賑やかな旅路(3)
俺たちの乗っている馬車はちょうど夕暮れ時に、王都と目的地との中間にある町へと到着した。そして、そこで盗賊を警備兵に引き渡す。
なお、当然と言うべきか引き渡すまでに逃げようとした者が何人かいたのだが、そういう者たちは例外なく足を縛られて引きずられることとなった。
氷室は事前に通告してはいたが、それでも本当にするだなんて少し驚いた。
中間にある町で宿をとって一泊し、その翌日もメイソンに向けて馬車を走らせる。
盗賊を引き連れていないだけですごい速度が出ている気がするが、多分それは気のせいだろう。
「――なぁ、そう言えばセレスは魔術が使えるんだよな? どれくらいのものが使えるんだ?」
「あれ? あのことは奏多さんに言っていなかったでしょうか?」
「言ったような言ってないような、そんな感じですね」
「何のことを言っているんだ?」
俺には氷室とセレスが何のことについて話しているか、まるでわからなかった。
二人の間には共通認識があるんだろうが、それがわからないことには話の筋が見えてこない。
「言ってなかったみたいだね。奏多、セレスティア様は『有翼の巫女』という異名があるんだ」
「あぁ、それは以前に聞いたな」
いつのことだったか……あぁそうだ、一度目の聖王国に来たときに、ついでに収集した教会の情報にそんなのがあった気がする。
詳しくは調べてなかったのでそのときはよく分からなかったが、今ならなんのことなのかがよく分かるな。
「それじゃあ、なんでセレスティア様が巫女の地にいるかわかる?」
「……いや、わからないが」
「セレスティア様はね、《天候操作魔術》の達人なんだ。その腕は、僕が知り得る中で随一のものさ」
氷室は自分のことのように、うれしそうに語る。氷室が言うのなら、それは本当のことなのだろう。
「天候操作魔術ってどういうものなんだ?」
「簡単に言えば、天候を自由自在に操ることのできる魔術です。もっとも、大きく天候を操作しようとすれば、それなりの触媒に時間と魔力を要求されるんですが」
「へぇ……! すごいなそれ」
「うん、実際にすごいことだよ。それと、セレスティア様の業務の中には、嵐を遠ざけたり噴火や地震の兆候を観測したりというのがあったりするんだ。本当にかなりのことを一人でやってらっしゃるんだよ」
いや、嵐を遠ざけたり噴火や地震の兆候を観測するって……いったいどうやるんだそれ。まるで方法が思いつかないな。
「まぁ嵐を遠ざけようとすれば、事前準備がものすごく大変なんですけどね。それに、噴火や地震の予報はついででやっている事ですので、的中率はコインを投げたときに表が出る確率よりも低いですよ」
『コインを投げたときに表が出る確率』――つまり、五十パーセントよりも低いってことか。
……五十パーセントくらいで的中するなら、それでも充分すごくないか?
「そういうのって一体どうやってるんだ? 触媒とか言ってたし、何もない状態でできるわけじゃないんだろうし」
「えぇ、天候を操作するには専用の機材が必要になります。もっとも、これ以上は企業秘密ですけどね」
セレスは口元で人差し指を立て、小さく微笑んだ。
興味本位で聞いてみただけだし、そこまで深く知ろうとは思っていなかったので、これ以上踏み込むのはやめておくことにした。
そして、その後も他愛ない雑談などをして時間をつぶしていると、馬車が少し減速した。そして、御者が小窓を開く。
「メイソンにもうすぐ到着しますよ、長旅ご苦労様でした」
窓を開けて外を見てみると、そこには立派な城壁がそびえ立っていた。だが、ベネット王国とは違う点がある。それは、城壁の素材である石材が白いことだ。
これまでに聖王国の町をいくつか見てきたが、例外なく城壁や建物を構成する石材は白かった。
「そういえば、なんで聖王国の石材は全体的に白いんだ? どこの町も同じように白いきがするんだが」
「あぁ、それは聖王国では優秀な石材が産出するからね。だから、全体的に白い建物が多いんだ。たしか言ってただろう? メイソンでは鉱山業や採石業が盛んなんだ」
「あぁーそういえば言ってたような気もするな」
ど忘れしていつ聞いたかは忘れたが、確かに言っていたような気がする。
「まぁ、ここらの石の色は白色なのが多いんだよ。僕はよく知らないけど、綺麗さは大理石や御影石に劣る分、耐久性が高かったり加工がしやすいみたいだよ」
「やっぱり、地域によっても特色が出てくるんだな」
俺たちが話をしているとその間にメイソンに到着したようで、馬車が止まった。
「身分証の提示をお願いします」
「はい、こちらです」
外から御者と、門番と思わしき男のやり取りが聞こえてくる。
「これは……失礼しました、教会の方でしたか。どうぞお通りください」
どうやら教会の関係者は特に荷物検査などを受けなくていいらしく、俺たちはすぐに城門を通ることができた。
「教会って優遇されているんだな」
「そうだね、この国にとって教会はなくてはならないものだからね。この国が多くの国と友好を結んでいられるのも、ひとえに教会のおかげと言っても過言ではないしね。それだけ、この国では教会は重要なものなんだよ」
まぁ、確かにこの国の教会はかなりの地位にあるみたいだしな。それは、有事の際に勇者である氷室が各地に出向き、魔物を討伐したりしているのを見ればわかる。
それにも政治的意図があるんだろうが、そうすることによって各国と友好関係を築けているのも事実だ。
教会がこの国になくてはならないものというのは、間違っていないのだろう。
「さ、もうすぐメイソンの教会に着くから、降りる準備しないとね。いつまでも雑談をしてるわけにはいかないから」
俺たちは氷室の言葉に従い、降りる準備を始めたのだった。




