クレアと狩り
一章が終了し、二章に突入です!
俺は商業街に建ち並ぶ店々を軽く冷やかしながら散策していた。
ちなみに、現在アリスとアルバニアとは別行動中である。
具体的になんの用があったのかは聞いていないが、少なくとも今日一日は別行動になる予定だ。
「――あ、あの……! あなたはソータさん、ですか?」
ゆったりと歩いていると、急に後ろから何者かに話しかけられた。
後ろに振り向くと、そこには茶髪の十歳くらいの女の子がいた。
「確かにそうだが、なんか用か?」
「えっと、その……握手してもらってもいいですか?」
「あぁ、そういうことなら別にいいぞ」
俺は差し伸べられた女の子の手を握った。
ベヒモスを討伐して以来、俺は町中でよく話し掛けられるようになった。
握手を求められたりする他愛ないものから、力比べを要求されたりする迷惑なものまで多種多様である。
はっきり言ってめんどくさいのだが、嫌われているよりはまだましだ。
まぁ、急に知らない奴から金を貸してくれと言われたりだとか、いるはずのない生き別れ姉を名乗る奴が現れたりだとか、よく分からない商会から投資しないかとしつこく迫られたりと悪意のあるものもあったのだが、そういう輩にはそれなりの対応をさせてもらった。
流石に命を狙われるようなことは無かったが、俺のバスタードソードを強引に奪おうとした冒険者はいた。
そいつは『俺の方がお前よりも上手く扱える』とか『お前のパーティーメンバーの女どもは俺と組む方がいい思いをさせてやれる』とか言っていたのだが、無視したら俺に殴りかかってきた。なので、顔を気絶しない程度にぶん殴ってやった。
これで二度とふざけたことをぬかすことはないだろう。
「あ、ありがとうございます……!」
女の子は嬉しそうにどこかへと走り去って行った。
子どもはいい。純粋無垢で、相手をしていて全く苦がない。
対して、大人は穢れている者が多過ぎる。
私利私欲にまみれ、他人のことなど全く考えもしないような者を俺は幾度となく見てきた。
軽度であれば別にどうでもいいんだが、あまりにも度が過ぎると見ていて気分が悪くなってくる。
頼むから、もっとまともな者が増えて欲しい。高潔な人柄までは望まないから、せめて他人に思いやりの心がある者が増えて欲しい。切に願う。本当に。
俺は町を散策し、しばらくすると屋敷へと帰るために進路を変え、大通りを歩いていた。
大通りには脇道にあるような小さな商店はなく、代わりに大きな商会の店や比較的高級な宿などが立ち並んでいる。そして、なかには道脇で屋台を出している者がいたりと、中々活気があった。
周辺を眺めていると、一つの屋台に目が留まった。そこでは肉の串焼きが売っており、数人の行列ができている。
俺はその列の最後尾に並び、しばらく自分の番を待った。
「三本もらえるか?」
「いらっしゃい! 三本で銀貨十五枚だよ!」
俺の番になり串焼きを三本注文すると、屋台にいた中年の男が応えてくれた。
ストレージから銀貨を十五枚ちょうど出すと男は少し驚いたが、すぐに銀貨を受け取った。そして、金網から串焼きを三本取ると大きな葉っぱにのせて俺に渡してくる。
「はいよ」
「ん、ありがとう」
「また来てくれよ!」
俺は串焼きをストレージに収納し、屋敷の方へと再び歩き出した。
―― ―― ―― ―― ――
俺たちは冒険者ギルドに来ていた。
今日は気分をかえて冒険者ギルドで朝食をとることになったのだ。
「とりあえず、まずは食事をしましょうか」
「ですね」
「あぁ」
俺たちはギルドに併設されている酒場を見渡す。だがしかし――。
「……どこも空いてないな」
「ほかのところに行く?」
「そうですね、別にここで絶対食べたいわけではありませんし」
俺たちは踵を返してほかの食堂へ行くことにした。
いつ席が空くかはわからないし、ここでずっと待っていても時間の無駄だろう。
「――あっ、アリスちゃん、アルバニアちゃん、ソータくん! ここ空いてるわよ!」
急にそんな声が聞えてきたので足を止めてそちらを向くと、そこには『クレア』がいた。
クレアのいるテーブルにはまだ席が三つ空いていた。
俺たちはクレアのいるテーブルへと歩いて行く。
「クレア、いたんだな」
