冒険者ギルド(1)
俺はテントの外に出ると、城門の方へと向かった。
今日はとりあえず冒険者ギルドに行って登録だけして、それからどこか泊まれるとこでも探すか。もうすぐ日は沈むしな。
これからのことを考えていると、あっという間に城門が見えてきた。
「これはこれは、報奨金をもらって来たのですね」
「あぁ、これでいいか?」
俺はポケットから銀貨を五枚取り出して、カーシーに手渡した。
「はい、これでこの門を通ることができます。ようこそチェイスへ」
「また会ったらよろしく」
「はい、それではまた」
門を通って中に入り見えてきたのは、まさに異世界と言うべき光景だった。
馬が馬車を引き、剣や魔法の杖を携えた者たちが町の中を歩いている。
「……すごいな、こんな光景初めて見た」
俺は周囲をながめながら大通りを歩いて行く。
店に売っている物を見てみると、俺の知らない食べ物や、武具などの品々が売っていた。
こういうのを見ていると無性にワクワクしてくる。
旅行に行ったりして、その地域特有の物を見ている感じだ。
しばらく歩いていると、看板に剣の描かれた大きな建物を見つけた。もう一つの看板には、『チェイス支部 冒険者ギルド』と書いてある。
冒険者ギルドは三階建てで、周囲の建物よりも少しだけ大きかった。
俺は扉の取ってをつかんで、向こうへと押した。すると、チリンッチリンッと言う鐘の音を立てながら、扉は開く。
中に入って周囲を見回してみる。
そこには酒を飲みながら談笑している集団や、一人で食事している者など多種多様な者たちがいた。
ただ一つ、全ての者に共通するのは、剣や弓矢に杖などの武器を必ず携えていることだろう。
俺は冒険者ギルドの受付と思われる場所へと歩いて行く。だが、通路の近くの席に座っていた四人の男たちが立ち上がり、俺の前に立ちはだかった。
「おいガキ、ここは冒険者ギルドだ。てめぇみてぇな弱々しいしいガキが来ていい場所じゃねぇ、つべこべ言わずに帰るんだな」
スキンヘッドの目つきの悪い男が、ニタニタと気持ちの悪い笑みを浮かべながら俺に話しかけてくる。
酒を飲んでいるのか、顔が赤い。
「邪魔しないでくれるか? ただ登録しに来ただけなんだが」
「はっ、てめぇみてぇのが冒険者を? てめぇは冒険者をなめてんのか?」
「別に。それより邪魔なんだが、早くどいてくれないか?」
俺がそう言うと、男たちは俺を睨んでくる。
「……てめぇ、俺たちをなめてんのか?」
「そんなことはどうでもいいから、早く通してくれないか?」
スキンヘッドの男は歯を食いしばり拳を握りしめた。
この後男がどうするかは、容易に想像できる。
「なめてんじゃねぇぞぉ!! ガキがぁっ!!」
男は拳を振りかぶると、俺の顔を殴ろうとしてきた。
俺はその拳を右手の平で受け止める。すると、周囲にけたたましい破裂音が鳴り響いた。
どれだけ力を込めていたのか、手がひりひりと痺れる。もし食らっていたら、頭蓋骨を陥没骨折していたかもしれない。
「なっ!?」
「人を殴るっていう事は、殴られても文句言えないよな?」
俺はつかんでいたスキンヘッドの男の拳を押し返した。男が体勢を崩すと、俺は男の顔を思いっきり殴った。
「がっ――!?」
スキンヘッドの男は後ろに吹き飛ぶと、受け身を取ることさえできずに転がり、気絶する。
……本当に、出鼻をくじかないでほしい。いきなり騒動を起こしてしまったじゃないか。
「てめぇっ!! カルロスさんをよくも!!」
「ぜってぇぶっ殺してやるっ!!」
「後悔しやがれクソガキが!!」
周囲にいた男たちは口々に叫び、各々の武器を抜いた。
俺たちの様子を見ていた者たちがどよめく。
こうなってしまっては仕方がない。相手が武器を取り出したんだ、こっちも武器を使わないと殺されてしまう。
ストレージからバスタードソードを取り出そうとする。しかし、突然一人で食事をしていた女性が立ち上がり、男たちに叫んだ。
