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~十月十日~ 4

 次の瞬間、大きな爆発音。滑るバンの先には別の車があって、それが避けきれずに衝突したのだ。積んでいた火薬に引火するのは時間の問題かもしれない。早くこの場を動かなくては、巻き込まれる危険だってある。

 けれど、動けなかった。巻き込まれた車に、見覚えがあったから。プロローグに所属していた運び屋夫妻のものに、似ていたから。慌ててそばまで走っていって、中を覗き込む。よく知る男が血を流して倒れていた。助手席に乗っていた女性は、既に息がない。正面からの衝突だったから打ち所が悪かったのだろう。

「おじさん!」

「死んじゃ、駄目だよ」

 仙花と二人、必死に手を差し伸べる。男はその手に、ゆるゆると首を横に振った。

「もう助からないさ」

「何言ってんだ!」

「そうだよ、子どもがいるんだろう!」

 仙花は声をかけ続け、流音はジャックナイフで扉を剥がしにかかる。仙花の鉄パイプがあれば、とバンのほうを見たが、折れ曲がったそれはもう使えそうになかった。

「そう、だな……ち、よ……」

「そうだよ! 親のいない子どもがどうなるか、知ってるだろ?」

 男は意識が途絶えてきているのだろう、返事もおぼろげになってくる。ようやく扉が外れて、中に手を差し入れた。けれどやんわりと拒絶されてしまう。

「なんでだよぉ」

 仙花の声が泣きそうに歪む。男は何とか笑顔を作ると、懐から小さな包みを取り出した。

「これ、を……」

「何?」

「な、みと……に……」

 流音は男の差し出した包みを両手で受け取って後ろに下がった。仙花はすでに泣いていて、酷い顔をしている。他人の死なんてどうでも良かったのに。それなのに。男は最後まで手を取ることをせず、妻の手を握ったまま、笑って死んでいった。

 爆音が辺りに響く。ついに火薬に引火したのだろう。バンに乗っていた残り二人も、きっと無事ではない。一瞬頭が真っ白になって、気づけば叫んでいた。

 燃え上がる炎、地面を流れる血、真っ黒な煙と爆発音。自分の叫び声ですら遠く感じた。


 結局全て燃えてしまって、持ち帰れた遺留品はその日運ぶはずだった荷物だけ。待ち合わせ場所で全てを聞いた南音は、二人を責めなかった。ただ、悲しい顔で抱きしめられた。「ごめん」と、何故か謝られた。相手を全滅させることは出来たけれど、それでも、任務は失敗したような気がした。何故かは分からないけれど。

 あのあと仙花は運び屋夫婦の娘、智夜に会いに行ったらしい。仙花は智夜に会って、そして、救われた。二人の間に何があったのかは分からないけれど、流音はとても嬉しかった。ずっと一緒にいた家族みたいな存在だったから。けれど同時に、酷く孤独だった。これまで以上に、破壊衝動を覚えた。どこかに消えてしまいたかった。

 けれど流音はその日から時折、仲間との関係や、生きることの意味について考えるようになった。


 暗転。

 思い出されるのは流れる赫と仲間たちの黒。


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