「えぇ、どう? 一緒に食事しない?」
「まぁ、席が空いてなかったからほかの所へ行こうとしてたんだしな、じゃあお言葉に甘えて」
「クレアが言うなら、そうさせてもらうわ。――あ、おすすめの定食を頂戴」
俺たちがクレアのいたテーブルの開いていた席に座ると、店員が一人のこちらへ歩いてきた。そして、その店員にアリスが注文を口にする。
「では、私も」
「俺も頼む」
「かしこまりました、少々お待ちください」
金貨を一枚渡すと、店員は厨房へと下がっていった。
「ねぇ、クレアはこのあとどうするつもりなの?」
「私はこのあとフェリクスの森で狩りをしようと思っていたところよ、アリスちゃんたちは?」
「私たちもよ。ねぇ、クレアも私たちと一緒に行かない?」
「いいの? そういえば、ソータくんがパーティーに入ってからは一緒に行ったことがなかったわね。わかったわ、一緒に行きましょう」
なんか勝手に話が進んでクレアと一緒に狩りに行くことになってるが、別に不満はないから口出しする必要はないか。
それに、チンピラ相手の戦闘じゃなくて魔物相手の戦闘も見てみたいな。
ワイバーンが襲撃しに来た時に一度見てはいるが、少ししか見れなかったしな。ちゃんと見てみたいし、盗める技術があるかもしれない。
それとこれはちなみにだが、クレアはベヒモスの討伐作戦には参加していなかった。
どうやら町の防御の方に参加していたらしく、それなりに活躍したらしい。……といっても、町に襲撃しに来たのは最高でもBランクまでだったみたいだが。
俺たちは店員が持って来てくれた定食を食べ終えると、クレアと一緒にフェリクスの森へ狩りに出かけた。
―― ―― ―― ―― ――
「――はぁっ!!」
クレアがハルバードを熊の魔物――『テラーベアー』へと振り下ろす。しかし、テラーベアーは持ち前の長く鋭い爪を使い、クレアの攻撃を防いでみせた。だが、そこへ俺がバスタードソードで突きを放ち、テラーベアーの胸を貫く。
「――っ!? 浅いっ!」
テラーベアーの胸にバスタードソードが突き刺さりはしたが、心臓を貫くほど深くはなかった。
「グアアアアアアアァッ!!」
テラーベアーは立ち上がると、丸太のように太い腕を横薙ぎに振るった。俺は姿勢を低くして、ぎりぎりのところで攻撃をかわす。
ブオンッ! という凶悪な空気を切る音を立てながら、俺の頭頂部を腕がかすめた。
そこへアルバニアの放った矢がテラーベアーの目に突き刺さりそうになるが、テラーベアーはいとも簡単に爪で弾いた。
「ウォーターカッター!」
アリスが放った水の刃がテラーベアーの首元へ向かう。しかし、テラーベアーは腕を十字に交わらせ防ぐ。
「とどめよ!」
だが、クレアが腕を上げたことで隙だらけになったテラーベアーの脇の下を斬り裂いた。
さすがはAランク冒険者だ。まったく戦闘に危なげがない。
「グアアアアアアアアァッ!?」
テラーベアーの脇の下からは大量に鮮血が噴き出したが、それで動けなくなる事はなく俺たちに攻撃をしてきた。しかし、攻撃の速度や威力は少し前と比べて明らかに落ちている。
しばらくするとテラーベアーは倒れ込み、動かなくなった。どうやら失血死したようだ。
「ふぅ……あー怖かった」
「もう、気をつけなさいよ!」
アリスが俺を窘める。
「……いや、まさか肋骨に阻まれるとは思ってもみなくてな」
体をわずかにずらして心臓を守ってくるというのは、流石に予想外だった。
よけることは絶対にできない状況だったから、なおさら驚かされた。
「次からは気をつけてよねっ! 私、ヒヤッとしたんだから!」
「あ、あぁ、すまなかった」
アリスは俺の顔を指さし、強く注意した。
はたから見たら小さな女の子に叱られているようにしか見えないな。……いや、実際にそうなんだが。
視界の端では、アルバニアとクレアがこちらを微笑ましく見ていた。
ちゃんと見えてるからな、『二人とも仲いいね』じゃねぇよ。
そんなことがありつつも順調に狩りを続け、クレアのおかげでいつも以上の成果を上げたのだった。
明日からは一話ずつの投稿になります。
理由はこのままいくと、すぐにストックがなくなってしまうからです。
かならず毎日一話投稿するので、どうかお付き合いください。