「ちょっとあなたたち! ギルドの中で剣を抜くなんてなにを考えてるの!?」
「クレア!! てめぇは黙ってろ!!」
一人の男が『クレア』という女冒険者に怒鳴りつけた。
「ギルド内で剣を抜く者たちを見て黙っていられますか!」
そう言うと、クレアは腰にある『レイピア』のグリップを握った。
「全員武器を捨てて床に伏せなさい! さもなければ、私の剣があなたたちを貫くことになるわ!」
「ふざけんな!! てめぇも一緒に死にやがれっ!!」
ブロードソードを持った男が、クレアの首を斬り裂こうと剣を横薙ぎに振るう。
しかし、それよりも前にクレアは右手でレイピアを、左手で『マン・ゴーシュ』と呼ばれる手を守るための大きなシールドガードのついた短剣を抜き、マン・ゴーシュでブロードソードを上部に受け流した。
「無駄よ!」
クレアはブロードソードを上部に受け流され隙だらけの男の太股を、レイピアで貫いた。
「ぐああああぁっ!? クソがっ!! いてぇ……っ!!」
太股を貫かれた男は、悲鳴を上げながら床へと転がった。
あの傷では、まともに立てないだろう。
「てめぇ!! よくもやりやがったな!!」
今度は『ダガー』を持った男がクレアに襲い掛かる。
男はクレアの心臓に突き刺そうとダガーを突き出すが、心臓に届く前にマン・ゴーシュによって受け止められた。そして、ブロードソードを持っていた男と同じように太股をレイピアで貫かれ床に転がる。
すごい手際だな。
一切無駄のない動きで、テキパキとチンピラを制圧していく。この感じ、かなり強いな。
「――死ねやガキィッ!!」
クレアが戦うのを見ていると、後ろから声がした。
振り返ってみると、そこには回り込んだのだろう、『グレートソード』を横薙ぎに振ろうとしている男がいた。
俺は咄嗟にその男から離れるように後ろに跳ぶ。すると、掠めるようにグレートソードが振るわれた。
あっぶなっ!? もう少しで真っ二つになるところだったぞ!
「下がって! 危ないわよっ!」
クレアが俺の前に出た。俺は言われた通りに後ろに下がる。
「邪魔だクソアマァッ!!」
男はグレートソードをクレアに振り下ろす。しかし、グレートソードはマン・ゴーシュによって横に受け流された。
「おとなしく寝てなさいっ!!」
クレアは男の横腹をレイピアで貫いた。すると、男は膝から床に崩れ落ちる。
「ぎぃっ!? てめぇ!! ぜってぇ許さねぇ!!」
「――騒がしいな、一体なにがあったんだ?」
急にそんな声が聞こえ、ギルド内は静まり返った。
不思議と、その小さな声は騒がしい中でもはっきりと耳に入ってきた。
声のした方を見ると、目付きの鋭い男が受付の中にある階段を降りくるところだった。
「一階が騒がしいから降りてきて見れば……クレア、なにが起きたのか説明してくれるよな?」
「……えぇ、分かったわ」
クレアはレイピアとマン・ゴーシュを鞘に収めた。
「ねぇ君、巻きこんで悪いんだけど少しついて来てくれないかしら?」
「……あぁ、わかった」
「こっちだ、ついてこい」
目付きの鋭い男が歩き出すと、クレアと俺もその後ろに続いた。
受付の中にある階段を上がり、廊下を歩いて行く。
「なぁ、床に転がっていた男たちはあのままでよかったのか?」
俺は疑問に思っていたことを男に聞いてみる。
「あいつらなら今頃、職員たちに捕まって事情を聞かれるだろうよ。だから、あのままでも問題ない」
まぁ、そういうものだろうな。あのまま解放されるはずはないだろう。
俺たちは廊下を歩いて行き、しばらくすると『ギルドマスター執務室』と書かれた札のかかった扉に着いた。
「ここだ、入ってくれ」
男は扉を開けて部屋に入っていく。そして、男は執務室の中に置いてあるソファーに座り、俺たちにも座るよう勧めた。
「――さて、まずそっちのは初対面だろうから軽い自己紹介をしておこう。俺の名はオーウェン、『オーウェン・ブラウン』。ここのギルドマスターをしている」




