追想 2
40代後半か、もう50代に乗ってるか。
招き入れてくれた男性は
記憶の中にいる神父様とは随分出で立ちが違う。
こんなに頭頂部は薄くなかったし
もっと細身だった。
はっきり言ってこんなハゲデブのオッサンじゃない。
10年の月日とはこんなにも残酷なのか!?
全くの別人という可能性もあるけど。
教会って責任者変わったりすんのかな?
もし当時の事を知っていないのなら
本当に茶をしばいて終わるだけになりそうだ。
「あの……神父さ「牧師です」
神父と牧師の差がイマイチよくわからんが
食い気味に否定する程度には
間違われたくないということなのだろう。
顔面に張り付いている笑顔も
心なしか怒りを含んでいるように見える。
きっとマンガなら怒りマークが
頬か頭に付いている所だろう。
「牧師は教え、導くもの。
神父のような聖職者とは異なります。
私は、先生と呼ばれることが多いですね。」
聞いてもやっぱりよくわからんが
牧師と神父は全然違う役職で
この人は牧師だから間違えんなよって事ね。
聖書の内容を教える人だから教育者的な?
だから先生って呼ばれているのかな。
もしくは、裏の幼稚園の関係者でもあるとか。
幼稚園の教諭も牧師のような恰好をして
みんなで祈りをささげる時間があったし。
ん?
そういえば、あの記憶の中の”神父様”が
卒園式の時に賞状を渡してくれた覚えがあるな。
園長先生と教会の責任者が同じ
って事がありうるのか??
宗教やっている人の兼業って良いのだろうか??
招き入れられた教会の中は
記憶の中と同じで随分簡素だ。
よく教会と聞いてイメージするような
マリアの像もないし
キリストが磔られている十字架もない。
いや、十字架自体はある。
とてもシンプルな、ばってんのやつが。
照明は年代を感じさせるもので……
悪く言うと、随分古ぼけている。
手入れはしっかりされているからか
ボロいとは思わないが。
てっきり、懺悔室と言うものに入れられるのかと思ったのだが
腰を下ろすように指定されたのは
綺麗に並べられた長椅子の一つ。
「キリスト教と聞いて大衆がイメージされるものは
カトリックが殆どですからねぇ。
ここはプロテスタントの教会。
懺悔室もなければ聖母像も
絢爛豪華な十字架や装飾もありません。
父なる神は常に私たちと共におわせられます。
なので、罪の告白は心の中で行えば、神は聞き届けて下さいます。
特別、他者に懺悔をする必要はありません。」
カトリックやらプロテスタントやら
そういえば歴史で習ったっけか?
宗教革命とか、宗教戦争とか。
戦争起こすくらいだもんな。
同一視されたら、そりゃ怒るか。
同じ神様あがめている宗教でも、随分と違うもんなんだな。
テレビで見た事のあるビッグ・ベンや
サン・ピエトロ大聖堂なんかを思い浮かべながら
眼前に広がるしょぼい内装を見上げる。
仏教でも浄土宗とか真言宗とか色々派閥もあるし
質素な寺もあれば豪華な所もある。
感覚的にはそんな感じか?
宗教系の幼稚園に通ってはいたが
洗礼?だっけ??を受けて
クリスチャン・ネームを貰うという事もしていない。
家に神棚も仏壇もない身としては
いまいちピンとこない感覚だ。
「……と言う建前こそありますが
人間はだれかに口で紡いだ文句を聞いて貰いたい
と言う欲求があります。
話したい事があればお聞きしますし
対面してでは憚られるような内容でしたら
懺悔室もどきならありますよ。」
いや、もどきって。
この人、さっきから神父の持つイメージらしからぬ発言ばかりするな。
神父じゃなく牧師、か。
間違えたらチクリと刺すようなお小言を言われそうだ。
奥の方を指さされるが
そんな長居をするつもりもないし
この人が僕のことやあの子のことを覚えているとは限らない。
10年以上前に、
裏にある幼稚園にたった2、3年通っただけの子供を
覚えている人なんてそうそう居ないだろう。
例え幼稚園の関係者だったとしても、だ。
毎年何十人と卒園して行っているだろうし。
その全てを覚えていられる人なんてそうそういない。
僕も、当時あの子以外に仲良くしていた人ですら
名前や顔を思い出すことは困難だ。
特に、あの子なんて登園出来ない事も多かったし
途中で居なくなっている。
有益な話を聞くことが叶わないなら
早々に帰るつもりでいる。
誰か他に居る訳でもないし、ここで充分だ。
「いえ、こちらで充分です」
言いながら勧められた席に座った。
牧師のオッサンはにっこり微笑むと奥へ一度引っ込み
両手に湯呑みを持って戻ってきた。
まぢで茶飲み仲間が欲しかっただけだったりするのか?
