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募る疑念

 俺たちは昼まで狩りを続け、チェイスへと帰ってきた。

 戦果はCランクの『ビッグマンティス』一頭に『ブレインイーター』二匹、Dランクは『ファングドック』十七匹。そして、Fランクの『コボルト』が二十三匹だった。


 ブレインイーターは歩いている時に後ろから襲いかかって来た。

 警戒しながら歩いていたので被害は無かったが、少しびっくりした。それが二匹。


 コボルトは結構厄介な相手だった。

 目の前で仲間を殺されても一切怯みもせず、まるで雪崩のように集団で襲いかかって来たのだ。

 そのせいで身体のあちこちに引っかき傷ができてしまったが、アリスが《ヒール》という『回復魔法』を使ってくれたので、傷は残っていなかった。


 そして、今はチェイスへと帰って来ており、現在は銀狼亭の裏庭にいた。

 この裏庭はそれなりに広く、冒険者たちがよく訓練に使っているようで、地面は強く踏み固められていた。

 ここに来る途中に冒険者ギルドに寄って依頼の報告は終えており、すでに報酬の金貨三枚は皆で分けている。



「――それで、なんの魔法を教えて欲しいの?」


 アリスがそう俺に尋ねる。

 実は銀狼亭に帰ってきた時、アリスに魔法を教えてもらえるように頼んだのだ。

 それと、銀狼亭の裏庭には今は俺とアリスしかいなかった。今が丁度昼食時だからだろう、俺たちは早めに食べたので関係ないが。


「《身体強化》の魔法を教えて欲しい」

「身体強化? もしかして知らないの?」

「あぁ、だから知っているのだけでかまわないから、教えてくれると嬉しい」


 体を動かすのは得意なので身体強化の魔法は後回しにしていたのだが、アリスが使っているのを見て気が変わった。


 アリスはあまり足が速くなく持久力もないそうだが、身体強化の魔法を使うことによって俺についてこれるようになるのだ。

 これほどの魔法に見向きもしないのはありえないだろう。


「そう、わかったわ。じゃあ手を出して」

「ん? なんでだ?」

「まずはソータの保有魔力の総量を計るわ。さぁ、早く手を出しなさい」


 俺は手を出した。すると、アリスが俺の両手を掴む。


「今からソータの左手へ魔力を流すわ。ソータは受け取ったのと同じ量の魔力を、私の左手に流しなさい」


 アリスは俺の左手へ魔力を流し始めた。体温とは違った暖かさが左手を包む。

 俺は言われた通りにアリスの左手へと魔力を流し始めた。


「――っ! ちょっと、流しすぎよ!」

「す、すまん、これより少なくは無理だ」


 アリスから受け取る魔力はあまりに少ない。それこそ、俺のあつかえる魔力の最小値よりも少ないのだ。


「……わかったわ。とりあえず、ソータの量に合わせるわね」


 アリスから受け取る魔力が増える。

 確かに、これくらいなら等しく釣り合うほどの量だ。


「このまましばらく続けるわよ」


 アリスはそう言うと、目を瞑った。



 俺はアリスの左手へ魔力を流し続ける。

 すでに五分ほど経過しているが、アリスは依然として目を瞑ったままだった。


「……ふぅ、終わったわ」


 しばらくして、アリスはおもむろにまぶたを開き、手を離しそう告げた。


「どうだった?」

「……あまり正確には量り切れなかったわ。少なくとも私の三倍はあるわね」

「それって多いのか?」

「そうね、結構珍しいわ。私は一般的な魔法使いの五倍はあるもの。これくらいの量を持っている人には、私は十人くらいしかあったことないわね」


 ということは、俺は一般的な魔法使いの十五倍は魔力を保有していることになるんだが……やっぱり量り違いじゃないのか?


