新たな拠点
朝日がのぼり六時の鐘が鳴って少し経った頃、俺たちは貴族街近くの住宅区を歩いていた。
「ねぇソータ、あとどれくらい?」
「角を二回曲がったところだな」
俺たちは昨日アベルからもらった家のある場所へと移動していた。
すでに銀狼亭を引き払い、荷物をまとめて全てストレージに収納している。……といっても、俺の荷物は元からほぼストレージに収納されており、アリスとアルバニアの荷物を預かっただけなんだが。
あと、俺が家を手に入れたので二人に今後どうするかと聞いてみたのだが、アリスは『当然ついていく』と言ってきた。
なんでもシェアハウスというのは特に珍しいことではないらしい。パーティーでまとまって生活している冒険者も少なくないみたいだ。
なので、俺がアベルから家をもらったと聞いて、アリスは嬉々として銀狼亭を引き払う準備をしていた。
そんなアリスを見て、アルバニアはいいのかと聞いてみたのだが、その答えは『アリスがよければ』というものだった。
そんな二人の様子を見ていると、断ることはできなかった。……まぁ、俺も女の子と暮らせるというのはまんざらでもないんだが。
「おっ、着いたぞ。……って、聞いていたよりも大きいな」
そこにあったのは家と呼ぶには大きすぎる、もはや屋敷とも呼べる建物だった。
事前にもらっていた門の鍵を開けて、中に入る。
敷地の中央には二階建ての母屋があり、すみには物置小屋があったり花壇があったりする。
玄関の鍵を開けて中に入る。
見えてきたのは、天井からやや小ぶりなシャンデリアがぶら下がっている立派なエントランスだった。
流石に領主館にあったエントランスとは比べ物にならないが、それでも充分豪華だろう。
俺はシャンデリアを灯すスイッチを探しだし、それを押した。
「……あれ?」
スイッチを押したが、なぜかシャンデリアは光らない。
何度も押してみるが、一向に点く気配はなかった。
「あー……多分『魔力貯蔵器』の魔力が枯渇していますね」
「魔力貯蔵器?」
「魔力を貯めておいて、その建物に備えつけてある様々マジックアイテムに魔力を送る装置よ。大体は建物の一階に設置してあるから、手分けして探しましょう」
あぁそうか、発電所から電気が送られて来たりするわけじゃないのか。
あまりにもそこら中に照明器具があるものだから、そこまで考えが至っていなかった。
「じゃあ、手分けして探すか」
「そうね、その方が早そうだしね」
『《ライト》』
俺とアリスは光球を作り出す魔法を使い、探索を始める。
窓から光が入ってきてはいるが、足元の光がほぼ当たってない場所は薄暗くよく見えなかった。
何もない場所で転ぶほどドジではないが、安全は充分考慮しておくべきだろう。
『――ソータ! あったわ!』
しばらく探索をしていると、後ろからアリスの俺を呼ぶ声が聞こえてくる。
俺はきた道を引き返し、アリスの声が聞えた方向へ歩いていく。すると、一枚だけ扉が開かれている場所があり、中から光が漏れているのを見つけた。
「あっ、ソータ、来たのね」
「あぁ――で、これが魔力貯蔵器か。なんていうか……凄いな」
そこにあったのは、直径約五十センチほどの透き通った水晶玉。
水晶玉は部屋の中央に設置された台座の上に置かれている。台座にはいくつも管のようなものが地面へと延びていた。
そしてなぜかこの部屋に窓はなく、ライトを使っていなければなにも見えなかっただろう。
「それで、これはどうすればいいんだ?」
見たところ、この部屋にはこの水晶玉とそれが置かれている台座しかない。
これはどう操作すればいいのだろうか?
「魔水晶に直接触れて魔力を流せばいいのよ。完全に補充されたら魔力が押し返されるような感覚があるから、そうなったら手を離して。そうすれば魔力が完全に補充されるわ」
なるほど、直接触ってよかったのか。
俺は水晶玉に触れ、魔力を流す。すると、水晶玉は魔力をグングン吸収していき、やがて七色の光を放ちだす。
急に魔力が押し返される感覚がしたので、俺は手を離した。
「――うおっ!?」
突然、ブオンッ! という音を立てながら台座にあった管が七色に光りだし、いきなり部屋の明かりがついた。
「あははっ! ちょっと、驚きすぎよ!」
「……いや、唐突にすごい音が聞こえたからびっくりしただけだからな」
そんなに俺の反応が面白かったのか、アリスは声を上げて笑う。
アリスは一頻り笑うと、涙を拭くような動作をした。
「さぁ、明かりもついたことだし、本格的に探索するわよ!」
そう言うとアリスは部屋を出ていく。俺は苦笑しながらも、それについて行った。
―― ―― ―― ―― ――
屋敷を一通り探索し終え、俺たちは一階にあるダイニングルームに備えつけてあったテーブルにある椅子に腰掛け、水を飲みながら休憩していた。
屋敷の構造は、まず玄関を入るとシャンデリアで照らされたエントランスがあり、二階へ上がる階段はここにあった。
そして、その横には左右に延びる廊下があり、一階にはキッチンルームにダイニングルーム、トイレが左右に二つに空き部屋が三つあった。二階には空き部屋が六つある。
総じてすべての部屋に埃が積もっており、定期的に掃除されていると聞いていたが、あまり頻度は高くなかったようだ。
まぁクリーンできれいにしたから、そんなに気にはならなかったんだが。
そして前の持ち主がなにか関係しているのか、家具の類が全くと言ってもいいほど無かった。
唯一あったのは、ダイニングルームにある備え付けの机と椅子だけだ。
売れ残っていた理由はこれじゃないのか?
「それじゃあ、一通り家具を買いに行きましょうか」
アリスの言葉に俺とアルバニアは立ち上がり、家具を買うために外へと歩み出したのだった――。