お礼を言って湯呑みを受け取ると
中身はコーヒーで湯気を立てていた。
教会で、湯呑みで、コーヒー。
なかなかにシュールである。
これで番茶だったら違和感にめまいでも起こしそうだな。
「さてさて、なんの話でしたっけ?」
いや、何の話もしていないから。
一言たりとも悩み相談も罪の告白もしてないから。
かなりマイペースなオッサンの対応に頭を抱えたくなる。
手招きに応じたのはやはり良くなかっただろうか。
知らない人について行ってはいけません
なんて習わなくても小学生だって出来る事だろうに。
しくじった。
それでも、相手は教会の関係者で身元がはっきりしている人だ。
せっかく招かれた訳だし
一縷の望みを込めて相談くらいしてみても良いだろう。
「えぇっと…
この教会の裏にある幼稚園の卒園生なんです、僕。
色々思い出しがてら散歩してたら、貴方に声をかけられて」
「おやおや、そうでしたか。
それはそれは。
久方ぶりにこちらへ赴き
何か収穫はありましたか?」
……今の言葉だけで
僕が卒園以来ここに来てないことや
何か目的があってウロウロしていた
って事が分かるもんなのか。
そんな迂闊にアレコレ想定できるような
言葉を選んでしまったのだろうか。
あまり言葉数は多くなかったと思うんだけど。
見透かされているようで、居心地悪いな。
「そうですね…
いくつかはありましたが
重要な事は思い出せず仕舞いです」
「ふむふむ、なるほど。
その重要なことを思い出すきっかけを
私から与えられそうだと踏んだ理由は?」
心の内を覗かれているようで
あからさまに怪訝な顔をしてしまったのだろう。
ふふふと笑いながら牧師は言葉を続ける。
「貴方が教会の前に佇んでいたのは
随分と長い時間です。
ただ立っていたのではなく
悩み、自己を蔑み、贖罪を乞うかのような
思いつめた百面相をしていました。
そこに声を掛けた、見ず知らずの他人の誘いに貴方は応じた。
私が、何か問題や苦悩の解決に一役買ってくれる。
そう思ったからでしょう。
迷える仔羊を救う偉大なる神のようなことは私には出来ませんが
貴方よりは長く生きていますし
職業柄悩み相談にはよく乗っています。
他言はしませんし宜しければ詳細をお話しください。
……あと30分は営業時間ですから。」
だから、営業時間て。
お布施的なものを取られるのだろうか。
悩み相談1時間5千円〜
初回30分は無料です
みたいな。
それは弁護士か。
しかし、まさか教会の前に立ち尽くしていた時から見られていたとは。
感覚的にはそんな時間が経過したように思えなかったが
随分と思考の海に沈んでいたらしい。
長時間前でボーっと立っている人が居たら
そりゃ様子を伺って当然か。
「なら、まずお伺いしたいのが
牧師様は12年ほど前からこちらにいらっしゃいましたか?」
「えぇ、えぇ。
もう、かれこれ30年はこちらの教会を任されてますよ。」
ってことは、記憶の中の牧師と
目の前のオッサンは同一人物なのか!?
