鏖殺 ――みなごろし――
魔法の名前を変更しました。
《フレイムブレード》→《ウェアフレイム》
翌日、俺たちの姿はキースの森にあった。
どうやら鏖殺はどこにも行かず、キースの森にとどまっているらしい。
いつまでいるのか見当がつかないため、またどこかへ行ってしまう前に討伐することになったのだ。
「……それにしても、やけに静かだな」
「そうね、少しくらい魔物の鳴き声が聞こえてきてもいいんだけど」
「前に来たときは度々聞こえてきましたしね」
いつもはもう少し魔物の鳴き声が聞こえてくるのだが、今日はほとんど聞こえてこなかった。
やはり、鏖殺がこの森にいることでなにか異変が起きているだろう。
「――うわっ、なんだこれ……」
「……ひどいわね」
「これは……どれだけいるのでしょうか?」
しばらく歩いていると、見慣れないナニかが積みあがった小山のようなものを見つけた。なにかと思い近づいてみると、それらはすべて魔物の死体だった。
そこには数多の魔物の死体が転がり、折り重なるようにして数々の山を形成していた。
魔物の死体は首や手足が切断されていたり体中が傷だらけだったりと、あまりにも惨たらしい状態だ。
地面は血で紅く染まり、血や腐臭のような臭いが鼻を突く。
「……行こう」
「……えぇ」
「そうですね……すでに鏖殺がいなくなっているとしても、調査する必要がありそうです」
俺たちは森の奥へと歩いて行く。奥へと入るにつれ、魔物の死体は数を増やしていった。
かなりの数が殺されたようで、森全体が血生臭い。
そしてよく見ると、その中にはマサクルタイラントの死体もあった。
通常のクレイジータイラントは殺戮をすることはあっても、決して同族に手を出すことはない。それはマサクルタイラントの生態がそういうふうにできており、クレイジータイラントもその範囲に収まるからだ。
――もはや、『鏖殺』はその範疇を逸脱しているのだろう。
しばらく歩いていると、八メートルほどの満身創痍のマサクルタイラントが地面に倒れこんでいた。
多分だが、このマサクルタイラントは巣の番人をしていた老練の個体だろう。
あの時も動きはそれなりに鈍かったが、さすがに今ほどではなかった。
確実と言っていいほど、とてつもない強者によって攻撃を受けている。
「キシャァァ……ッ!」
マサクルタイラントは俺たちを発見するとヨタヨタと起き上がり、片方しかない鎌を振り上げた。
「……とりあえず、止めを刺しておくか」
「そうね、その方が安心できるものね」
俺はバスタードソードをストレージから取り出して、走りだそうとした。しかし――。
「――っ!?」
急に黒いナニかが降ってきたと思ったら、それがマサクルタイラントの上に勢いよく激突し、硬い外骨格を貫いてマサクルタイラントを一瞬にして絶命させた。
マサクルタイラントの外骨格は、紅く鋭いもので貫かれている。
「ギィシャアアアアアアアアアアァッ!!」
その正体は『鏖殺』だった。
だが、昨日に出会ったときと姿がかなり変異している。
体はさらに黒ずみ、血管のような模様は体全体に広がっている。そして、最も変異しているのは――眼。
左眼はマサクルタイラントと同じ複眼だが、なぜか右眼は爬虫類を思わせるような赤く鋭い眼だ。
えぐれた溝の中心に右眼は存在し、それがぎょろぎょろと動いている。
「な、なんだこいつ!?」
「気をつけて! そいつ色々とおかしいわ!」
「……これを再び、イルーゼへ行かせるわけにはいきませんね」
「ギィシャアアアアアアアアアァッ!!」
鏖殺は殺したマサクルタイラントから飛び降りると同時に、俺へと鎌を振るった。
俺はバスターソードでそれを受け止める。
「ぐぅっ!?」
昨日よりも鏖殺の鎌を振るう速度が早くなり、さらに力も強くなっているようで俺は後ろに吹き飛ばされそうになるが、なんとか踏ん張って耐える。
鎌を受け止めるのは得策じゃなさそうだ。
俺は鏖殺の連撃をできるだけ受け流す。だが鏖殺に斬り込む隙は全くと言っていいほどなく、それどころか攻撃したとしても致命傷をあたえるのは不可能にちかい。
俺は少しでも多くのダメージをあたえるために《ウェアフレイム》という魔法を使い、バスタードソードに炎を纏わせて鏖殺に斬り込む。
鏖殺は多少炎を嫌がり、攻撃の頻度が少し下がった。しかし少し攻撃を受け流すのが楽になっただけで、逆に防御に入って攻撃が全く当たらなくなってしまった。
「《アイシクルシュート》!!」
アリスが氷柱を飛ばす魔法を放つが、鏖殺の硬い外骨格に当たると砕け散って全くダメージにはなっていなかった。
