憚る巨体(2)
「グルルルル……ッ! ガアアアァァァァッ!!」
狼は咆哮すると、俺に襲いかかってきた。
俺を殺さんと大きな口を開け、噛みついてくる。だが、俺はそれを後ろに跳んでよけた。
今度は、前足を振り上げ横薙ぎに振るう。
俺は姿勢を低くしてそれをよけると、狼の横側に回りこんだ。そして、バスタードソードで狼の左前足の関節の部分を斬り裂く。
「ギャインッ!?」
狼は悲鳴を上げ、後ろに跳ぶ。
関節部分を斬った事によって、いくらか動きを鈍らせることができたようだ。
この狼の魔物はかなり素早いだけで、思っていたよりも攻撃が分かりやすかった。
攻撃が大振りなためか攻撃直後に硬直することがあり、攻撃を当てることも難しくない。
それに、直前まで女の子たちと戦っていたからか、体のいたるところに切り傷なんかがあり、狼は消耗しているようだった。
これなら倒すことはできるはずだ。
狼はこちらに向かってくることはなく、俺を睨み低く唸っている。
「どうした? こないのか?」
そう問いかけたが、狼が動くことはない。
俺を警戒しているようだ。
「なら、次はこちらから行くぞ!!」
俺は狼の方へと駆け出す。
すると、狼は跳び上がり俺を噛みつこうとしてくが、俺はそれを横にとんでよけた。そして、着地した狼の右前足の関節を斬り裂く。
狼は小さく悲鳴を上げ、頭から倒れ込んだ。
「もらったっ!!」
俺はバスタードソードで突きを放ち、狼の心臓を肋骨の間から貫く。
「ギャウンッ!? ギャンッ! ギャンッ!」
じたばたと暴れだしたので、俺は急いでバスタードソードを引き抜いて狼から離れた。
狼の脇腹からは鮮血が止めどなく流れ出ている。
しばらくすると狼はおとなしくなり、やがて動かなくなった。
「ふぅ……やっと死んだか」
手ごわかった。
もし万全の状態のこいつと戦うことになっていたらと思うと、寒気がしてくる。
俺はバスタードソードをストレージに収納し、指笛を吹く。
甲高い音が周囲に鳴り響き、しばらく待っているとさっきの二人がここに戻って来た。
「驚いたわ、まさか本当に倒してしまうなんて……」
「お怪我はありませんか?」
金髪の女の子――アリスは驚愕の眼差しを、白髪の女の子は心配の眼差し俺に向けてくる。
「別に大丈夫だ。それと、俺がこいつを倒すことができたのは、直前まで二人が戦っていて狼が消耗していたからだ。そうじゃなきゃ、こうも簡単に倒せなかっただろうし」
俺が来るまでに二人とどれくらい戦っていたかは分からないが、少なくともそうじゃなきゃ俺がこいつを倒すのは不可能だったはずだ。
特に怪我なく倒すことができたが、一歩間違えたら重傷……もしくは死んでただろう。
「そう……かなり本気で抵抗してたから、少しでも役に立ったならよかったわ」
アリスは満足そうにほほえんだ。
……ていうか、よく二人は万全の状態のこいつと張り合えたよな。
俺なら回れ右で、四の五の言わずに即座に逃げ出すだろう。
「それで、あなたは一体何者なの? ただ者ではないんだろうけど」
俺が思考を巡らせていると、アリスが俺に質問を投げかけた。
「俺の名前は奏多だ。まぁ、一応冒険者だな」
「ランクは?」
「昨日登録したばかりだから、まだGだ」
「……いや、なんの冗談よ? 普通の人は登録したばかりでそこまで強いなんてことないわ」
アリスは俺を胡乱なものを見るような目で見てくる。
確かに、ランクGっていったら初心者の中のそのまた初心者らしいからな、そういう目で見られても仕方がない、のか?
「本当だよ、ほら」
俺はストレージからギルドカードを取り出し、二人に見せる。
そこにはしっかり『ランクG』と、大きく書かれていた。
「収納魔法……確かに、本当みたいね」
どうやら、納得してくれたようだ。
俺はギルドカードをストレージに収納する。
「アリス、私たちも自己紹介を」
白髪の女の子がアリスに自己紹介を促す。
「そうね。私の名前は『アリス』。冒険者で、ランクはDよ」
「私は『アルバニア』です。私もランクDです」
ランクDということは、それなりに腕が立つのだろう。初心者と言われるランクGの、その三つ上のランクだしな。
「『姉さん』とか言っていたが、二人は姉妹なのか?」
アリスは金髪碧眼で、アルバニアの髪は白色で目は琥珀色だ。とても姉妹には見えなかった。
「あぁ、姉さんって呼んでるけど、別に血のつながった姉妹ってわけじゃないわ」
「はい、私たちは同じ親に育ててもらったので、そうなります」
「なるほど、それでか。でも、なんで二人は冒険者なんてやっているんだ? 女の子がやるようなものではないだろ?」
冒険者というのは、つねに死の危険が付きまとうという職のはずだ。
とても女の子が、それも少女がやるようなものではないだろう。
「別に難しい理由はないわ。ただ冒険者に憧れていただけよ」
「私はアリスが心配でしたので」
「そういうものなのか? まぁ、宿に帰りながらでも話せるしそろそろ帰るか。二人も銀狼亭に泊まってるんだろ?」
銀狼亭ではアリスしか見ていないが、アルバニアも一緒に泊まっているはずだ。
「えぇ。でも、なんで知っているの?」
「アリスを食堂で見たことがあるからな、それで泊まってるんだろうと思ってな」
「ふーん。まぁ、いいわ」
俺はあらかた血が止まった狼の魔物をストレージに収納した。すると、二人は珍しいものでも見るような目で俺を見てくる。
「便利ね、それ」
「アリスは使えないのか?」
「私には適性がないみたい、だから使えないわ」
そういうものなのか? 俺は使えたのだが。
「さぁ、帰りましょう。色々と疲れたし」
「そうですね。私も宿でゆっくりと休みたいです」
「あぁ、そうだな」
俺たちはチェイスの方へと歩き出した。




