判明する元凶
アリスに魔法を教えてもらった次の日。
俺たちは今日もフェリクスの森で魔物狩りをして、今はチェイスのギルドにいた。
だが、今俺たちがいるのは受付のあるエントランスではなく、受付の中にある扉の向こうにある解体室だ。
ここは一時間銀貨二十五枚で借りることができる。
中はほどよく広く、冷房でも効いているのか少し肌寒い。
「収納魔法は便利だけど、こういう事になるのはめんどくさいわね」
すでにストレージにあった大半の魔物は解体し終えていた。
アリスが面倒だと思ったのは、以前は討伐証明部位や高価な素材以外は持ち帰らずに、その場へ置いてきていたというのが理由だろう。
死体は意外と重いからな、ストレージでもないと持って帰るのは大変だろう。
それと、俺はこれまでに一度も生き物の解体というのをしたことがなかったので、最初はファングドッグをアルバニアに教えてもらいながら解体した。
なかなか難しく、内蔵を傷つけたり毛皮を破ってしまったりと、かなり失敗してしまった。しかし今はそれなりに慣れてきたので、決して上手とはいえないが失敗はなくなった。
「まぁ、後はワイバーンだけだからもう少しで終わるだろ」
「……そうだった、ワイバーンがあるんだったわね。すっかり忘れていたわ……」
それから約二時間後。
俺たちは解体を終え、『高価なマジックアイテムの材料になるから置いておいた方がいい』と言われた素材以外を全てギルドの素材買取口に売却して、合計で白金貨八枚・金貨六枚・銀貨七十五枚を手に入れたのだった。
―― ―― ―― ―― ――
指名依頼を受けてから十日が経過した。
雨が降っていたので狩りに行かない日もあったが、この間にかなりの数の魔物を討伐した。
そのおかげで、俺の所持金は現在『ミスリル硬貨』三枚を超えている。
ミスリル硬貨とは、白金貨十枚分の価値があるミスリルで作られた硬貨だ。
一枚で銀狼亭に五百泊できるほどの価値がある。
……最早ここまでくると、なにで例えればいいのか分からなくなってくるな。
現在フェリクスの森はBランク以下の冒険者は立ち入り禁止になっていた。
しかし少し前から三十人以上、もしくは特別に許可されたパーティーであればフェリクスの森で魔物狩りをすることができるようになっている。そのため、多くの冒険者が臨時でパーティーを組んだり、複数のパーティーが合同で狩りをしていたりした。
それと、現在俺のランクは『F』になっていた。
狩りを終えて報告しにいったら、急に俺の新しいFランクのギルドカードを渡されたのだ。
今日もフェリクスの森で狩りを終え、ギルドへ向かっている。
ここ最近の騒動で外出する人が減っていたのだが、その数も少しずつだが回復してきていた。
俺たちはギルドへ入り、受付でいつも通り報告をする。
数日前からオーウェンが本格的に忙しくなってきたので、受付で報告をすることになったのだ。
俺たちは報告を終えて銀狼亭へ帰ろうとする。しかし、一人の男が俺たちに近づいてきているのが見えた。
その男の左胸には、ギルド職員の名札が付いている。
「失礼いたします、ソータさんとそのパーティーメンバーの方ですね?」
「あぁそうだが、なんか用か?」
「はい、ギルドマスターからお呼びがかかっています」
「そうか、すぐ行く」
なにか用事があれば呼び出すと前々から言われていたので、驚きは全然ない。
俺たちは受付の中にある階段を上がり、オーウェンの執務室に着くと、執務机の扉を叩いた。
「入るぞ」
「あぁ」
かるく言葉をかけてから扉を開けて執務室へと入る。
そこには最初に会った時に比べ、明らかに痩せたオーウェンの姿があった。
「急に呼び出してすまなかった」
「それはいいんだが、なんの用だ?」
執務机には紙の束が山のように積みあがっている。どれだけ今のオーウェンが忙しいかはすぐに察することができた。
オーウェンは紙の束から一枚手に取った。
「実は、最近の騒動の元凶が判明した」
「……なに?」
「その元凶って?」
