいぐらいだ。
「どれくらいの期間預けていればいいんだ?」
「そうだな……十日、いや十五日貸してくれるか?」
まぁ少し長い気がするが、未知の魔物を調べるならそれくらいはかかっても仕方がないか。
「わかった、十五日だな。十五日たったら取りに来るぞ」
「あぁ。それとこれは一応の確認なんだが、鏖殺はこっちで解体してもかまわないよな? なにか希望することがあれば考慮するが」
「それならそっちで解体してもらって問題ないぞ」
俺たちが解体するよりも、本職の慣れた者に解体してもらった方がきれいに解体できるだろう。なら、わざわざ俺たちが解体したりする理由はない。
それからは執務室へと戻り、イルーゼであった事を簡潔に話したあと、俺は屋敷へと帰ったのだった。




