振るわれる死の鎌(2)
こいつと戦い始めてどれだけ時間が経ったのだろう?
俺の体感では三十分ほどだが、実際は十分も経っていないはずだ。それほど、この戦いには濃密なものがあった。
少し気を抜くだけで首が飛ぶような激しい戦い。
そんな戦いを何分も休みなく続けていれば、体力を消耗し集中力が低下してくるのは必然だった。
俺は振り下ろされる鎌をよけ、鏖殺の足を斬りつける。だが、前よりも外骨格が硬質化しているのか、棘が壊れることもない。
鏖殺は横薙ぎに鎌を振るう。俺は後ろに跳んでよけると、再び斬りつける。
――だが、それは明確な判断ミスだった。
「ギシャアアアアアアアアァッ!!」
「――まずっ!?」
鏖殺の鎌を振る速度が急に早くなり、よけることはできないと思った俺はバスタードソードを盾にして振るわれる鎌を防いだ。
「がはっ!?」
凄まじい衝撃が伝わり、俺は後ろに吹き飛ばされた。何度も地面に叩き付けられ服が裂けるが、今はそれどころではない。
俺はなんとか起き上がり、鏖殺を見た。すると、今度は兵士や冒険者たちが束となって鏖殺に斬りかかっていた。俺に追撃を行おうとするそぶりはない。
「ソータさん! 大丈夫ですか!?」
「まだ戦える!?」
「……問題ない」
なんとか防御は成功したし受け身も取ったので、擦り傷ぐらいしかない。
これくらいならまだ我慢できる。
「……アリス、あいつの顔になにか目くらましになる魔法を打ってくれないか?」
「それはいいけど、多分ダメージはないわよ?」
「それでかまわない。タイミングは任せるから、あとは頼む!」
俺は再び鏖殺の方へと走り出した。
「俺がやるから全員どいてくれ!!」
俺がそう叫ぶと、鏖殺に攻撃しようとしていた者たちが瞬時に離れていく。
正直、どれだけ兵士や冒険者が束になってかかっても撃退はできないだろう。
今は俺たちを標的にしているが、いつ気が変わって町の中に飛んでいくかわかったもんじゃない。
一刻も早く、鏖殺を追い払う必要がある。
俺は鏖殺へバスタードソードを振るう。
鏖殺は鎌で受け止めると、もう片方の鎌を俺に振り下ろしてきた。俺はそれをバスタードソードで横へとそらす。
「《ブラストウォーター》!!」
アリスが水球を放ち、鏖殺の顔へ直撃すると水球は破裂した。
ダメージを受けている様子はないが、視界を奪うことに成功している。
俺はバスタードソードに《マジックブレード》を使用して鋭さを上げ、鏖殺の顔を横薙ぎに斬りつけた。
「ギャアアアアアアアアアアアアァッ!?」
右眼は完全に潰れ空中に赤黒い体液が舞い、一筋の溝が刻まれる。
鏖殺は後退していき城壁の縁までくると、足を滑らせて城壁の下へと落ちていった。
鏖殺は地面に叩きつけられ、動かなくなる。そこへ下に待機していた冒険者たちが斬りかかった。
しかし鏖殺の外骨格は硬く、武器がはじかれている。
「――ギィシャアアアアアアァッ!!」
鏖殺は急に暴れ出すと、起き上がると同時に鎌を横へと大きく広げ、それを振り回す。すると、周りにいた冒険者たちはよけることができず、一瞬にして無惨に斬り裂かれ絶命した。
鏖殺は羽ばたき飛び上がると、キースの森の方へと飛んで行く。
「どうする? 追う?」
「……いや、あと一時間もしたら夜になるし、追うのは明日にしよう」
鏖殺が暴れた場所は、血や夕焼けで紅く染まっていたのだった――。
―― ―― ―― ―― ――
キースの森にある切り立った崖。
そこに空いた穴の中では、マサクルタイラントの幼虫や成虫が身をよせるようにして休眠に耽っていた。
周囲は完全に日が落ちて真っ暗になっている。その暗闇はたまに何かの鳴き声が聞こえるくらいで、非常に静かなものだ。
しかしそんな静寂の中、一つの影がマサクルタイラントの巣の前に落ちてきた。
マサクルタイラントの成体たちは瞬時に起き出し、落ちてきたナニかを確認する。
すると、そこには体色が異様に黒く、体中に血管のような模様のある鏖殺の姿があった。
右眼の部分はえぐれており、右眼を完全に消失させている。
「ギィシャアアアアアアアアァッ!!」
「キシャァァァッ!!」
「キシャッ! キシャァァァッ!!」
鏖殺は鎌を振り上げて強烈な殺気を迸らせ、咆哮を上げた。マサクルタイラントの成虫たちも威嚇するように咆哮する。
幼虫たちはようやく異変を感じ取ったのか、蜘蛛の子を散らすように別々の方向に慌てて逃げまどい始めた。
「ギィシャアアアアアアアアアアァッ!!」
――その夜、キースの森は魔物たちの悲鳴で眠ることはなかった。
次回、鏖殺と最終決戦……!




