勇者パーティーとスキル授与式
前半部は勇者パーティー
後半部は主人公視点です。
「いやぁ、クオウ殿、今日は良い天気ですね」
「そうだね、セジロウ」
「ちょっとリミ、聞いた? この村じじいだらけだって! 超ウケる!」
「……口は災いのもと…… ビネタもいずれ、ばばぁになる。 下手したら、今日」
「ならないわよ!! 失礼ね!!」
村に向かう馬車の中、勇者パーティーの面々は自由に過ごしていた。
その後方の馬車には《スキル授与式》を行う神官が乗っており、勇者パーティーはその護衛も兼ねているのだ。
――――スキルの授与とは
この世界の神が、15歳になる若者の資質から、最も相応しいスキルを神官を通して与える儀式。
なぜ神はこのような事をするのか?
神官達は、その質問に神は答えてくれないと言う。
だから彼らは『魔王に蹂躙されるだけの人間が、スキルで対抗出来るようにと神から与えられた慈悲である』と伝えている。
そして勇者パーティーとは、そのスキル授与によって、魔王を倒すに足り得るスキルを与えられた者達で構成されたパーティー。
王都に召集された若者達が優秀なスキルを与えられたら、その場でスカウトするのが、神官の護衛を兼ねたパーティーの目的である。
「……しかし、あまり増えすぎても困りますな」
勇者パーティーで最年長のセジロウは狭い馬車の中を見てぼやく。
無精髭とその物腰からおっさんと思われがちな25歳で、
スキル《心眼》を得てから10年も魔物と戦っているベテランの槍使いである。
「そうだね、いくら優秀なスキル持ちは有用とはいえ、僕たちだけでも魔王と戦うのは十分だとは思う」
そうセジロウに返すのは勇者パーティーのリーダーであるクオウ。
今年で19歳となる刀士で、長い黒髪を後ろで一本に束ね、着物を愛着している。
スキル授与式から4年しか経っていないが、彼の与えられたスキルは《戦神》。
魔物を斬った数ならセジロウを越えている。
「……パーティーメンバー、ホントにまだ必要?」
「神から与えられるスキルは、すべて神官がくれたこの本に書いてあるから……」
クオウは本をパラパラとめくりながら「やっぱりこの《剣聖》ってスキルは欲しいかな」と答える。
「でもさー、そんなレアスキル、下手したら一生見つからないかもしれないじゃん?」
「そうだね、でも魔王にやられちゃったらそれまでなんだし、ここは気長に頑張ろうよ。 僕だって死にたくないし」
「そっか、そりゃそうねー。 アタシもこの若さで死ぬとか冗談じゃないわ」
そう言うビネタは今年で20歳となる。
《斥候》のスキルを得てからずっと一人で魔物を狩っていたが、クオウが勇者パーティーを立ち上げて、すぐにスカウトされた逸材である。
「……なんにしろ、いいスキルなら手元に置いておきたい……」
「うん、そうだね」
そう話している内に勇者パーティーを乗せた馬車は王都に到着した。
「着いたようですな」
「さぁ、今年はどんな子達がいるかな……」
◇
……王都。
ふぁー、大きい。
村とは大違いですね。
「おいロッカ、あんまりキョロキョロすんなよ、恥ずかしいだろ!」
「いや、あんたも十分ソワソワしてるのが端から見てても分かるわよ」
「うぐっ、緊張で足が震えてやがるんだよ……!」
「正直ねー」
私はクアンザを放置して、黒いローブで全身を覆って私の後ろをノロノロ歩いている陰気な男に声を掛けた。
「リベート、平気?」
幼なじみのリベートはクアンザと対極に位置するような性格で、とても人見知り。 たまに気を掛けて話しかけているのだが……
私が声を掛けたとたん ビクッと震え、ローブの隙間から恐る恐るこちらを伺う。
「う、うん…… 平気だよ……」
「リベートあまり外出ないから心配してるのよ、倒れそうになったら言うのよ?」
「わ、わかったよ…… ふふ、うれしいな、ロッカがボクの心配……」
なにやら小声でブツブツ言い出したがいつもの事なので私は気にせず前を向いた。
「ロッカ! すげーな、教会にガキがずらーーーって並んでるぞ!」
「ガキって…… 全員15歳でしょ、あんたと同じ」
「へっ、どいつもなまっちょろい体じゃねえか。 リベートみてえだな! なぁおい!!」
クアンザはリベートに向かって挑発じみた事を叫んぶ。
こんな道の真ん中で喧嘩はしないでほしいけど、リベートの事だ。
黙って終わりだろうな……
「……」
案の定リベートは下を向いてブツブツいい始めた。
「クアンザ、やめて」
「はぁーーー」
クアンザは私を見ずに、やれやれと首を振ってさっさと教会の入口に続く列に並ぶ。
……この教会で神官が《スキル授与式》を行うのだ。
「……ねえ、ロ、ロッカ……」
クアンザの後ろに並んで、ボーッとお昼ご飯の事を考えていた私にリベートが声を掛けて来た。
珍しい。
リベートも王都に来て少しテンションが上がったのかな?
「どうしたの?」
クアンザの意識が何やらこっちに向いた事を肌で感じつつ、私はリベートの方を向く。
「……も、もしさ、ボクが強いスキルを与えられたら「ねえよ」ぃ……」
なんということを。
頑張って語ろうとしたリベートの発言をクアンザは途中で止めてしまった!
「ちょっとクアンザ……」
「お前なんかに強いスキルなんてこねえよ」
止めようとした私を無視して、さらに強い言葉をぶつけるクアンザ!
「お前がさっき言いかけた強いスキルの先に続く言葉になんて、俺は興味なんてないけどな!
……ないが、強いスキルってのは、お前なんかが貰っていいもんじゃない!」
そりゃね、クアンザは強いスキルの為に、ずっと体を鍛えて来たからね。
……でも。
「……ボクは、別に引きこもって遊んでたんじゃない……!」
リベートは、ここに来てついにキッとクアンザを睨んだ!
「ずっと勉強してたんだ! 知識を得て、《魔法》のスキルを得る為に!!」
……うん。
私はリベートが魔法を使いたいんだって知ってた。
クアンザは、リベートをずっと馬鹿にしてたから、彼の望みを聞こうともしなかったけど。
「……ほーん……」
リベートの望みを初めて聞いたクアンザは何やらウンウンうなずいてリベートに目を向けた。
「なるほど、お前は、俺とは最初から鍛えていた物が違ったんだな」
「……え、そそ、そうだ」
クアンザの冷静な言葉にキョドるリベート。
さっきの勢いはどこに……
「いいぜ。 今、初めてお前を俺と同じ男だって認めた。 どんなスキルだろうが、俺は負けん!」
どうやらクアンザの中で何かが決まったようだ。
……ここまで、私、蚊帳の外!
「次の方ーー」
盛り上がっている最中に、私たちのところまで順番が来たようだ。
「俺だな」
クアンザは狙いを定めた強気な表情で教会に入って行く。
「もし変なスキルでも泣いちゃダメよーー」
「ハッ、ねえよ!」
腕を振って答えるクアンザを見送って、リベートと他愛ない会話をする。
ま、あんだけ頑張ってたんだから、大丈夫かな……
――――だが、出てきたクアンザは絶望の表情をしていたのであった――――