さらにアルバニアの放った矢が鎌の付け根に当たるが、鏖殺はびくともしていない。
「くっ……!」
アルバニアは弓ではまともにダメージをあたえることができないと悟ったのか、コンポジットボウを遠くの木の下へと投げると、ダガーを二本抜いて鏖殺に斬りかかった。
「ギィシャアアアアアアアアアァッ!!」
「させるか!!」
鏖殺はアルバニアに鎌を振り下ろす。
それをバスタードソードで横にそらし、俺はアルバニアが攻撃する隙を作った。
「はぁっ!!」
「ギシャアアアアアアアアアアアアァッ!?」
アルバニアは外骨格の間にダガーを差し込んだ。すると鏖殺は痛がり、アルバニアへと鎌を横薙ぎに振るう。
姿勢を低くして鎌をよけ、アルバニアはすばやく鏖殺から離れた。
――それからも、双方一歩も引かない攻防が繰り広げられる。
攻撃を受け流し、かわし、隙をみて攻撃する。
森の中には剣戟の音が響き渡っていた。
「このままじゃ埒が明かないぞ!」
「どうする!? いったん引く!?」
「……いや、試したいことがある! それでダメだったらいったん引こう!」
「分かったわ!」
正直成功するかは未知数なのだが、それでもなにもしないで引き返すよりは何倍もましなはずだ。
やってみる価値は充分ある。
「アルバニア!! 十秒耐えててくれ!」
「分かりました!」
鏖殺から離れると、バスタードソードに魔力込め始めた。
俺が離れるとアルバニアは攻撃することは考えず、鏖殺の連撃に耐えている。長くはもちそうにないが、それでも十数秒ほどなら大丈夫そうだ。
そして、魔力をバスタードソードに込め始めてから十秒が経過した。
「もう大丈夫だ!! 引いてくれ!」
「後はお願いします!!」
俺は走り出し、アルバニアに引くように指示した。
鏖殺は標的を俺に変え、鎌を振り下ろす。だが、俺は《転移魔法》を使って鏖殺の目の前に躍り出た。
――よかった成功した。
俺はバスタードソードで鏖殺の口内目掛けて突きを放つ。
バスタードソードはすんなりと鏖殺の口の中へと入っていった。そして――。
「――がはっ!?」
鏖殺の鎌が俺の横腹へ突き刺さった。
ここまで鏖殺の近くに来れば、鎌を振るうことはできないらしい。これだけは不幸中の幸いか。
俺はバスタードソードに込めた魔力を一気に《ウェアフレイム》の発動に使い、炎に変換した。
「くらえええええええぇっ!!」
バスタードソードに込められた魔力が一気に炎へと変換され、凄まじい熱量をもつ炎がバスタードソードから放たれた。
その炎のは鏖殺を内部から焼き、あたりに焦げた臭いを漂わせる。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!?」
鏖殺は凄まじい悲鳴を上げながら後退していき、裏返ってのた打ち回る。
痛みをこらえながら動向を見守っていたのだが――やがて、鏖殺は動かなくなった。
「ぐっ……!」
俺は鏖殺を倒せたことで気が抜けてしまい、地面に倒れ込んだ。
体から血が流れ出ていく感覚があり、俺のまわりに血が広がっていく。
回復魔法を使って傷を治そうとするが、なぜか魔法が発動しない。
確かなんかの魔法書に、『大きな傷を負うと魔法がうまく発動しなくなる』みたいなことが書いてあったはずだ。
……本当のことだったのか。
「ソータっ!?」
「ソータさん!!」
二人に走って俺に近づいてくる。
……ダメだ、視界がぼやけて二人の顔がよく見えない。いや……それどころか耳鳴りもしてきた。
これは……いろいろとまずい……。
「待って、今傷を治すわ! 《リジェネレーション》!」
アリスはそう言うと杖を構え、魔法を発動する。
すると俺の横腹に魔力が集まり始め、どんどんと傷が小さくなっていく。そして、しばらくすると完全に血が止まり、傷が跡形もなく消え去った。
相変わらず、アリスの魔法の効き目はすごいな。
「アリス、ありが――っ!?」
俺は立ち上がってアリスに礼を言おうとした。だが急に力が抜けてしまい、地面に膝を突く。
「ちょ、あまり動かないで! リジェネレーションは失った体の部位を再生できても、血を増やすことはできないんだから!」
「そ、そうか……」
「二人共、とりあえず町に帰りましょう?」
「……そうだな、この調子だとこのまま調査するのは無理そうだ」
俺はアリスが拾ってきてくれたバスタードソードや、鏖殺と殺されたマサクルタイラントの死体をストレージに収納した。
アルバニアは忘れずに木の下に投げたコンポジットボウを拾いに行く。
そして俺は二人に肩を貸りながら、キースの森を後にした。




