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平凡な村娘は静かに暮らしたい

 太陽が少し沈み、涼しい風がそよぐ中。

 私は柔らかな土手の坂に、ごろりと仰向けに寝転がる。


「……いい気持ち……」


 目を閉じ、すぅすぅと静かに息をする。

 この、何をするでもなく静かな時間が私は大好きなのだ。


 そんないい気持ちに浸っている私の耳に、ザッザッと土を踏んで歩いて来る音が聞こえた。

 せっかくのいい気分を台無しにされて、少々ムッとした私は相手を見ようと、うっすら目を開き…… 


 ………やっぱりやめた。


 足音だけで誰か分かったからだ。


「ロッカ、ここにいたのか」


 聞こえてきた声はやはり私の幼なじみのクアンザだった。


「ぐぅぐぅ」


「ちっ、おいこら」


 クアンザはザザッと斜面を滑り、私の横に立つ。

 全く…… 私は絶好に快適な時間を過ごしていたというのに……

 仕方がないと、私は口を開く。


「……なーにーよー、クアンザ…… 私は今忙しいの」


「いつもそう言って寝てるだけじゃねえか。 いいから、ちょっと付き合え!」


 クアンザは私の手を引き、無理矢理起こした。

 痛っっった! ああもう、何て乱暴なのか!?


「ちょっと、もうちょっと優しく起こしてよ!!」


 私は体についた泥や雑草をパンパン叩きながらクアンザに文句をぶつけた。


「ああ、悪かった悪かった。 でもこっちももう時間がねえんだよ」


「時間? 何の?」


 私は腕を組み、首をかしげる。


「いや、3日後に『スキル授与式』があるだろう!?」


「え? ……あーー。 そういえばそうだったわね」


「なんでそんな興味薄なんだよ! 一生の事が決まるんだぞ!!」


「そりゃ、この村で15年間生きて来たけど、不自由は感じてないもの」


 クアンザが熱弁するほど、私は『スキル』というものに興味がない。

 私が好きなのは平穏。

 誰にも邪魔さない場所で、目を閉じ、横になって、静かな時を過ごす事。


「そうね…… スキルで『静寂空間』とか貰えたら、わりと嬉しいかもしれないわね」


「いや、なんだよそのスキル、聞いた事ねえよ」


「創作よ」


「……だろうな」


 クアンザはギュっと手を握りしめ、空を見上げた。

 うーん、そろそろ空が暗くなって来たわね、晩御飯の支度をしなくては。


「俺は、勇者パーティーに入れるような、すっげえスキルを絶対に貰うんだ!」


 出た、クアンザの口癖。

 私はもう耳にタコです……。

 あ、タコか、晩御飯はタコライスにでもしようかな。

 お野菜~たっぷり~~タコライス~♪

 私はふんふんと鼻歌を口ずさみながら土手を登る。


「っておい、何帰ろうとしてんだ!!」


「今日はもう晩御飯の支度しないと。時間も遅いでしょ」


「少しでいいから剣の修練に付き合えって!」


 クアンザは木で出来た練習用の剣を私に放り投げてきた。


「あのさぁ…… いっつも思うけど、何で私?」


「お前とやるのが一番練習になるんだよ。 ディーフォもラッキーもまだ弱いんだ」


 ディーフォとラッキーというのはクアンザの弟たちだ。

 今は6歳と5歳だったか。

 この村には私たちと同じくらいの年齢の子供は今は3人しかいない……


「リベートはどうなの?」


「いや、分かってて言ってるだろ。 あいつ、ほとんど部屋から出てこねえじゃん……」


「やっぱダメか……」


 リベートとは、クアンザと一緒で私の幼なじみなのだが、部屋に引きこもって本ばかり読んでいて、肌が真っ白な男の子だ。

 ぶっちゃけ、リベートより私の方が体力も腕力もあるだろう。


「もういいか? じゃあちょっとだけ剣を振るわせてもらうぜ!」


 ダッ、とクアンザが私に詰め寄り、剣を上段から振り下ろす。


「……っ」


 ガッと剣で受け止めるが、もうそれだけで手が痺れた。


「そら、今度は下からいくぜ!」


 クアンザの容赦なく打ってくる剣をなんとか受け止めるが、彼が満足する頃には私はフラフラになっていた。


「ふぅー、ありがとうなロッカ。 相変わらずいい根性だ!」


「……それは、どうも」


 だめだ、とても料理出来るような体力は残ってない……

 今日はもう帰って寝よう。


「ロッカもいいスキルもらったら、俺と一緒に勇者パーティー入ろうな!!」


 クアンザはニカッと笑ってきた。


「私は、もし戦闘用のスキル貰っても村でのんびり暮らすわ……」


「そうかー……」


「じゃあ、おやすみクアンザ」


「おう、おやすみロッカ!」




 そうして私たちはそれぞれの家に帰った。


 スキル授与式か……

 面倒なく終わってほしいわね。


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