指名依頼
俺たちはオーウェンに呼ばれたので、ギルドマスターの執務室に来ていた。
それなりにギルドも落ち着いてきたようで、前よりも慌ただしさは薄れてきている。
アリスが執務室の扉を三回叩いた。
「入れ」
「失礼するわ」
俺たちは執務室の中へと入る。すると、そこには目の下に隈があり、どこか痩せたような印象を受けるオーウェンの姿があった。
「すまないな、急に呼び出して」
「別にそれはかまわないが……大丈夫か?」
オーウェンの様子を見るに、ここ最近は全然寝ていないのだろう。
すぐにでも寝た方がいいと思うんだが……まぁ、今の様子ではしばらくはまだ休めそうにないな。
オーウェンが座っている執務机には、書類が山のように積みあがっていた。オーウェンの顔はギリギリ見えるといったところで、仕事に追われているというのは嫌でもわかる。
「大丈夫じゃないな、昨日から一睡もできずに仕事に追われているんだ。正直もう限界に近いな、ははっ……」
オーウェンの口から乾いた笑いが漏れた。
まるで楽しそうではないのは、気のせいではないはずだ。
「とにかく、まず昨日はご苦労だった。ワイバーンを討伐するのに協力してもらったのは、こっちでも聞いている。俺からも礼を言っておくよ、ありがとう」
「まぁ、成り行きだったんだけどな」
「それでも協力してくれたのは、普通にありがたい。今後もこういうことがあれば、引き続き頼む」
「……可能な限りだぞ」
襲撃されるたびに毎回こういうのにつきあっていたら、こっちの身が持たない。余裕があるうちは、できる限り協力はするが。
「それでいいさ。それじゃあ、まず昨日まで実施していたフェリクスの森の調査について話しておこう。調査の結果、果ての森から魔物が多数フェリクスの森へ移動してきていることがわかった」
オーウェンは真剣な顔で、そう告げる。
やはり、本来はいないはずのバンダースナッチがフェリクスの森にいたことや、ワイバーンが町に襲撃しに来たことは偶然ではなかったようだ。
「果ての森から魔物が移動している理由は不明だが、なにかしらの魔物が既存の生態系を脅かしていると思われる」
「一体どんな魔物が移動しているの?」
「Cランクでは、『アンブッシュスパイダー』や『ダイアウルフ』なんかだ。Bランクは『バンダースナッチ』に『キラーディア』が確認されている。今のところ、Aランクの魔物は昨日のワイバーンしか見つかっていないな」
俺が思っていた以上に移動しているな。明らかになにかがおかしい。
「似たような事例が過去にあったりはしたのか?」
「去年に似たようなことがあったな。その時はチェイスに大量の魔物が襲撃しに来たんだ。もっとも、その時は最高でもCランクまでしか来なかったんだがな」
オーウェンは苦虫を噛み潰したような顔をする。
「その時の原因ってなんだったんだ?」
「魔物の異常繫殖による縄張り争いの激化だ。縄張り争いに敗れた者たちが森を出て襲撃しに来たんだ」
「今回もそれじゃないのか?」
「いや、少し違うな。前回は三種類の魔物が主に襲撃しに来たのに対して、今回は種類が多すぎる。それに、基本的に群れる魔物はあまり強くない傾向にある。そして、そんな群れが束になっても傷さえ付けることができないのが『ワイバーン』だ。そんなワイバーンが五頭も襲撃しに来たんだ。なにかしらの、ワイバーンさえもしりぞけることのできる魔物が流れてきたと俺は考えている」
ワイバーンはかなり強力な魔物だ。それこそ、首を斬り裂いてもしばらくは動くことができるほどには。
「なるほどね。それで、私たちをここに呼んだ理由を聞いてもいいかしら?」
「あぁ、そうだな。今回、お前たちのパーティーに『指名依頼』を出したい」
「指名依頼?」
「普段受ける通常の依頼と違って、依頼を受けてほしい人やパーティーを指名した依頼ですね。比較的、報酬が高い傾向にあります」
アルバニアが俺の疑問に答えてくれた。
報酬が高いのは嬉しいな。だが――。
「拒否権は?」
「勿論あるさ、これは強制じゃない」
よかった、拒否権があるなら少しは気が楽だな。
「まぁ、とりあえず依頼内容を聞いてくれ。依頼内容は、フェリクスの森にいるCランクの魔物の討伐だ。報酬は一体につき金貨一枚。期限はこの騒動が落ち着くまで。どうだ?」
悪くないんじゃないだろうか? 一体につき金貨一枚ももらえるのは大きい。
「Cランクだけなのか?」
「あぁ、そうなる」
「どうする?」
俺は二人に意見を求めた。
「いいんじゃないかしら。私は受けていいと思うわよ?」
「私も賛成です」
俺も問題ないと思う。
なら、決まりだな。
「じゃあその依頼を受けることにするよ」
「そうか、ありがとう。今日から行ってくれると助かるんだが、行けそうか?」
「俺は問題ないが……」
そう言いながらアリスとアルバニアを見ると、二人は頷いた。問題ないみたいだ。
「じゃあ、今日から行って来ることにするよ」
「助かる。帰ってきたらもう一回ここに来てくれ、直接報告を聞きたい」
「わかった。じゃあ、行ってくれるよ」
俺たちはギルドを出ると、フェリクスの森を目指して歩き始めた。




