到着
俺たちが乗っている乗合馬車は森の中を走っていた。途中一度休憩を挟みつつも、日が完全にのぼりきる頃には森を抜けることができた。
森を抜けると、そこには城塞都市があった。
城壁の高さは二十メートルほどもあり、上で弓兵がかなりの人数待機している。
ここは俺たちの目的の場所でもある、『イルーゼ』という町だ。
……ていうか、今まで見てきた町は全て城壁に囲われていたが、やっぱり魔物がいる影響で城壁がないとやっていけないのだろうか?
まぁ、確かに城壁がない状態で魔物が襲撃しに来たらそのまま町に入ってくることになるし、どうしても必要になるのか。
「あーやっと着いたわね」
「最近は移動続きでしたからね。正直、私はもう移動は懲り懲りです」
乗合馬車が城門に着き全員の身分確認がおこなわれ問題ないことが確認されると、馬車は町の中に入って行く。
町の全容はよくある感じで、チェイスとさほど変わりはない。
乗合馬車が降り口に着くと乗客が全員下りていき、それぞれ別の方向へ歩いていった。
「とりあえず、まずは冒険者ギルドに行きましょうか」
「ですね、到着したことは早めに報告しておいた方がいいでしょうし」
俺たちはオーウェンから事前に場所を聞いていた冒険者ギルドへと歩いて行く。
大通りを五分ほど歩いて行くと剣の描かれた看板があり、もう一つの看板には『イルーゼ支部 冒険者ギルド』と書かれていた。
扉を開き、中へと入る。
イルーゼの冒険者ギルドはチェイスのものと基本的な構造は同じだが、所々の装飾や物の配置がかなり違った。
俺たちは空いていた受付へと歩いていく。
「冒険者ギルドへようこそ、どのようなご用件でしょうか?」
「ここのギルドマスターに用がある。とりあえず、これを渡してきてくれ」
俺はストレージから手紙の入った封筒を取り出して、受付の女性に渡した。
これはオーウェンから『イルーゼのギルドマスターに渡してくれ』と言われていたものだ。
なにが書いてあるのかは知らないが、『重要なことが書かれているから、絶対に無くすなよ』とは釘を刺されていた。
「……かしこまりました、少々お待ちください」
女性は封筒を受け取ると、受付の中にある階段から二階へと上がっていった。そしてしばらくすると、階段から女性が下りてくる。
「ギルドマスターがお会いになられるそうです、どうぞこちらへ」
俺たちは階段を上がり、しばらくすると『ギルドマスター執務室』と書かれた札の掛かった扉の前にきた。
「ギルドマスター、お連れいたしました」
「――入ってください」
女性が扉を叩くと、中から中性的な声が聞こえてきた。
扉を開けると、女性は俺たちに中へ入るように勧めた。俺たちが部屋に入ると女性は部屋には入ってこず、扉を閉める。
「まず、遠路遥々イルーゼまで来てくださったこと、感謝します。私がこのイルーゼのギルドマスター、『リアム・モリス』です。どうぞお見知りおきを」
そこにいたのは、眼鏡をかけており知的な雰囲気が漂う好青年だった。
リアムは小さく笑みを浮かべている。
年は二十代前半から二十代中盤くらいか? ……ただ、俺の感ではもう少し年齢が高い気がする。
「私はアリスよ」
「アルバニアです」
「ソータだ。手紙にも書いてあったと思うが、俺たちは例の『鏖殺』を討伐するためにここへ派遣されてきたパーティーだ」
チェイスでは今回の騒動を受けて冒険者を各地へ派遣することになったのだが、鏖殺は比較的小さく見つけづらいため、各町にパーティーを一つずつしか派遣することができなかったのだ。
俺たちはここ、イルーゼを担当することになっている。
「はい、あなた方のお噂はかねがね聞きおよんでおります。なんでも、チェイス付近に現れたベヒモスの討伐作戦において、多大な貢献をされたとか」
「まぁ、成り行きでな」
「あなた方のような優秀なパーティーが来てくれたことに、イルーゼの住民を代表して感謝申し上げます」
リアムは俺たちに頭を下げた。
「別に指名依頼を受けてここに来ただけだから、そんな大仰にしなくてもいいぞ?」
「いえ、そういうわけにはいきません。イルーゼ付近は魔物がそこまで強いというわけではなく、冒険者の数もそこまで多いわけでもないため、全体的に冒険者の戦闘力が低いのです。あなた方のようなパーティーが来てくれるというのは、非常に心強いことなのですよ」
「それならよかった。まぁ、鏖殺が来なければ基本的にこの町の周辺とかで狩りをしているだけなんだがな」
今回受けた依頼は、派遣された町に鏖殺が来たら撃退、可能であれば討伐するというものである。
それ以外は自由時間なのだが、鏖殺の死亡が確認されるまではその町を離れるのは禁止されているのだ。
「はい、何事もなければそれでかまいません。なにか私に聞きたいことはありますか? 可能な限りお答えしますよ」
そのあとは、周辺の状況やおすすめの宿を聞いたりして、俺たちは部屋を出ていった。
―― ―― ―― ―― ――
リアムから聞いたおすすめの宿で部屋を取りご飯を食べて、その日はそのままぐっすりと寝た。
そしてその翌日、俺たちの姿はイルーゼの付近にある『キースの森』にあった。
この森はフェリクスの森などと比べると、生息する魔物も生態系の構造もかなり違う。
フェリクスの森は様々な魔物が乱雑に生息しているが、キースの森はマサクルタイラントを頂点とした生態系が形成されているらしい。
「――はぁっ!」
俺は横にとんで細長く見るからに鋭い牙をかわし、その時できた隙に蛇の魔物の首を斬り飛ばした。
蛇の魔物は首を斬り飛ばされたことによって地面でのたうち回り、やがて動かなくなった。
いま倒した魔物は、『ブラッディスネーク』というDランクの魔物だ。
体長は一・五から二・五メートルほどで、体色は光沢のない黒色に所々が返り血を浴びているかのように赤い模様があった。
戦闘においてはそれほど強いわけではなく、噛みつく力も弱く締め付ける力も弱い。
だが、ブラッディスネークに噛まれると出血が止まらなくなり最終的には失血死するという、俺の知識でいうと『ヘモトキシン』と同じような毒を持っているらしい。
噛まれた傷は《ヒール》などを使っても治すことはないらしく、一度《キュア》などで解毒してからでないと傷を治すことはできないそうだ。
なんでも、十分以内に解毒しないと致死率は百パーセントであるらしく、五分以内に治療できたとしても、三十パーセントで死亡し六十パーセントで後遺症が残るらしい。
ただ、早急に治療すれば後遺症などは残らないようである。
こいつに遭遇するのは本日二度目で、一度目は歩いている時に木の上から降ってきたのだ。
アリスが咄嗟に魔法を放ってくれなかったら、確実に噛まれていただろう。
ブラッディスネークは何気に隠密性が高く、知らず知らずのうちに近づかれることが多々あるらしい。
俺たちは数時間ほど狩りをすると、イルーゼに戻るのであった。




