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嵐の跡

 ワイバーンが暴れたことによって、周辺にあった建物は倒壊、もしくは焼失してしまっている。

 しかし、それよりも悲惨なのはワイバーンに殺された騎士や冒険者だろう。


 周囲にはワイバーンの毒で泡を吹きながら死んだ者や、焼け爛れた死体など様々な死体が、少なくとも五十体は無造作に転がっていた。

 その中に武装していない者の死体はない。

 どうやら、すでにこの近辺にいた一般市民たちはどこかへ避難していたようだ。


「ふぅ……なんとかなったわね」

「……なぁ、それにしてもこういう事ってよくあるのか?」

「去年に一度魔物の襲撃があったわね。その時は最高でも、ランクCの魔物までしか来なかったのだけど……それより前は知らないけど、結構よくあるわね」


 アリスはうんざりとした様子でため息をついた。

 確か、警備兵の詰所でもその話を聞いたな。どうやら、それなりの頻度で襲撃はあるようだ。


「ソータ君、また会ったわね」


 背後から声をかけられたので振り返ると、そこにはクレアがいた。


「クレアか、一昨日ぶりだな」

「そうね。それにしても、ソータ君って思っていたよりも強いんだね、少し驚いたわ」

「まぁな」


 ヘマをして一回死にかけたがな。

 クレアは見ていなかったみたいだし、わざわざ言う必要はないが。


「久しぶりね、クレア」

「お久しぶりです」

「えぇ、久しぶりね。アリスちゃんにアルバニアちゃんも」


 アリスとアルバニアは、どうやらクレアと知り合いだったようだ。

 三人は仲良く会話を続ける。


「ねぇ、アリスちゃんたちはソータ君と一緒に戦っていたけど、もしかしてパーティーを組んだの?」

「そうよ、今日組んだの」

「そう、よかったじゃない、前衛不足の問題が解決して」


 アリスとクレアのそんな話を聞いていると、俺の方に騎士たちが歩いてきた。そして、その中心にいた高そうな槍を持った男が俺に話しかけてくる。

 身長は俺よりも十センチほど高く、手などには数え切れないほど古傷が残っている。よほど戦いに身を置かなければ、ここまで傷だらけにはならないだろう。


「失礼する、私はチェイス騎士団の団長をしている『バナン・ガルシア』という者だ。実は其方(そなた)に興味が湧いてな、名を聞いてもよいか?」


 ……貴族か、また面倒なのが来たな。


「俺の名前は奏多だ。それで、なんか用か?」

「貴様っ!! 団長にそのような口の利き方を……っ!」

「止さんか」


 バナンの横にいた騎士が俺に言葉づかいを注意しようとしたが、バナンは騎士の前に腕を出して止めた。


「うちの者がすまぬな、気にしないでくれ」

「あぁ、別にかまわないが、それで?」

「うむ。其方、我が騎士団に入団せぬか?」


 つまり、勧誘ということか。


「騎士団にか?」

「あぁ、其方のような者は大歓迎だからな。無論、相応の給金も約束しよう」

「……いや、気持ちはありがたいけど、やめておくよ。俺には騎士は合わないしな」


 具体的にどれほどの金額がもらえるのかはわからないが、相応というんだから決して少なくはないはずだ。

 しかし、俺は命令されて行動するのは苦手だ。それに、冒険者の方が楽しそうだしな、いま騎士団に入る理由はない。


「そうか、それは残念だ。では、気が変わったらいつでも言ってくれ、歓迎しよう」

「あー……それでなんだが、あのワイバーンはもらってもかまわないよな?」


 俺は最初に首を斬り裂いたワイバーンを指差す。

 勝手に収納して問題になったりする前に、ちゃんと確認は入れておいた方がいいだろう。


「其方の倒したワイバーンか、かまわぬ。元より其方が倒したものだ、ならば其方が手にしてもなにも問題はなかろう」

「そうか、じゃあもらっておくよ」

「それはかまわぬが、なにかワイバーンを運ぶ手段を持っているのか? なければこちらで手配をしよう」

「いや、そのことなら問題ない」


 俺はワイバーンの死体に近づき、ストレージに収納した。

 ストレージに収納したことで、一瞬にして死体は跡形もなく消え去る。


「なるほど、収納魔法か。其方は便利な魔法が使えるのだな、なおのこと入団してもらえぬことが悔やまれる」

「……あんたらはここにずっといてもいいのか? 暇なわけじゃないんだろう?」

「おぉ、そうだったな。それでは、また会おう」

「あぁ、また」


 バナンたちはどこかへと歩いて行く。その際に一人の騎士が俺を睨んできたが、さして気にするようなことではないだろう。


「そっちはもういいかしら」


 バナンたちと話し終わったからか、アリスが俺に話しかけてくる。


「あぁ、そっちはいいのか?」

「クレアはギルドの方にへ行くって言って、もうここにはいないわよ。なにか用があった?」

「いや、そういうわけじゃないから別にいいんだ。これからどうする? 予定通りにいくか?」


 午後からも町を散策するつもりだったが、この様子だと閉店している店も多いはずだ。そんな中を歩いても、あまり面白くはないだろう。


「そうですね、疲れましたし宿へ帰りませんか?」

「私も疲れたし、姉さんの意見に賛成するわ」

「そうだな。じゃあ、とりあえず今日はもう帰るか」


 後かたずけなどはほかの者たちに任せ、俺たちは銀狼亭へ帰るために歩き出した。


 ――  ――  ――  ――  ――


「――それで、今日は町を散策するのよね?」

「あぁ、そうしてくれると嬉しい」


 俺たちは現在、銀狼亭の食堂にいた。


 昨日はワイバーンを討伐すると、すぐに銀狼亭に帰って時間を潰してご飯を食べ普通に寝た。

 襲撃後にはほかの魔物による襲撃などもなく、これといった問題は起こらなかった。もしあんなのが続けざまに来たりでもしたら、たまったものではない。


 ちなみに俺はいま、昨日アリスたちとよった服屋で買ったこちらの世界の服を着ていた。

 冒険者たちがよく着る服らしく、所々が頑丈に作られている。

 今まで着ていた服は少し動きずらかったのだ。そして、なによりも非常に目立っていた。

 着替えない理由はない。


「わかったわ、じゃあ今日は城門の方を見て回りましょうか」


 そんな話をしていると、中肉中背の男がこちらに近づいてきた。

 服の左胸には、冒険者ギルドの職員であると証明する名札がついている。


「失礼します。ソータさんにアリスさん、そしてアルバニアさんでお間違いないですか?」

「確かにそうだが、ギルドの職員がなんの用だ?」

「皆様へ、ギルドマスターから伝言をあずかっております。『今日、俺の執務室へ来てくれ。重要な話がある』以上です」


 ギルドから人をよこされるなんて、普通はないことだろう。オーウェンからなにか呼び出されるようなことでもしただろうか?


「それは緊急ですか?」


 アルバニアが男へと尋ねる。


「いいえ、違います。ですが、今日中に必ず来るようにとおっしゃっていました」

「了解した。後で行くって伝えておいてくれ」

「かしこまりました、それでは」


 男は話を終えると、食堂から出ていった。

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