質問の意図
俺たちは森の中を進む。
昨日は魔物の襲撃などもなく無事に朝を迎え、移動を開始した。現在の時刻はすでに正午を過ぎている。
景色は昨日と特に変わりない、しかし明らかに昨日とは違う点がある。それは魔物の生息数だ。
昨日は魔物の襲撃が何度かあったのだが、今日は一度も襲撃を受けていなかった。いや、それどころか昨日まで見かけた小鳥やリスのような小さな魔物も一切見かけていないのだ。
「あっ、着いたみたいですよ」
アルバニアが列の先頭の方を指差す。
そこには、なぜか木々が生えてない開けた場所があった。
切り株なども見当たらず、一面に草花が生い茂っている。広さは俺の高校にあった校庭の四倍ほどだろう。
騎士や冒険者は到着すると、事前に決められていた役割通りに作業を開始する。
まずは生えている邪魔な草を刈り取り、そこにテントを立てていく。違う所では穴を掘ってトイレを作っていたり、落ちている薪になりそうな木の枝を拾っていたりした。
そして、俺はというと――安全を確保するために、アルバニアと周辺の偵察をしていた。
アリスは様々な用途で使う水を生成するため、俺たちとは別行動だ。
「――ソータさんは、アリスのことをどう思っています?」
アルバニアはなんの前触れもなく、いきなりそんなことを聞いてくる。俺には質問の意図がまるで分らなかった。
「まるで質問の意図がわからないんだが」
「では質問を変えて、ソータさんはアリスのことが好きですか?」
「……まぁ、好きだけど」
俺はあまりの質問に言いよどんだ。
「では、アリスは恋愛対象になりますか?」
「え?」
アルバニアは突拍子もないことを言った。
確かに、俺はアリスみたいに素直な子は好きだ。しかしそれに恋愛云々は関係なく、近所に住んでいる小さな子や年の離れた友達といった者に向ける好意だ。少なくとも、俺はそう思っている。
だから、アルバニアの質問にはどう答えればいいのか戸惑った。
「……まぁ可愛いし素直だし、俺と同じ年くらいになったら惚れるかもな――って、俺はなに言ってるんだ……」
俺は無難だと思った答えを出したが、少しして自己嫌悪に陥った。
……マジでなに言ってんだ。
「そうですか、ならよかったです」
「いや、よかったってなにが――」
「あっ、あそこに魔物がいますよ」
アルバニアが指差す先には、一メートルほどの茶色いウサギが草を食べていた。
覚えている限りでは確かDランクで、それなりに危険な魔物だったはずだ。
「ソータさん、前はお願いします」
「……ん、わかった」
結局質問の意図を聴くことはできずに、しばらく偵察を続けたのちに陣地へと戻ったのだった。
―― ―― ―― ―― ――
陣地の中心にある一際大きなテントには、大勢の者が集結していた。
収納魔法使いによって運ばれてきた木製の縦に長い机を囲っているのは、騎士団長『バナン・ガルシア』を筆頭に副騎士団長や隊長が複数人、高ランクの冒険者などが今回の会議に参加している。
……そして、なぜか俺もこの会議に参加していた。
偵察から戻り、俺に貸し出されたテントの中で本を読んでいると、一人の騎士が『会議があるから必ず出席するように』と伝言を伝えて来たのだ。
俺はてっきりアリスたちも参加するものだと思っていたのだが、今回の会議は人数の関係で俺だけしか呼ばれておらず、仕方なく俺一人で参加することになった。
できることなら、俺は本でも読んでいたいんだがな……。
「それではまず、諜報部隊が入手した報告を聞くとしおう」
バナンが諜報部隊の隊長に報告を促した。
「はい、まず飛行魔法使いにベヒモスの位置を改めて探らせたところ、恐らく二日後に渓谷を抜けるだろう位置にいる模様です」
「そうか。ここと渓谷との間にもう一ヶ所開けた場所があったと思うが、そこへ誘導はできそうか?」
「可能かと、そちらも確認させましたが、以前調査した時と変わりはなかったそうです」
「ふむ、なるほど……」
そうつぶやくと、バナンは席を立ち上がり後ろにある木板に木炭で簡略的な図を描いていく。
「――まず、これが今私たちのいる場所だ。そして、ここがベヒモスが移動してきている渓谷の出口となる」
バナンは槍の柄を使って木板に描かれた図を説明していく。
特別絵がうまいわけではない。だが明快さが重視されており、とてもわかりやすい。
「丁度二つの地点との間にもう一ヶ所開けた場所がある。今回の作戦はベヒモスをここへ誘導し討伐するものとする。異論や質問がある者はいるか?」
バナンがここにいる全員にそう質問した。すると、一人の冒険者が手を上げる。
「その開けた場所にはどうやって誘導するつもりなんだ? まさか都合よくベヒモスの方から来てくれるのを願うわけじゃないんだろ?」
「誘導は飛行魔法を使える者に行ってもらうことになる。そうでないと、時間がかかるからな。ほかには?」
その会議は日が沈むまで続いたのだった。




