振るわれる死の鎌(1)
「――すみません、急に来ていただいて」
「別にそれはいいんだが、なんか進展があったのか?」
俺たちは今日も狩りに行こうとしていたのだが、急にギルドの職員が宿にやってきて、リアムが俺たちに緊急の用があると伝えてきたのだ。
「実は先程、このイルーゼから二つ向こうの『ギル』という町で、昨日鏖殺によって襲撃を受けたと報告がありました」
「それ、間違いなく本当の情報なの?」
アリスがリアムに尋ねる。
「それは間違いないかと、その町の騎士の方が直接知らせに来てくださったので」
「なるほど、それなら信憑性があるわね」
その町の騎士の言うことなら間違いないだろう。よほどの事がない限り、誤報の可能性は低いはずだ。
「――で、結局なんで俺たちをここに呼んだんだ?」
「どうやら、鏖殺は徐々にこの町の方へと近づいてきているようなのです。昨日は二つ向こうの『ギル』ですが、その二日前には三つ向こうの『ライリー』という町も鏖殺によって襲撃を受けています。そのためこちらの都合で申し訳ないのですが、狩りに出るのを控えてもらい、できるだけこの町にいてほしいのです」
リアムは申し訳なさそうな面持ちでそう言った。
確かに狩りをしている間に鏖殺が襲撃しにくると、戦闘に参加するまで時間が掛かるか。それはあまりよろしくない。
「わかった、今後はできるだけ町にいることにするよ」
「ご不便をおかけして申し訳ありません、なにとぞご協力のほどよろしくお願いします」
―― ―― ―― ―― ――
俺たちがイルーゼに来てから二十日が経過した。
狩りは三日に一回のペースに減らし、その分町を散策したり転移魔法やダガーを練習する時間にしている。
俺たちは宿にある食堂で夕食後に果実水を飲んでいた。すると、こちらへどたどたと走ってくる男がいた。
「失礼します! ソータさんたちで間違いないでしょうか!?」
その男は急いできたようで、息を切らしていた。
男の胸元には冒険者ギルドの職員であることを示す名札が付いている。
「確かにそうだが、そんな急いてどうした?」
「数時間ほど前に、隣町の『デルミーラ』にて鏖殺の襲撃があったと通達がありました! そして撃退には成功したそうなのですが、どうやら鏖殺はこちらへ向かってきているようなのです!」
男は早口で状況を伝えてきた。
聞き取れないほどではないが、もう少し落ち着いてしゃべってほしい。……まぁ、状況が状況だし仕方がないか。
「わかった、すぐに城門の方に行くよ」
「お願いします! それでは!」
男はそう言うなり、またどこかへと走っていった。
俺たちは果実水を一気に飲み干すと、宿を出て城門の方へと走って行く。そして、しばらくすると城門へ到着した。
城門には先ほどの情報がすでに伝わっていたのか、慌ただしく兵士たちが武具などを持って走り回っている。
俺たちは兵士に指示を出していた一人の男の方へと歩いて行く。
「――ん? あんたらなんでこんな所にいるんだ? ここは城門の上だぞ、危ないから早く下りてくれ」
男はこちらに気がつくと、勝手に入ってきたとでも思ったのか早く立ち去るようにうながした。
「俺たちはチェイスからここに派遣されてきた冒険者だ。迎撃を手伝うならどこらへんにいればいい?」
「……へぇ、あんたらがか? そうか、ならあそこにいてくれ。もうそれほど時間はない、いつでも戦えるように準備を整えておいてほしい」
「わかった、それじゃあ」
俺たちは男が指さした場所に待機し、来るべき時に備えた。
―― ―― ―― ―― ――
「――来たか!」
はるか遠くの森の上。そこには黒いなにかがこちらに向かって物凄い速度で飛行して来ていた。
こことはそれなり離れているが、あの速度だと五分とせずにこちらにやって来るだろう。
すでに魔物の襲撃を知らせる鐘が鳴り、住民たちは避難していた。
異変に気がついた冒険者の一部は門の前で待機していたり、城壁の上に上がってきている者もいる。
「鏖殺が見えてきたぞ!! 迎撃に移れ!! 決して町の中には入れるな!!」
指揮官が兵士たちに迎撃を開始するように命令し、兵士や冒険者たちは剣や弓などを構えた。
鏖殺がここから百メートルほどの位置まで到達した。
兵士や冒険者たちは矢や魔法を放つが、的が小さいためかほとんど当たらない。いくつかの矢や魔法が鏖殺に当たりはしたが、まるで効いている様子もなかった。
俺たちも魔法や矢やを放つがぜんぜん当たらず、唯一アルバニアの放った矢が後翅に当たったが、なんともないかのようにはじかれた。
「ギシャアアアアアアアアアァッ!!」
鏖殺は城壁に脚をつけると同時に鎌を横薙ぎに振るい、斬りかかった冒険者たちを上下真っ二つに斬り裂いた。
兵士や冒険者たちが鏖殺に迎撃を開始するが攻撃を行う前に首を刎ねられ、攻撃が当たったとしても硬い外骨格に阻まれまるで攻撃が通らない。
「――な、なんだこいつ……!?」
鏖殺の外見は前に出会ったときとくらべ、かなり様変わりしていた。
外骨格の色はさらに黒くなり、血管のような模様が外骨格に浮き出ている。そして、鏖殺の持つ鎌は――紅い。
まるで血を吸い続けたかのように、紅く変色している。
俺は鏖殺の方へと走り出し、バスタードソードを横薙ぎに振るう。しかしカキンッ! という金属音が響き、鏖殺の鎌によって止められた。
そして、もう片方の鎌が俺に振り下ろされる。
「危なっ!?」
俺は間一髪のところで振り下ろされる鎌をよけた。
危うく左右真っ二つにされるところだった。前に戦った時よりも鏖殺の鎌を振るう速度は、明らかに上がっている。
よけた動作から一回転し、再び斬りつける。だが、それも鎌によって止められた。
さっきまで攻撃していた者たちは巻き込まれると危ないと思ったのか、いつでも戦えるようにしながら俺と鏖殺の戦いを見ている。
遠距離攻撃も必要最低限にひかえられ、邪魔になるということもない。
俺は振るわれる死の鎌をよけ、そして斬りつけ、鏖殺と斬り結び続ける――。