「ねぇ、これは興味本位で聞くけど、ソータはどれくらいで魔力を操作できるようになったの?」

「どれくらいって……確か、一分もかからなかったと思うが」

「……そう、普通の人は魔力を操作できるようになるまで日がな一日努力して、最低十日はかかるわ。私だって三日かかったもの」

「え?」


 ――俺が魔力を始めて操作したのは、果ての森にあった遺跡にいた時だった。

 そのとき魔力をすぐに操作することができたのは、まるで魔力を操作できるのは()()()()()()()かのように感じたのだ。


 そして俺が初めて魔力を感じたのは、初めてこの世界で目覚めた瞬間だ。

 目覚めたときにふと覚えた『違和感』、それは俺の体の中から感じられた。まぁ、そのときはそれがなんなのかはよく分からなかったのだが。


 次に魔力を感じたのは、俺に襲いかかってきた骸骨――『スケルトン』という名の魔物と戦闘した時だ。

 そのスケルトンから溢れる強烈なオーラ。それもまた、目覚めた時に感じた違和感と同種のものであるように感じたのだ。


「――ねぇ」


 アリスは俺の両手を再び掴み、俺に真剣な眼差しを向けてきた。



「あなた、『()()』なの?」



 俺は言葉に詰まった、なんと答えればいいのかと。正直に言うべきか、否か。


「…………」

「答えてっ!!」


 なにも答えないでいると、アリスは手を握る力と語勢を強め俺に答えを求めた。

 アリスの眼差しが一段と鋭さを増す。


「……まぁアリスなら信用できるし、言っても問題はない、か」


 別に、絶対隠し通さなければならない秘密ってわけではないしな。

 どうにかしてうやむやにするのも手だが、このまま疑念を抱かせておくのはできるだけ避けたかった。


「アリス、俺は転移者……つまり()()()()だ」


 この世界には、当然俺以外にも異世界人がいる。

 これは本で知ったのだが、異世界人には二つのタイプがあるそうだ。


 まずは『転移者』。

 転移者は《召喚魔術》というのででこちらに強制的に召喚された者や、俺のように偶発的に転移して来た人もいるらしい。


 そして『転生者』。

 転生者は偶発的にこちらの世界で生まれ変わった者がほとんどだ。

 中には《転生魔術》によってこちらの世界に転生する者もいるそうだが、その数は極端に少ないらしい。


 また異世界人がである確率は、人口約十から百万人に一人くらいの確率だそうだ。振れ幅があるのは、あまり正確に人口を把握できていないからであろう。

 そして、転生者は転位者よりも多く存在しており、じつに異世界人の約七割が転生者だそうだ。


「……本当に?」

「疑う気持ちもわからなくはないが、ウソをつくつもりならこんなことは言わないな」

「そう……まぁ、ソータが普通じゃないことは始めから気づいていたしね」


 なんか引っ掛かる言い方だな。……あえてなんだろうけど。


「異世界人ってやっぱり珍しいのか?」

「そうね、私はあったことないけど、この町にも何人かいるそうよ」


 特に用はないが、会えるならいつか会ってみたいな。俺の知っていない情報を教えてもらえるかもしれない。


「なぁ、有名な異世界人ってどんな人がいるんだ?」

「唯一私が知っているのは、『ファーガス聖王国』の勇者だけね。確か、名前は『アンドレアス・ボールドウィン』だったかしら?」


 ファーガス聖王国とは、いま俺のいるチェイスのあるベネット王国の隣にある国のことだ。ベネット王国とは友好を結んでいるらしい。


「『勇者』っていうのは?」

「勇者は聖王国独自の存在よ。周辺諸国に派遣されて、その地域では手に負えない魔物の狩りや盗賊の捕縛に手を貸したりする存在ね」


 戦闘関係オンリーの国営の便利屋みたいなものか?


「そんなのがいるんだな。じゃあ、アンドレアスってどんな人なんだ?」

「ファーガス聖王国の貴族、ボールドウィン公爵の一人息子で『神剣』の保有者ね」


 神剣とは、非常に高い性能を持つ剣の総称のことだったはずだ。

 そんな摩訶不思議(まかふしぎ)なものがあるなんて、この世界は珍妙なものである。


「神剣の銘は、聖光剣『クラウ・ソラス』。斬った魔物を弱体化させたり、アンデッドに対して非常に高い特効性があるらしいわ。ファーガス聖王国の勇者にしか扱うことが許されない、強力な聖剣よ」


 アンデッドとは前に戦ったスケルトンなどの、()()()()()()()()にもかかわらず活動する魔物の総称だ。


「そのアンドレアスって強いのか?」

「強いなんてものじゃないわ。Sランクの魔物を単独で討伐、大量発生したアンデッド総数一万体ほどの大群を全て討伐、総勢百名から構成された盗賊団を傷一つ負わずに捕縛したりする人外よ。『人間最強』とか言われているわ」

「それは……なんていうか凄いな」


 俺にはどれもできる気がしない。

 そんな離れ業ができるなんて、本当に相当強いのだろう。


「本当にね――っと、確か身体強化の魔法を教えて欲かったんだったわね」

「あぁ、頼む」


 それから日が沈みかけ空が赤色に染まり、アルバニアが夕食を食べるために俺たちを呼びに来るまで、アリスに魔法を教えてもらったり魔法の訓練をしたりしたいたのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] あんでっと?知らない子ですね。 アンデッドなら知ってますが。
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