朽ちた遺跡
「――う、うぅ……ん?」
目を覚ますと、覚えのない硬い場所で寝ていた事に気がついた。
体を起こし、周囲を眠気交じりに見渡してみると、まったく見覚えのない場所だった。
「ここは……どこだ?」
俺がいたのは、古代的な祭壇のようなものの上だった。
石造りで、それなりの広さがある。
全然状況が飲み込めないまましばらくし、目がさめてくるととんでもないモノが目に入ってきた。
「うおっ!? ……物騒な」
そこには、白骨化した人間の死体が無造作に転がっていた。
風化してしまっている白装束をまとい、ゆかへと突っ伏している。
そして、そのそばにあった何かの台座の上には、にぶく光を反射する『剣』がおいてあった。
その剣は、片手半剣――『バスタードソード』だった。
バスタードソードとは、片手でも両手でもあつかうことができる、ロングソードの一種のことだ。
長さは片手で扱える『ロングソード』よりも長く、両手でしか扱うことが難しい『グレートソード』よりも短い……言わば、バスタードソードはその二つの剣の中間のような存在である。
そういった性質のために、あつかうことは他の剣よりも難しかったはずだ。
曇りないバスタードソードの剣身には、鏡面に反射して俺の顔が映る。
染めた黒髪、茶色っぽい黒い目、若干整っている顔立ち……特に映えない、毎朝見る退屈そうな顔。
「はぁ……」
一気に目が覚めてきた。ため息をつき、俺は祭壇の上から降りてバスタードソードを眺める。
素人目だが、かなりの業物だ。剣身は炎のような真っ赤な金属で作られおり、触ってみると仄かにだが熱を感じた。
これ、もらってもかまわないよな?
とてつもない価値がありそうだが、見たところここはすでに忘れ去られた場所のようだし、もう誰のものでもないはずだ。
剣にはあまりいい思い出はないが、できるだけ持っていた方がいいだろう。……なんだか胸騒ぎもするしな。
俺はグリップを握り、バスタードソードを持ち上げようとした。
「――っ!?」
だが、グリップを軽く握った瞬間、ドクンッという鼓動のような音が、耳へはっきりと聞こえてきた。しかも、俺の体の近く……それも耳元で鳴ったような感じだった。
俺はグリップから手をはなして、後ろに跳びのきあたりを見回してみた。しかし、目に入ってくるのは祭壇などがある朽ちた石造りの壁や床だけだ。
天井には穴が開いており、そこから光が入ってきているので真っ暗ということはないが、すこし薄暗い。
……気のせい、だよな?
俺は再びバスタードソードを握り、持ち上げる。すると、今度は鼓動が聞こえてくるような事もなく、普通に持ち上げることができた。
横薙ぎにバスタードソードを振るう。全長は一メートル三十センチほどで剣身だけでも一メートルほどもあるが、なぜかそんなに重さを感じない。体感では一キロもいかないほどだ。
グリップを握る力を強めてみるが、不思議としっくりくる。まるで、最初から俺のために作られたかのように。
「……ともかく、早くここを出るか」
俺はさっきまで寝ていた場所を一瞥し――ふと、あることに気がついた。それは、俺がここに来る前にせおっていたリュックが無くなっていたことだ。
周囲を見回したが、どこにもない。リュックの中には財布とかの貴重品が入っていたのだが……ここにないのは確かだ。なら、ここを探していても無駄だろう。
とにかく、この部屋の外も気になるので、俺は外に出るために部屋の奥に見えていたアーチ状の通路から外に出てみた。
しばらく廊下のような場所を歩き、見えてきたのは大きな広場のような場所。そして、中心にはマネキンのようなものが置かれてあった。
そのマネキンには、なぜか腕に二つの防具がついている。
近づいて、俺はその防具を外した。
確か、この防具は『ガントレット』と呼ばれているもので、手を防護するために着用する手袋型の防具だったはずだ。
しかし、俺は一つ不思議に思った。それは、このガントレットは左右非対称だったことだ。
両手とも青い金属で構成されており、左手用のものは手先から肘までを覆うほどの大きさがあった。しかし、なぜか右手用のものは手袋ほどの大きさしかなかったのだ。
しかも、右手用だけは手の甲は青い金属で守られているのだが、指や手のひらの部分は黒い布が使われていた。
こういうのは、籠手と言った方がしっくりくる気がするな。
俺は左右非対称なガントレットを自分の腕にはめてみる。異様に軽いが、この金属は一体なんていう名前なんだろうか? そう疑問に思ったが、いくら考えたところでなにも分かることはなかった。
床に置いておいたバスタードソードを拾い上げ、俺はさっきから見えていた木の扉の方へと行こうとした。しかし突然後ろから、カシャンッ……カシャンッ……という規則正しく何か軽いものを打ちつけるような音が聞こえてきた。
俺は足を止めて、ふりかえる。
「なんだ……?」
その音を例えるなら、生物が歩くようなと言えるような、そんな音だった。……そう思ってしまうと、もはやそれにしか聞こえないな。
俺は不思議に思いながらも、右手でバスタードソードのグリップを、左手で剣身を握って臨戦態勢をとった。
さっきまでは何もいなかったはずだ。開いていた穴からなにかが降りてくるような音もしなかったし、何かが隠れていたとも考えてづらい。
そんなことを考えていると、しばらくしてそれは姿を現した。
「……はっ!?」
――それは、さっきまで俺が寝ていた場所の近くにあった『骸骨』だった。
※この作品において、『ロングソード』と『バスタードソード』は別物として扱うこととします。