この牧師はニコニコ顔。
あの時の教会に居た人は、どちらかと言うと
険しい顔をしていた気がするのだけど…
そうか……
時代の流れって、やっぱり残酷。
嫌だなぁ、僕も加齢とともに
抜け毛やらメタボやら気にしなければいけなくなるのだろうか。
「ちょうどその頃、僕は裏の幼稚園に通っていたのですが
当時仲良くしていた子と偶然再会しまして。
その子と、何か重大な約束を交わしたそうなのですが
その子の事自体、ちょっと、
事情があってすっかり忘れてしまっていて。
その子の事と、約束と
当時の思い出の地でも巡れば思い出せるかなと思って
ここまで来たんです。
あの時あんなだったな〜とか
こんなことしたな〜とか
そういう事は思い出せるんですけど
肝心の約束が何だったのかは、全然で。
…と言うか、恥ずかしながら沢山約束をしすぎて
どれなのかが皆目見当もつかないというか」
「ふむ…
それで、なぜ私の誘いに乗ったのでしょうか?」
自嘲気味に頭を掻きながら笑うと
こくこく頷きながら牧師は更なる疑問を投げかけてくる。
なんだか懺悔や人生相談をしているというよりも
取り調べを受けている気分になるな。
「ここも、思い出の場所だからです。
その約束相手の子が倒れるたびに
ここに飛び込んで助けを求めたので
何か当時の事情を知っている人が居たら話を聞きたいなと思ったんです」
言うと牧師は頷くのをやめ目を見開き
あからさまに驚愕の表情を浮かべる。
「……君の、お名前を伺ってもよろしいですか?」
「あぁ、そうですね、申し遅れました。
瀬能志栖佳と言います」
僕の名乗りとともに合点がいったかのように
微笑みながら先ほどよりも深く、何度も
何度も頷く牧師。
僕のことを覚えていたということなのだろうか。
だとしても1人で頷いてないで
何を納得したのか話して欲しいものだ。
牧師は行儀悪くズズズと音をたてながらコーヒーをすすり
ほっと一息つくと、僕を見据えた後
深く、深く頭を下げた。
「貴方が、志栖佳くんでしたか。
その節は、私の娘を救っていただきありがとうございました。」
……ん?
むすめ??
バンッ!!!
と、この絶妙なタイミングで後方で開かれる扉。
「パパっ
もう時間過ぎているわよ。
施錠しても良いの!?」
薄暗い、夕焼けを背負って現れたのは
──敷香咲良、だった。
「でっ……!!」
口に出しそうになった言葉を慌てて口を手で覆い引っ込める。
聞かれやしなかったか。
視線と頭の言葉で何と言おうとしたか
余りにも解りやすすぎるだろう。
想い出のあの子である
うんぬん以前に女性を不快にさせることをしてはならない。
あの子に嫌われない為
がきっかけであろうと
フェミニズムは既に僕のアイデンティティーとなっている。
自分の根底を覆すようなことを
例え不意打ちを喰らったからと言って崩してはいけない。
やばい。
視線が泳ぐ。
つい、そっちの方へ意識を向けてしまう。
どこって解るだろ!?
だっておっぱい好きなんだもん!
仕方ないじゃん!!?
なんだよ!!
あの!!!
超☆重量級は!!!??
過去見た事があるおっぱいで
一番大きいサイズはJカップ。
某海賊漫画の効果音並に
どーんっ!!!
と実っているそれに
心の中で拝まずには居られないほどの
圧倒的な存在感を感じたものだが
彼女についているのは、それ以上のおっぱい圧。
Fカップ片方で800グラムほど。
果物で例えるなら小玉メロンが
それぞれ片乳ずつについていると言われている。
Hでパイナップル
Iで2Lペットボトルの重量が例えられる。
かつて拝んだJカップ程になると、
片乳のその重量は2.5キロ。
ドリアンがそれくらいの重さか…?
美しくないから却下だな。
小玉スイカだとその重さには至れないし
的確に例えられる果物がない。
いやいや、J程度なんてかすんで見えるくらいの
遠くに見える、そのおっぱい。
一体何カップあるんだ!?