アリスがオーウェンに尋ねる。
「お前たちは、『ベヒモス』という魔物を知っているか?」
「あぁ、確かランクはS+でつねに獲物を喰らうために移動していて、そいつの通った後は生物が一切いなくなるとか……まさか」
「そうだ、そのベヒモスが果ての森の奥にある山の渓谷で、調査していたAランク冒険者によって発見された。だが、どうやら通常のものよりも小柄であったらしく、幼体の可能性が高いようだ」
以前オーウェンから強力な魔物が移動して来た可能性があると聞かされていたが、正にその通りだった。だが、まさかS+ほどの魔物だとは思っていなかったが。
ランクS+は、ランクSと似て非なるものだ。
強力な魔物には最大でランクSがつけられる。だが、その中でもひときわ飛び抜けた種が存在する。それらの種は、すべて逸話を残していた。
ベヒモスが残した逸話は、数百年前に当時最も栄えていた国の首都を、一夜にして壊滅させたというものだ。
S+というのは、まさに『生ける天災』なのである。
もし、そのベヒモスが本当に幼体であったとしても、ランクS+の魔物であることに変わりはない。
そんな存在が、今この近くにいる。
「そのAランクの冒険者とは誰のことでしょうか?」
「クレアだ」
「ちょっとっ!! クレアは無事なの!?」
アリスがオーウェンの執務机に手を叩き付ける。
その様子からは、本気でクレアのことを心配しているというのが見て取れた。
「無事だ、交戦はせずに戻って来たそうだ」
「そう……ならよかったわ」
「……なぁ、ベヒモスは一体どこに向かっているんだ?」
「わからん。だが、およそ十日後には渓谷を超え、その七日後にはチェイスへ到達する恐れがある」
ランクS+の魔物なんかに襲撃されたら、この前のワイバーンの時とは比べものにならないほどの被害が出るだろう。それは色々とまずい。
「それでだ、チェイスへ襲撃しに来る可能性がある以上、事前に討伐することになるわけだ。そして、それには騎士と冒険者が合同で討伐に臨むことになった」
「どれくらいの人数で討伐しに向かうんだ?」
「騎士は約千、冒険者は非戦闘員五百に戦闘員千人くらいの予定だ」
合計二千五百か、かなり多いな。
「それでだが、今回の作戦にはお前たちにも参加して欲しい」
「強制か?」
「いや、強制ではない。三日後に出発する予定になっているから、返事は明日でかまわない。いい返事を期待している」
「……わかった、じゃあ明日また来るよ」
俺たちは執務室を後にした。
―― ―― ―― ―― ――
「――それで? どうするの?」
アリスが俺に問い掛けた。
現在俺たちがいるのは、銀狼亭にある俺の泊まっている部屋だ。アリスとアルバニアが椅子に、俺はベッドに座っている。
「俺は参加した方がいいと思うが……」
「賛成」
「私は賛成しかねます」
俺とアリスは賛成。だが、アルバニアは反対した。
「どうして?」
「相手はベヒモス、ランクS+の魔物ですよ! あまりにも危険です!」
「でも、私たちがいた方が勝率は上がると思うの」
アルバニアはアリスの目を見つめた。その場に静寂が訪れる。
確かにアリスの言う通り、俺たちが参戦すれば勝率は上がるだろう。具体的にどれほど効果があるかは分からないが、まったく役に立たないなんてことはないはずだ。
……まぁ、これは万人に当てはまることなので、バーナム効果じみているんだが。
「……わかりました。ですが、なにかあったら直ぐにでも撤退すると約束してください」
静寂を破ったのはアルバニアだった。
納得はしていないようだが、致し方ないといった様子で約束を切り出す。これがアルバニアのできる、最大限の譲歩なのだろう。
「えぇ、分かったわ、約束する」
「じゃあ、参加するのは決定でいいんだな?」
「はい、それでかまいません」
アルバニアがそう言うと、二人は椅子から立ち上がった。
「それじゃあ、私たちは部屋に帰るわ。おやすみ、ソータ」
「おやすみなさい」
アリスが手を振ると、二人は部屋を出ていった。




