移動開始
移動回が続くので、今日は三話投稿します。
オーウェンから指名依頼を受けた翌日。俺たちの姿は、城門近くの『乗合馬車乗り場』にあった。
乗合馬車とは、不特定多数の客を乗せて主に都市間の輸送をする、決められた時間通りにはしる馬車のことである。
わかりやすいもので例えると、電車やバスに近いか。
もっとも、乗合馬車はそこまで厳密な時間通りに走ってくれるというわけではないんだが。
「――それにしても、いきなり指名依頼を受けたと言われたときは驚いたけど、結果的にはこれでよかったわね」
「そうですね、正直あのまま取り逃がしたままですと、後味が悪いですから」
俺たちは馬車へと乗り込んでいく。
今朝俺が勝手に指名依頼を受けたことを知ると小言を言われたが、怒られはしなかった。
アリスは今回の依頼に乗り気になるだろうとは思ったが、まさかアルバニアも乗り気になるとは予想外だったのだが。
御者は並んでいたの者たちが全員乗車したことを確認すると、ゆっくりと馬車は進めはじめた。
この馬車には俺たちを含めて十人も乗っていない。それはこの馬車が一等級の乗合馬車だというのが原因だろう。
乗合馬車には等級が存在しており、全部で三等級まで存在している。
一等級の乗合馬車は一人一人の場所が充分に取られており、伸び伸びと足を伸ばすことができる。その代わりに乗車料金が三人で合計白金貨一枚近い値段になっているのだが、すし詰め状態で何時間も馬車に揺られ続けるのは勘弁なので不満はない。
そして、この馬車が午前八時に出発するというのも関係しているだろう。
急ぐ者は六時の便に乗り、ゆっくりとしたい者は正午の便に乗るために、比較的この時間は空いているらしい。
チェイスの城門で乗っている全員の身分確認が行われ、問題ないことが確認されると馬車は外へと走り出した。
次の町までは歩きで半日、この乗合馬車では約六時間かかるそうで、その間は暇になるわけだが――。
「ソータ、前の本貸して」
「ん、ほれ」
俺は水属性魔法について書かれた本をストレージから取り出して、アリスに手渡した。
「私は魔物について書かれたものをお願いします」
「えっと……これでいいか?」
俺は魔物の生態や体の構造が詳しく書かれたものをアルバニアに渡した。
二人は本を受け取るとさっそく読み始める。
俺のストレージの中には優に一万冊を超える本が収納されているため、正直にいってどれだけの時間があっても潰すことができた。
無論、そんなことをしていればほかの乗客たちに好奇の目で見られるのだが、アリスはこれといって気にした様子はない。アルバニアも本に集中しているのか、全く気にしていないようだ。
俺はというと、一々気にしていたら切りがないので、目線を本に向けて気にしないようにしていた。
チェイスから次の町までの街道の周囲は森にかこまれており、いつ魔物に襲われるかわからない。そのため、この馬車には護衛の冒険者が三人乗っていた。そのおかげで俺たちは安心して移動することができる。
それに、どうやら一等級の乗合馬車は盗賊に襲われることはほぼないそうだ。
一等級の乗合馬車には時折貴族が乗ることがあるらしく、盗賊たちは襲ったことによって貴族に怒りを買うことを恐れているらしい。
特に何事もなく馬車は順調に進み気がつけば森を抜けており、チェイスの隣町『バートン』に到着した。
バートンを守る城壁は、なんとチェイスよりも高い。
なんでもこの町はかなりの頻度で魔物の襲撃を受けるらしく、増築に増築を重ねた結果、最終的にこうなってしまったらしい。
――最早ここまで高くなると、何メートルあるのかよく分からないな。
バートンの城門に着き、全員の身分確認が行われると中へと入って行く。
乗合馬車の降り場に着くと、馬車が止まり御者をしていた男によって扉が開かれた。
乗客たちが次々と降りていき、最後に俺達が降りると馬車はどこかへと走っていった。
「さて、明日には次の町に向かうことになるから、今日はここでのんびりするか」
「えぇ、とりあえず宿にいきましょうか」
「そうですね、ずっと馬車に乗っていただけとはいえ少々疲れましたし」
俺たちは前に二人が泊まったことがあるという宿に向かった。
十分ほど歩くと大通りに店を構える目的の宿、『月光亭』が見えてくる。
そこはなんというか、豪華な建物だった。
中に入ると広々としたエントランスが見えてきた。
エントランスは明かりのマジックアイテムで明るく照らされており、所々に女神を模ったと思われる精巧な石像が置いてあったりする。
一人部屋と二人部屋を一つずつ取り、アリスたちは二人部屋へ、俺は一人部屋へと入っていく。
……ていうか、一人部屋一泊で金貨四枚は高すぎないか? 二人部屋なんて、金貨六枚もしたしな。貴族が泊まることもあると聞いてたが、流石に足元を見すぎてないか?
俺はそう思いながらベットへと腰かける。すると――。
「あぁ……なるほど、確かにこれなら納得だな」
このベットは高級品らしく、ものすごくふかふかしていた。かかっている布団もかなり軽いのに暖かそうだ。
それに、この部屋は冷房のマジックアイテムが取りつけられているのか、ほどよく涼しかった。
これほどの設備が整っていて、頼めば飲み物や食べ物を従業員が買ってきてくれたりするという話なんだから、確かに高くてもその金額には納得がいく。
夜になり、俺たちは宿にある食堂でおすすめのものを店員に注文した。
そして持ってこられたのは、ここ近辺で取れたのだろう山菜や川魚が使われた定食だった。
丁寧に下ごしらえされていたらしく、苦すぎたり泥臭くなくとても美味かった。
その日は布団に入ると知らず知らずのうちに馬車移動で疲れていたのか、五分とせずに眠りについたのだった。




