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肉の塊

 よく晴れた早朝のこと、メイソンの近くにある森の入口にほど近い場所では、俺たち五人がいた。

 ここにいる理由は単純だ。今からアンデッドが大量発生している原因を突き止めるために、森の中へ調査に向かうのだ。

 すでにメイソンで準備は済ましてあるので、後は出発するだけである。


「私は教会にいますので、戻ってきたら教会に来てください。それと、しばらくは晴れると思いますが、当然の雨には注意してくださいね」

「心得えております」

「今回はあなただけで行動するわけではありません。きちんとそれを踏まえた上で行動してください、わかりましたね?」

「えぇ、それはもちろん」


 ……なんかセレスが氷室のお母さんみたいだな。念を押してくるところまでもがそっくりだ。


「わかっているならいいのです。最後に、絶対無事に帰ってきてくださいね。なにか不測の事態があれば、構わず撤退すること。私からは以上です」

「はい、ではそろそろ行ってまいります」

「ご武運を」


 俺たちはセレスに見送られながら、森の中へと入っていった。


 ――  ――  ――  ――  ――


「――止まって」


 俺たちは氷室の指示に従い、その場で立ち止まる。

 森に入ってから約一時間。途中でBランクの魔物を二度ほど見つけたくらいで特になにもなかったが、どうやら氷室がなにかを見つけたようだ。


「……なにかあったのか?」

「ほら、あそこを見て」


 俺たちは氷室が指差した方向を見る。すると、そこには肉塊のような気持ちの悪いものが転がっていた。


「……なんだあれ?」

「わからない。けど、たぶんアンデッドだね」

「そうなのか?」

「うん、たぶんだけど」


 俺にはただの肉塊に見えるが、氷室には俺には見えていないなにかがわかるのだろう。


「……それで、どうするの?」

「そうだね……ちょっと石でも投げて、音でも立ててみるか」


 アリスが氷室に質問をすると、氷室は落ちていた石を掴み上げて肉塊のそばに投げた。

 カランッという石が地面に落ちる音がたったが、特になにも起こらない。

 『なんだ、ただの死体か』と思っていると、突然その肉塊は這うように動き出して、氷室が投げた石に覆いかぶさった。


「うわっ……」

「あー……やっぱりアンデッドみたいだね」


 肉塊が動いたことによってさっきまで肉塊がいた場所の地面が見えたのだが、その地面は赤黒い液体で濡れていた。

 そんな光景を見れば、その肉塊が普通の生物ではないことは俺にもすぐわかった。


「で、どうするんだ?」

「……無視することにするよ。幸い、視覚はないみたいだし聴覚も鈍感みたいだからね、大きな音さえ立てなければ通り過ぎても問題はないと思う」

「サンプルとかは取らなくてもいいのか?」

「確かにサンプルはあった方がいいんだけど、あれを触るのはちょっと……ね?」


 氷室は微妙な表情を浮かべ、そう言った。

 ……まぁ、確かによくわからない肉塊を触るのは誰だって嫌か。


 俺たちはできるだけ音を立てずに、その場を通りすぎたのだった。


 ――  ――  ――  ――  ――


 パチパチと焚き火から火の粉が跳ねる。すでに日は沈み、あたりは暗くなっていた。


 今回は俺だけではないが、やっぱり夜の森には慣れない。

 魔物の遠吠えや悲鳴が定期的に聞こえてきたり、たまに襲撃しに来たりするというのは、全然気が休まらないのだ。


「――なぁ、前に来たときとやっぱりいろいろと変わってるのか?」

「うん、そうだね。前に来たときはこんなに静かじゃなかったし、魔物ももっといたはずんだけど……。それに、あんな肉塊なんていなかったしね」


 森に入ってからここに来るまで十回ほど魔物に目撃しているのだが、そのうちの三回があの肉塊のアンデッドだった。

 しかもどうやら肉塊には個体差があるらしく、獣の足のようなものが生えていたり、動物の顔のようなものが浮き出ていたりと、気持ちの悪い見た目のものが多かった。


「あれって、たぶん魔物が元になっているんだよな? なにをどうすればああなるのかは皆目検討つかないが」

「たぶんね。でも、元凶には着実に近づいていると思うよ」

「だといいが」


 あんな精神力をゴリゴリと削ってくる見た目のものが闊歩するこの森からは、すぐにでも出たいと思っているのが正直なところだ。でも、なにも得るものなく逃げ帰るのは、さすがに無様だろう。

 できるだけ早く、元凶に出会えることを祈るばかりだ。


「……早く元凶が見つかればすぐにでも帰れるんだが」

「まぁ、そうだね。もっとも、その元凶が見つからなければ最低でも一ヶ月は森暮らしになるんだけどね」

「はぁ……早く出てこないかね、元凶」


 そんな話をしている間にも時間が過ぎていき、気がつけば懐中時計の長針が二時を指す頃になっていた。


「交代の時間だな。二人を起こしてくる」

「うん、お願い」


 俺は立ち上がると、二つあるテントのうちの一つに歩いて行く。


 森の中で夜を明かすことになるので、当然夜番をする者が必要になる。

 今回は俺と氷室、そしてアリスとアルバニアでペアを組み、四時間おきに交代することになっている。

 十時から始めたので、ちょうど今で四時間夜番をしたことになる。もう結構眠いので、早めに眠りにつきたいところだ。


「二人とも交代の時間だぞー、起きてるかー?」

「んー……もうなの?」


 テントの中に声をかけると、眠そうなアリスの声が聞こえてきた。


「あぁ、二時だから交代の時間だ」

「うぅー……姉さん起きて、交代の時間よ……」


 テントの中から布のすれる音が聞こえてくる。たぶん、アリスがアルバニアを揺すっているのだろう。


「……眠そうだけど、大丈夫か?」

「うん……平気よ、問題ないわ」

「そうか、ならいいんだが」


 しばらく待っていると、二人がテントから出てきた。しかし、アリスは大きなあくびをし、アルバニアは眠そうに目をこすっていた。


「……すみません、お待たせしました」


 ずいぶんと眠そうで心配になるが、まぁしばらくしたら目も覚めてくるだろう。


「じゃあ、夜番の続きは頼むな」

「えぇ、おやすみなさい」

「お休みなさいませ」

「あぁ、おやすみ」

「お休みなさい」


 俺と氷室は、アリスたちが使っている方とは別のテントに入っていく。そして明日に備えるため、眠りにつくのだった。

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