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凱旋

 ベヒモスの死亡が確認されたあと、事態は思っていたよりも早く展進した。

 ある者はベヒモスの解体を始めたり、ある者は負傷者の治療をしていたする。

 前者は俺とアルバニアで、後者はアリスがやっていることなんだが。


 それにしても、このベヒモスというのは本当によく分からない。

 戦闘中はあれだけ斬るのに抵抗があったのに、なぜか今はすんなりとナイフが通る……ていうか、そもそもの話なんでこんな巨体なのに自重で潰れないのかはなはだ疑問だ。

 まぁ、それをいったら『魔物ってなんだよ』って話になるんだが。

 一度この世界についてきちんと調べた方がよさそうだ。



 その日は主に事後処理を中心にやり、気がついたら夕方になっていた。

 現在、俺たちは全員陣地へと戻ってきていた。

 陣地にはどことなく陽気な雰囲気が漂っており、串焼きを手に水で薄められたワインを飲んでいる者がたくさんいる。


 皆が食べている串焼きはベヒモスの肉で作られたものだ。

 魔物の肉なんて食べて大丈夫なのかと思ったのだが、どうやらなんの問題もないらしい。というか、チェイスで食べられている肉は全て魔物のもののようだ。

 俺は知らず知らずのうちに結構な量の魔物肉を食べていたらしい。


 俺は配られたベヒモスの串焼きを口にする。食感は固すぎることもなく、丁度いい柔らかさだ。

 脂身はほとんど無いが、味はどことなく牛肉に近い。だが肉自体の味が濃く、今まで食べてきた肉の中で一番美味いといっても過言ではなかった。


「………」


 一言も喋らずに黙々と食べ、最終的に二十本以上食べてしまった。

 こんなにおいしい物が食べられるなら、討伐した甲斐があるというものだ。

 そして、その日は陣地が静かになることはないまま、夜が更けていった。


 ――  ――  ――  ――  ――


 チェイスの商業街の中心にある大通りには、無数の群集がひしめき合っていた。

 事前にベヒモスの討伐が成功したことは伝えられいたため、かなりの人数が集まっている。そして、たった今城門から入ってきたベヒモスの討伐隊へ盛大に拍手を送り、割れんばかりの歓声を上げていた。

 そんな歓迎を受ける討伐隊の顔ぶれは、恥ずかしそうにしている者がいたり、誇らしそうにしている者がいたりする。


 俺はそんな凱旋パレードを、アリスと馬に乗りながら列を進む。俺たちの横には馬に乗ったアルバニアもおり、俺たちの前にはバナンや騎士の中でも選りすぐりの精鋭が数人いたりした。


 俺たちがいるのは、ほぼ最前列の場所だ。前に数人いるが、こんなの最前列といっても過言ではない。

 バナンはかなり有名らしく、さっきからバナンへ手を振る者や、声援を送るがいたりする。だが、バナンはこういうことには慣れているようで、小さく微笑みながら手を振っていた。


