賑やかな旅路(2)
「あん? やる気かてめぇらっ!! 殺されたくねぇなら早く有り金よこせ!! 殺すぞっ!!」
「僕のことを知らない、ということは流れ者かな? 相手との実力差を計る力を身につけた方がいいよ」
「あ!? てめぇのことなんざ知るかよ!! 早く金をよこせつってんだよ、殺されてぇのか!! あぁっ!?」
盗賊の中のリーダーと思われる男が、氷室に高々と吠える。しかし、氷室はそんな男を見ても全く動じていなかった。
「初めまして、私はアンドレアス・ボールドウィン、ここ聖王国の勇者だ。今逃げるなら追わない――と言いたいところだけど、君たちは盗賊だからね、一人残らず捕縛させてもらうよ」
「てめぇふざけたことぬかしてんじゃねぇぞっ!! どういう状況かわかってねぇのかっ!?」
「君たちの盗賊団が僕たちの馬車を囲ってるね。だけど、それがどうかした? 言っておくけど、君たちじゃ僕たちにはかなわない。今すぐ投降したほうが身のためだよ?」
氷室は盗賊たちに煽るようなことを言った。なにか狙いがあるからこそ、ここまで腹の立つ言い方をしたんだろう。
「ふざけんじゃねぇぞてめぇっ!! おめぇら、こいつらをぶっ殺せっ!!」
盗賊のリーダーは武器を抜くと、部下たちに命令を下す。
「パラライズ!」
「がぁ!?」
俺は剣を振り下ろしてきた男の攻撃をよけると、その男の胴体へと手を当てて電撃を放った。すると、その男は気を失って地面に倒れ込んだ。
この魔法は主に対人戦で使われる魔法で、相手を即座に気絶させることができるのだ。以前人を気絶させるのに手間取ったので、いろいろと調べた結果見つけた魔法である。
威力を間違うと気絶を通り越して永眠させかねないらしいのだが、どうやらうまくいったらしい。
「遅い! もっと鋭い攻撃をしてみなよ!」
そんな声が聞こえてきたのでそちらを見ると、そこでは氷室が豪快に盗賊たちの首筋に魔乱の魔剣を叩き付けているところだった。
盗賊たちは魔乱の魔剣を叩き付けられると、すぐさま気絶する。
力加減が絶妙なようで、だれひとり死ぬことなく一瞬にして意識を失う。
力をこめすぎれば殺してしまい、逆に弱ければ気絶させることはできない。その加減はかなり難しいはずだが、氷室はそれに慣れているようだった。
「――光よ、敵を打ち、意識を刈り取れ!」
セレスは魔法陣のようなものを空中に発生させ、そこから光の弾を発射して盗賊を攻撃していた。光弾は盗賊に直撃すると、なぜかその盗賊は気絶する。
なるほど、これが『魔術』か。直接見たのはこれが初めてだな。
魔術と魔法は実際には全くの別物らしいが、見た感じはほとんど同じに見える。魔法陣を発生させてることを除けば、ほぼ同じと言ってもいいかもしれない。
「……ちっ! てめぇら、逃げんぞ!! バラバラの方向に散れ!!」
「そうやすやすと逃がすと思うかい!? 《シューティングスター》!!」
氷室は手を空へと掲げる。すると空から光弾が無数に降ってきて、盗賊たちに降り注いだ。
盗賊たちもなんとかよけようとするが、数が多く正確に落ちてくるため、次々と脱落していく。そしてしばらくすると、そこには俺たち以外に立っている者はいなくなった。
「――いや、おいおい! いきなりなんて魔法を使ってんだ! 結構びっくりしたぞ!」
「対集団に効果的な魔法がこれくらいしか思いつかなくて……急にごめんね」
「……まぁ、別にいいけど。それより、こいつらはどうするんだ? このまま放っておくわけじゃないんだろ?」
俺たちの周囲には気絶した盗賊たちが無造作に転がっていた。
このままではいろいろと邪魔になるだろう――ていうか、普通に邪魔だ。このままじゃ馬車を動かせない。
「もちろん。とりあえず、気絶している間に縄で縛っておこうか。足は歩かせるから縛らなくていいけど」
「歩かせるって、それ今日中にメイソンに到着できなくないか?」
「そうなるね、まぁメイソンの手前にも町はあるし、宿に困ることはないよ」
氷室はそう言うとセレスに目配せをする。俺には意味がわからなかったが、セレスにはきちんと伝わったらしく、頷くと馬車へと戻っていった。
そして氷室はアイテムボックスから縄を取り出すと、俺に渡してくる。
「人数が多いから縛るのに時間がかかるんだ。だから手を貸してくれないかな?」
「普通、それ渡す前に言うよな? まぁ、これくらいは手伝うが」
俺は手当たり次第に気絶している盗賊たちの手を縛っていく。そして、縛ったらまとめて一ヶ所にかためた。
「で、次にどうするんだ?」
「今度は盗賊たちを数珠つなぎで結んでいって。そうすることで逃げづらくなるんだ」
俺は氷室と強力して盗賊たちを数珠つなぎに結ぶ。そして全員つなぎ終えると、氷室が馬車の後ろにある金具のようなものに縄をくくりつけた。
「よし、とりあえず何かしらの方法で盗賊たちを起こす必要があるね。なにかいい方法はある?」
「うーん……じゃあこれでどうだ?」
俺は魔法で水球をいくつも発生させると、盗賊たちの顔の前で爆発させた。
なお威力はちゃんと加減したので、目を覚ますのに丁度いいくらいになってるだろう。
「ぐはぁっ!?」
「な、なんだっ!?」
「ごほっ!! ごほっ!!」
水球が爆発すると、そこは地獄絵図のような状態になった。突然の事に戸惑う者や咳き込む者と、収拾がつかない状態だ。
……ちょっとやり過ぎたかもしれない。
「おはよう。さっそくだけど、君たち盗賊団は僕たちに捕らえられた。これからしかるべき裁きを受けてもらうから、覚悟しておくことだ」
「は!? ふざけてんじゃ――っ!!」
「拒否権はないよ。もう少しで馬車が動き出すから心の準備をしておいてね。……あぁそれと、逃げようだなんて考えないことだ。引きずられながら移動するのは誰だっていやだろう?」
そう言う氷室の顔はまったく笑っていなかった……いや、それどころか汚らわしいモノを見るように、凍てつくほど冷たかった。
いくら氷室といえども、盗賊に優しくする気はないのだろう。
まぁ、俺も私利私欲のために人の物を奪い、場合によっては殺すような連中に優しくなんてする気は一切起きないのだが。
「さ、行くよ」
「……あぁ」
俺は氷室の後ろについていき、馬車の中へと入った。その際に盗賊たちから怒声や罵声が聞こえてきたが、氷室には聞こえていないようだった。
「お疲れ様です」
「あっ、お疲れ様」
「ご苦労様です。事情は説明しておきましたよ」
「はい、ありがとうございます。では、行きましょうか」
馬車の中に入ると、どこから出したのか紅茶を渡された。
最初は目配せの意味はわからなかったが、どうやら『事情を説明しておいてくれ』という意味だったらしい。本当に、その意図はちゃんとセレスに伝わっていたようだ。
「それでは出発します。盗賊をつないでいるのでかなり移動速度は落ちますが、夕方ごろには目的地との中間にある町に着くと思いますよ」
御者は俺たちに一言入れてから馬車を走らせたのだった。