この僕が、全く見当がつかない。
まさしく、スイカでもブラジャーに詰めているんじゃないか
と錯覚するぐらいの、その存在感。
Jのブラジャーですら
『え、これは沖縄で味噌汁をよそう為の器ですか??』
って位のデカさだった。
例えが解りづらい。
拳が入る、なんて例えじゃ足りない。
赤ん坊の帽子になる、と言う例えでもしっくりこない。
ラーメンどんぶりの様に広がった形はしていないし
どう例えれば良いものか……
あぁ。
ウエストサイズやヒップのサイズがつかめなかったのは
身体を冷やさない為の重ね着の所為としても
何でおっぱいのサイズすら判らないのだろう
と思っていたが
そうか
あのおっぱいじゃ制服のボタンはじけ飛ぶもんな。
もしくは制服に着られている感満載の
バランスがおかしい着こなしになってしまう。
てっきり、心臓の手術痕が
万が一でも見られないように隠しているせいなのか
と思っていたのだが
さらしかなにかで思いっきり潰しているからだろう。
その上で、あの、正体不明のカップ。
未知との遭遇だ。
そりゃ、判るはずもない。
いや……
あのおっぱいは、反則だ。
僕の些末な苦悩とか罪の意識だとか
もう考えなくて良くね?
って思わせるだけの圧倒的尊さがそこにはある!
神は細部に宿ると言うが、そうではない。
目に見える所に
こんなにも圧倒的存在感をもって
神は彼女の胸に宿っているではないか。
「咲良、彼とお話しなければならないことがあるでしょう。
施錠は私がしますから、どうぞ、こちらへ。
志栖佳くん。
貴方を苦悩から救い出すことが出来るのは
あの子だけでしょう。
せっかく神が与えて下さった時間だ。
有意義に過ごしてください。」
思わず実際に拝みそうになった所で
彼女の父親らしい、牧師が口を開く。
え、いや、確かに。
偶然にしちゃ出来過ぎている位に
凄いタイミングでご本人登場しているけど
僕の中にはもう彼女のおかげで悩みが吹っ飛んだし
もうこれ以上話すことなんて
それこそ忘れて居た事への謝罪くらいしかないんだけど。
と言うか。
神はそこにいるじゃないか!
おっぱい神様、僕を苦悩の坩堝から救って下さり
ありがとうございます!!
あ、その持ち主である彼女に
感謝を述べることもしなければならないか?
むしろ拝んで崇め奉らねばならないか??
有意義に過ごせって
彼女の父親らしい人から許しを貰ったという事は
え?なに??
揉んだり埋めたり挟んだりして良いって事???
僕の息子大暴走しちゃうかもしれないよ?????
頭の中がおっぱいに支配されすぎて
もはや自分が何を考えれば良いのか全く分からない。
とりあえず落ち着かなければ。
おっぱいの事を考えずにはいられないのは
サガと言うものだが
今は真面目に話をしなければならないだろう
多分。
いやいや、多分ではなく
絶対に。
歯止めが効かなくなったら
本当、無遠慮に妄想していたアレやコレやを
してしまうかもしれない。
だって、あのおっぱいだし。
大きければ良いと言う訳ではないが
彼女が所有しているあのおっぱいは
筋肉も程よく付いているためきちんと支えられていて
重力に逆らっている部分もキチンとあるし
豊胸の様にとってつけたようなゴム鞠のようなものではなく
形も良いように思える。
そして肉体的な全身のバランスを見ても
確かに、大きい。
とてつもなく大きいが悪目立ちして居る訳ではない。
絶妙な肉の付き方をしているため
下品な印象は微塵も受けない。
まさしく、芸術品。
この芸術品を汚さない為にも
第三者が居た方が良い気がするんだけど。
しかし無慈悲にも
牧師は外へと消えて行き
彼女は扉の内側へと招き入れられた。
ど、どうすれば……
少しずつ近づいてくる彼女から
後ずさりしたくなる。
が、僕は椅子に座っている状態だし
露骨に立ち上がって逃げる訳にもいかない。
腹を、くくるしかないのか…!?
どうせならそのおっぱいにくくられたいです!!
ヤバイ。
思考がどうしてもおっぱいに囚われる。
こんなんでまともな話が出来るのだろうか。