 実は、この配列は今朝に決められてものだ。

 どうやら凱旋パレードでは戦いで活躍した者が先頭に近い場所を飾る習わしがあるらしく、こういう配置になった。

 当然先頭の近くにいる者は注目されるわけで――。


「おい、あの騎士団長の後ろにいるやつらって誰だ? 格好から見て、多分冒険者なんだろうけど」

「ん? あぁ、あいつらか。多分、最近期待の新人っていわれてるやつらじゃないか? 特にあの黒髪の、あいつかなり強いらしいぜ」

「へぇ、あんな前の方にいるってことは、きっと活躍したんだろうな」

「確かベヒモスは勇敢な冒険者によって討伐されたって話だから、多分あいつらだろうな」


 冒険者の風貌をした二人の男たちの声が俺の耳に聞こえてくる。

 さっきから俺たちのことを噂するような声が度々聞こえてきていた。

 俺はかなり注目されるだろうバナンが俺の前にくるという話を聞いて、この位置になるのを承諾したのだが……どうやら詰めが甘かったらしい。


 このパレードは城門から領主館の前まで行軍する。

 行軍速度はかなり遅く、約一時間掛けて移動するそうだ。


「頼むから、早く終わってくれ……」


 そのつぶやきは歓声によってかき消され、誰にも聞えることはなかった。


 ――  ――  ――  ――  ――


 俺はいま馬車に乗っている。

 その辺にある馬車よりも高級なものらしく、乗り心地も悪くない。


 昨日、パレードが終わった後はそのまま銀狼亭へと帰った。

 久々に銀狼亭のベッドで寝ることができたが、やっぱり森の中よりも安心して寝る事ができる。久しぶりにゆっくりできた。


 そして、今朝に領主の使いを名乗る男が銀狼亭に来て、俺に領主から用があるという旨を伝えて来たのだ。

 俺は特に用事があるわけではなかったので了承した。すると、すでに移動する準備はできていたらしく、銀狼亭の前に馬車が止まっていた。

 アリスとアルバニアもその時いたのだが、なぜか俺だけしか呼ばれていなかった。


 現在、俺はその馬車に乗って領主館を目指していた。

 外を見ると、大きな噴水や色とりどりの草花が植えられていたりする。

 すでに領主館の敷地内に入っており、現在馬車が走っているのは領主館の敷地内にある庭園だった。


 外を眺めていると馬車が減速していき、そして止まった。

 しばらく待っていると、馬車の扉がノックされて扉が開かれる。そこには、御者をしていた使いの男がいた。


「到着いたしました。案内は私がさせて頂きます」

「あぁ、わかった」


 俺は馬車から降りて、使いの男についていく。

 馬車はその場にいた別の男が御者席に乗って、また別の場所へと走っていった。


 使いの男に従って領主館を歩いて行く。中はかなり広く、所々に高そうな壺や花瓶が置いてあったり、どこかの風景画が飾ってあったりした。


 五分ほど歩き、ある部屋に着いた。

 部屋は十畳くらいの広さで、ソファーやテーブルが置いてある。テーブルの上にはハンドベルのような物が置いてあった。

 俺はその部屋の中に入り、勧められたソファーへと座った。


「少々お待ちください、領主様をお呼びしてきます」


 使いの男が部屋から出ていくとほどなくして一人のメイドが部屋へと入って来て、クッキーと紅茶を入れてくれた。

 あまり詳しいことはわからないが、非常に動作はテキパキとしたもので、熟達した技術を感じられる。


「ごゆっくり」


 メイドはそう言って、部屋から出ていった。

 俺はクッキーを手に取り、口にする。サクサクとしたほどよい食感があり、クッキーの香ばしい匂いが鼻孔をくすぐる。

 味はほのかに甘く、一切くどくなくずっと食べていられそうだ。

 

 次に、ティーカップを掴み紅茶を一口飲む。すると、なにかの花の香りが口いっぱいに広がった。

 味は果実のような、ハーブのような独特な味がする。苦みや渋みが少なく、非常に飲みやすい。


「美味い……」


 久しぶりにお菓子を食べることができたが、こんなにも美味しかっただろうか? 甘党なのもあるんだろうが、食べれないとなると無性に食べたくなってしまうのはなぜだろうか? というか、これ明らかに高級品だよな……。


 今までチェイスで小麦を使った食品はほとんど見たことがない。

 なぜなら、チェイスのあるベネット王国は国土のほとんどが山か森で、作物を育てられる場所がほぼ無いためだ。

 中には小麦を栽培しているところもあるらしいが、ほとんどのところはライ麦――実際はそれに似た穀物――が栽培されている。


 このチェイスにもパンは売ってはいるが、そのほとんどがライ麦が原材料の黒パンだ。

 ごく少数、小麦が原材料の通称『白パン』も存在している。しかし、かなりの貴重品で、そのほとんどが一部の金持ちや貴族などによって購入されている。

 なんでも、収納魔法を使える商人がわざわざ遠くから小麦粉を運んで来て、それを主に貴族をターゲットにしたパン屋が買い取り、焼き上げるらしい。


 一度店を覗いたことがあるのだが、その時は一握りほどの大きさの白パンが金貨一枚で売られていた。

 黒パンはおよそ銀貨二枚で買えるため、約五十倍の値段で売っていることになる。


 結局なにが言いたいのかというと、小麦が使われている食品は総じて高級品ということだ。

 さらに、紅茶も小麦と同じような理由で高級品だ。もしかしたら領主館の庭園で栽培されているのかもしれないが、それでも高級品には違いない。

 そんな取り留めのないことを考えていると、急に扉がノックされた。


「どうぞ」

「失礼する」


 そう言って部屋に入ってきたのは、初老の戦士のような男だった。

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