崩れ去る日常
――カーテンがしめきられ、部屋が真っ暗になっている。しかしその少年は電気もつけず、ベッドの上で膝を抱えて嗚咽をもらしていた。
「うぅ……ひぐっ……!」
少年は涙を流し、抱えている布団を濡らしていく。
顔は涙でぐしゃぐしゃになっており、見るに堪えない姿になっていた。
「うぐっ……おうかぁ……っ!」
少年は幼馴染の名前をうわ言のようにつぶやいた。すると、突然少年のトラウマの原因となった光景が、鮮明に頭をよぎる。
『――生き、て……っ!』
最初に浮かんだのは、幼馴染の少女――『桜花』を抱き、少女が涙を流しながら必死に少年へと語りかける姿。
少女の背中にはダガーナイフが突き刺さっており、鮮血がどくどくと流れ出て、二人を紅く濡らしている。
『――それはお前が弱いからだよ!!』
次に浮かんだのは、少女にナイフを突き刺した張本人の男だった。
恍惚とした表情を浮かべ、すでに動かなくなった少女を抱く少年の絶望する顔を見て、悦楽に浸っている。
「――あ、あぁ……うぁあああああああああああああああぁっ!?」
少年はとうとつにフラッシュバックしたおぞましい光景を幻視し、けたたましい絶叫をあげた――。
―― ―― ―― ―― ――
いつも通りの、なにげない帰り道。俺は登下校にいつも使っている河川敷で、家への帰路についていた。
俺の名前は、『東雲 奏多』という。特筆すべきことではないが、高校二年生だ。今はそれなりにうまくやれている。
ある程度勉強はしているし、成績も悪くはない。運動は得意な方で、体育の成績は他とは飛び抜けて高い。だが、体を動かすよりも家で読書でもしていた方が何倍も楽しいので、部活には入っていなかった。
「――暖かくなってきたな」
そうつぶやくと、心地よい風が吹き俺の頬をなでていく。
五月になり、そこら中のシロツメクサなどが咲いている自然の花畑では、蝶たちがせっせと飛びまわっていた。
俺は近くにあったベンチに座ると、時間を確認するために上着のポケットからスマホを取り出す。
「……ん?」
通知欄を見ていると、ある一つの記事に目がとまった。
その記事の見出しには、『男子高校生、少女を助けトラックにひかれて全身を強く打ち死亡』と書かれていた。
悲惨な事件もあったものだ。全身を強く打ちということは、もはや原型をとどめてはいないのだろう。
俺はしばらくの間、時間を忘れて音楽を聴いていた。しかし、ふと時間を確認すると、時計は四時を示している。
予定があったんだし、もっと時間を確認しておけばよかったか。
俺はスマホを上着のポケットにしまい、ベンチを立ち上がって早歩きで家の方へ歩き出した。
順調に歩を進め、しばらくして鉄橋の下へとたどり着く。
「この調子だと、なんとかまにあうか……っ!?」
俺はふと、違和感をおぼえた。
「なんだ? 急に、めまいが……」
俺は酷いめまいを感じ、道の真ん中に膝をついた。
「――っ! ダメだ……とりあえず、家にかえらないと……!」
俺は無理をして立ち上がり、ゆっくりと歩を進める。だが、真っ直ぐと歩いているはずなのに、少しずつ草むらの方へずれていっている気がした。
「もう、むり……げんかい……」
なんとかすわり込もうとするが……結局、それが叶うことはなく、体が前に倒れ始めた。
「だ、だれか――」
その言葉は、誰の耳にもとどくことはなかった。
そして、地面に手をつく事すらできずに頭から倒れ、地面に頭を強打し俺はあっさりと意識を手放した――。
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