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誘導

 視点が途中で変わります。前半が奏多で、後半が三人称です。


 森の中にある開けた場所。そこには千を超える武装した者たちが、緊張した様子で来るべき時を待っていた。


 俺たちのいるここは、ベヒモスを誘導することになっている場所だ。

 広さ的には陣地がある場所よりも一回りか二回りほど広い。そして、簡単なものではあるがいくつかテントが建てられていたりもした。

 すでに準備は完了しており、あとはベヒモスが誘導されて来るまで待つだけである。


 実は昨日、魔物の襲撃が一度あった。

 襲撃しにきたのは、『キラーディア』という魔物で、それが二頭。

 ランクはBで体高が二メートルほどもあり、鹿なのになぜか肉食でかなり攻撃的な魔物だ。


 丁度昼食が終わったころに二頭同時で襲撃しに来たのだが、流石はベヒモスを討伐するために集まった者たちと言うべきだろう。全く被害を出さずに、ものの五分で二頭とも討伐された。

 俺は参加せずに遠くから見ていたのだが、非常に見事な戦闘だった。連携も取れており、皆協力し合って戦闘していた。


 その日俺は特にやることがなかったので、本を読んでいたり魔法の練習や剣を素振りしていたりした。

 おかげで全体的に魔法の発動速度が少し早くなった……気がする。


「――ベヒモスが見えてきたわよ!」


 俺は思考から離れ、アリスの見ている方角を見た。

 そこには、体高が森に生えている木々よりも明らかに高い、四足歩行の巨大な魔物がいた。


 頭部からはねじれた太い角が生えており、体は異様なほど筋肉で膨張している。

 それがゆっくりとだが、確実にこちらへと近づいて来ていた。

 そして、なぜかベヒモスのいる周辺は上空に厚い暗雲が停滞しており、その雲には稲妻がつねに走り、雷鳴が周囲に鳴り響いている。


「……さて、気を引き締めるか」


 俺はいつでも戦えるように最後の準備を整え始めた。


 ――  ――  ――  ――  ――


 時間は少し戻り、ベヒモスの誘導がまだ行われる前。木々の上では、三人の人間が魔法によって飛行していた。

 その顔ぶれは、茶髪と金髪の男が一人ずつに金髪の女が一人だ。

 ここにいる者たちは全員が飛行魔法を使える魔法使いであり、ベヒモスを誘導する班に抜擢された者たちだった。


「はぁ……なんで私がこんな役目を……」

「そりゃあ、今回の作戦に参加しているやつらの中に飛行魔法が使えるのは俺たちしかいねぇからな、仕方ねぇことだ」


 金髪の女――『ジェイダ』が大きなため息をつくと、金髪の男――『バルドリック』がケラケラと面白そうに笑った。


「……ちょっと、なにが面白いのよ」

「うんにゃ、ただこれからベヒモスなんていう超大物に会えるから、楽しくて楽しくて仕方がないだけさ」


 バルドリックは目を細め、舌なめずりをした。周囲が暗いためか、どこか不気味である。


「はぁ……あなたは気楽でいいわね」

「褒めんなよ、照れるだろうが」

「……褒めてないわよ」


 ジェイダはうんざりとした様子で、バルドリックに尻目をかけた。


「……お前ら、もうベヒモスは見えているんだぞ、真面目にやってくれ」


 茶髪の男――『トレヴァー』が二人に注意を促す。


「す、すみません!」

「おう、俺はいつも真面目だぜ」

「……本当にあなたは気楽でいいわね」


 そんなジェイダのつぶやきは誰の耳にもとどくことはなく、虚空の彼方へと消えていった。



 しばらくして、三人はベヒモスの近くまでやって来た。

 ベヒモスは先ほど仕留めたのか、バンダースナッチの死体を貪っている。


「それで班長、作戦通りにやってかまわないよな?」


 バルドリックがトレヴァーへと尋ねる。


「あぁ、そうしてくれ」

「ほんじゃ、いくぞ!」


 バルドリックがそう言うと、三人は手を前に構えた。


『《ブラストボール》っ!!』


 そう声を上げると三人の手の前に赤い火の玉が現れ、それがベヒモスの顔へと飛んで行く。

 次の瞬間、火の玉は盛大に爆発した。


「グガアアアアアアアアアァッ!!」


 ベヒモスは食事を邪魔され癪に障ったのか、顔を歪め魔法を放った三人へ怒りの咆哮をあげる。その形相は、もはや鬼神のようである。

 だがそんなベヒモスを見ても、三人に動揺した様子は全くなかった。

 ベヒモスは食事を中断し、三人の方へ歩き出す。


「よし、このまま誘導するぞ!」

「はい!」

「おうっ!」


 ベヒモスはお返しだとばかりに、三人に噛みつこうとする。しかし、三人はなんともないかのように軽々と避け、ベヒモスの巨大な顎が空中を噛み砕いた。

 その攻撃に込められた力は、一度でも食らえば大怪我は間違いないだろうと確信できるほどだった。


「おぉっ!! こえぇこえぇっ!!」

「……なんであなたは嬉しそうなのよ」


 バルドリックは歓喜の声を上げた。すると、ジェイダはそんなバルドリックに咎めるような視線を向ける。


「そりゃあ、こいつとの鬼ごっこが楽しくて仕方がないからさ!! ひゃっほーう!!」

「はぁ……訂正するわ、あなたは気楽なんじゃなくて、脳筋で戦闘狂なだけだったのね」

「そんな褒めるなって、惚れんぞ?」

「……褒めてないわよ。あと、次からそういうことは絶対に言わないで、本当に気持ち悪いから」


 ジェイダは不快そうに顔を歪め、バルドリックを窘める。

 そんなことがありつつも、三人は着実にベヒモスを誘導していった。

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