アルバニアと教授
俺は一人でキースの森の奥へと来ていた。
普通の冒険者はここまで奥に来ることはめったにない。それは、ここら一帯がマサクルタイラントの餌場だからだ。
じゃあなんでこんな所まで来ているかというと、この森に生息しているマサクルタイラントの生息地を直接見てみたかったからだ。
一度調べたことがあるのである程度の生態は知っているのだが、直接見たことはなかったのだ。
俺は鬱蒼とした森の中を歩く。
周りからは夏らしくセミの鳴き声が聞こえてきていた。
――まぁ、そのセミは魔物で体長三十センチくらいあり、ちょっかいを出すと襲いかかってくるのだが。
イルーゼから四時間ほど森の奥へと進んだ場所。そこには切り立った崖があり、崖にあいた穴の中にマサクルタイラントの巣があった。
その巣の中には無数の幼虫が蠢いており、所々にサナギも存在していた。
そして、巣の中心には八メートルほどもあるマサクルタイラントの成虫が鎮座している。
「……なるほど、巣には必ず老齢の成虫がいるというのは本当なのか」
本には『若い成虫は狩りをし、老齢の成虫は巣を守る番人となる』と書かれていた。
あまり信じていなかったがこの様子を見るに、どうやら本当のことのようだ。
幼虫は成虫たちの食べ残しを食べながら成長し、およそ三年ほどで成体となるらしい。
巣の中には無数の魔物の骨が散乱しており、動物型の魔物を好んで食べるという話も本当のことのようだ。
俺はマサクルタイラントたちに気づかれないように観察を続け、数十分ほどするとイルーゼに帰るのだった。
―― ―― ―― ―― ――
俺の姿は宿にある裏庭にあった。
俺のほかにはアルバニアもおり、双方共にダガーを握っている。
「――ダガーはあまり斬ることには向いていませんので、基本的に『刺突』で戦います。あと、投擲はできるだけひかえてください、武器を失うことになりかねませんから」
俺はアルバニアにダガーの扱い方について詳しく教えてもらっていた。このためにわざわざ武器屋で鉄製のダガーを一本買ってきている。
なぜダガーに触れてみようと思ったのかというと、せまい場所での戦闘に不便さを感じたからだ。
俺の使う主武器は『バスタードソード』だ。
バスタードソードはただでさえ長く、取り回ししづらい。そんな武器をせまい場所――例えば木々が生い茂る森の中で振り回したらどうなるだろうか?
……答えは『ブレードを木にめり込ませ、非常に大きな隙をさらす』、だ。
実際、俺は何度か木にブレードをめり込ませたことがある。
相手がCランクくらいの魔物ならばまだどうとでもなるのだが、さすがにBランク以上の相手にそんな隙をさらすのは、死に直結しかねない。
そのため、せまい場所でも比較的戦いやすいダガーに触れてみようと思ったのだ。
ちょうど身近にその手の先生もいるしな。
「構えはこれで合ってるか?」
「はい、ですがもう少し腰を低くして肩の力を抜いてください。そしてそれから――」
しばらくアルバニアにダガーの扱い方について教えてもらった。
なかなか教え方がうまく、簡単に言いたいことを理解できた。
「……ソータさんって、本当に戦闘の才能がありますね」
「まぁ、確かにな」
「ソータさんは今日初めてダガーをまともに扱ったんですよね?」
「……そうだな」
確かに、きちんとダガーに触れてみるのは今日が初めてだ。
「普通、そんなに急激に上達したりしませんよ」
確かに自分でもびっくりするほど素早く上達したが、まだ実践で使ったりするのは時期尚早だろう。
「ともかく、教えることのできるものはまだありますから、しっかりと覚えてくださいね」
「あぁ、ご教授頼むよ」
俺はアルバニアにダガーについて様々なことを教えてもらい、着々と上達していった。
―― ―― ―― ―― ――
『デルミーラ』という町にある城壁の上には、数多くの兵士たちが緊張した様子で空のかなたを見つめていた。
そしてその中に一人、ほかの者とは違った理由で空を見つめている者がいる。
「……アリスちゃんとアルバニアちゃん、元気にしてるかしら? まぁ、ソータくんもいるし何事もないとは思うけど」
そこにはハルバードを携えて、なにやらぶつぶつとつぶやいている女性――『クレア』がいた。
まわりにいる兵士たちはそんなクレアを気味悪そうに見ていたが、当の本人はその事には全く気がついていない。
チェイスから派遣された者の中にはクレアの姿もあり、そんなクレアが派遣されたのはデルミーラという町だった。
このデルミーラは三つの街道が交差する地点として非常に重要な場所だ。
そのためこの町は多くの人々が通るのでかなり賑わっている。だが、今そんな町はまるでゴーストタウンのようなありさまだった。
普段賑わっている大通り沿いの店々は戸がすべて閉ざされており、普段の様子を知らない者が見たとしても異様に思うだろう。
「……っ! 来たわね」
クレアは素早く我に返り、真っ先にこちらへ飛んでくるモノに気がついた。
そして、クレアがそれに気づくとほぼ同時に見張りの兵士も気づき、監視塔に吊り下げられていた鐘が鳴らされる。
周囲に鐘の音が鳴り響く。それを聞いた兵士たちは各々の武器を手に取った。
――そして見えてきたのは、全身が闇のように黒く血のように紅い、異様な魔物の姿だった。




