独りでに動く者
――それは、さっきまで俺が寝ていた場所の近くにあった、『骸骨』だった。
骸骨はどす黒いオーラのようなものを纏い、目には赤い光が灯っていた。そして、手には刃こぼれの激しいボロボロの『ロングソード』を持ち、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
ボロボロではあるが、攻撃されれば怪我を負うことは間違いないだろう。
骸骨が独りでに動くことに意表を突かれたが、その原因がこちらに近づいて来ているので、瞬時に警戒にうつる。
骸骨を無視して急いで扉から出るということも考えたが、外になにがあるか分からないのでここで撃退することにした。
「く、来るならこいっ!!」
覚悟を決めるように叫んだ。すると、骸骨は走り出してロングソードを俺に振り下ろしてきた。俺は骸骨の気迫に怯えて、その場を回避するために跳躍した。
「……っ!!」
後を追うように聞こえてくる何かを破壊する音。俺はすぐに体勢を立て直し、その音の原因を確認する。
そこにあったのは、破壊されたマネキンの残骸。技術ではなく強引に力によって破壊されたようで、骸骨がとてつもない力を持っているということを、如実に物語っていた。
……なるほど、こいつの攻撃を受けるのは得策じゃなさそうだな。だが、凄まじい力をもってはいるが、そんなに早くは動けないらしい。うまくやれば、隙をつくることは充分にできそうだ。
攻撃をわざとバスタードソードで受け止めて、それをそらして隙をつくるということもできそうだが、俺にそんな技量は無い。そんな事をしたら、失敗してその隙に首の骨をへし折られる結末が見える。
そして、骸骨の持つロングソードは半ばで折れていた。たぶん、骸骨の扱いに耐えきれなかったのだろう。
「……落ち着け、落ち着け……剣がある、なら戦える」
自分自身を言い聞かせ、怯えを抑え込む。
骸骨は再び走り出し、ロングソードを振り下ろしてくる。俺はそれを横へとんでよけ、バスタードソードで骸骨の首を斬り落とそうと横薙ぎに振るう。しかし、骸骨は姿勢を低くしてよけた。そして、骸骨はカウンターの要領で俺の腹めがけて突きを放つ。
「ぐっ!」
なんとかバスタードソードを盾にして防御したが、すごい力だ。俺は三メートルほど後ろに突き飛ばされていた。もしまともに食らっていたら、致命傷はまぬがれなかっただろう。
いきなり速く動いたというよりは、予測されていたといった感じだった。どうやら、するどい観察眼は持ち合わせているようだ。
再び、骸骨は俺にロングソードを振り下ろしてくる。俺はそれを受け流そうとする素振りを見せた。もちろんブラフである。
骸骨がより一層力を込めるのを見るや、俺は横に跳んで一瞬の隙を突き、骸骨の頭に回し蹴りを放って蹴り飛ばした。
頭は勢いよく飛んでいくと、壁にぶつかって大きな音を立てながらバラバラに砕け散る。
さらに俺は回し蹴りをした勢いを利用して一回転し、バスタードソードで骸骨の利き腕と思われるロングソードを持っている右手を斬り飛ばした。
これで骸骨の攻撃手段はなくなったと思ったが、今度は左手を握りしめて俺に殴りかかってくる。しかし、頭を失って空間認識能力を弱くなったのか、俺の少し横のなにもない場所を殴った。そして、空振りしてそのまま体勢を崩し、地面に手をつく。
隙だらけである骸骨に、俺はバスタードソードを振り下ろした。骸骨はよける事ができずに、俺は背骨を叩き斬った。すると、纏っていたオーラが空気中に拡散していき、骸骨はそのまま動かなくなる。
しばらく眺めていたが、骸骨が再び動き出すようなことはなかった。
「――ふぅ……なんとかなったか」
俺は警戒を解いて骸骨を観察し始めた。だが、人骨であること以外に奇妙な点はない。独りでに動き出したカラクリはまったく分らなかった。
しかし、ふと骸骨の胸部あたりにキラキラと光るものが落ちているのが見えた。それは十センチほどの歪なひし形の結晶で、七色に光を反射していた。
何かよくない呪いとかが掛かっていそうだったので、俺は触らずにそっとしておくことにした。
「……さて、普通に考えて、骸骨が独りでに動くわけがないんだよな」
それに、骸骨が纏っていたオーラも説明がつかない。……認めるしかないか。
――どうやら俺は、異世界へ転移したらしい。