日常 3
次の採寸は図書委員が似合う先輩。
彼女は採寸の前に、指導をしなければならない位に、酷い。
「先輩は採寸の前に、どうして欲しいのか要望をおっしゃって下さい。
ただサイズを伝えるだけでは解決できない所が多過ぎます」
「え?え??」
自分の身に着けている下着のどこがどう悪いのか
サイズが合わない以外に何が問題なのかが分からないらしい。
体育の授業で着替える時とか
修学旅行の時とか
友達に指摘された事がないのだろうか?
野郎連中なんかは風呂で誰がデカい小さいの話で盛り上がると言うのに。
「先に謝罪しておきます。
言葉が悪くなったら済みません。
先程の先輩もスポブラではなくナイトブラを普段から使用している
と言うツッコミ所満載な下着を身に着けていましたが
貴女のはちょっと酷すぎます。
アンダーもあっていない、着ける位置が違う。
カップも合っていないしその上寄せる事も出来ていない。
肩紐の長さ調整も出来ていないし
何よりジュニアものであることが許せな……ごほん。
先輩位に発育している場合は大人用を身に着けなければ。
形は崩れるし着けていて苦しいでしょう」
途中からヒートアップし過ぎて
本音がだだ洩れる所だった。
危ない、危ない。
僕の観点で許す、許せない、の問題ではない。
先輩のおっぱい存続の危機ですよ!!?
いや、マジでね。
冗談ではなく。
至極真面目な話。
過度の外部刺激のせいで乳癌のリスク高くなるからね。
程度によっては全摘しなくても良いし、再建手術だってあるけどさ。
病気なんてならない方が良いに決まってる。
病気になったおかげで気付けることがある
と言うのは一理あるのだろうが
個人的意見を言うならそれは病気を美談にし
自分の精神状態を保つための自己防衛本能の一種に過ぎない
そう思う。
病気になんて、ならない方がいい。
そんな御託はどうでもよろしい。
それよりも今は先輩のおっぱい救出が何より優先される!
「えぇっと…
わたし女家族、誰もいなくて。
安売してるのをつけてるから何がどうダメなのかもわからないの。
おっぱい王子には悪いんだけど、何がどうだめなのか教えてほしいな。」
「それは…、事情も知らず申し訳ありませんでした」
言って先ほどスポーツ先輩にさせた格好よりも更に深く頭下げた。
今のセリフから、色々察することが出来る。
両親共に揃っている上家計の心配をしなくて良い僕には、
表面上理解できても心情的な物を汲んで寄り添うことができない事である。
暴走して暴言を吐かなくて良かった。
彼女の心の傷をえぐるか、新たに傷を作る所だった。
ただね、サラッとあだ名で呼ぶのやめて。
呼ばれるたび僕の心も少しは傷つく。
僕の場合は自分の行動が招いている結果なので
ある意味仕方ないと思えなくもないが
彼女のは家庭の事情だ。
初対面の一後輩が踏み込んで良い領域じゃない。
「それでは、後輩さん。
貴女も共通して学ぶべき所でしょうし聞いてください」
女性は子供を産むために二次性徴期になると肉体が変化していく。
つくべき所に脂肪がつきやすくなったり、初潮を迎えたり。
乳房が膨らみ始めるのもこの時期だ。
そして乳房がみんな大好きおっぱいへと進化するにあたり
いくつかの段階を経なければならない。
“みんな”の中に幼児のつるぺたイカ腹好きの少数派は、この際除外させて頂こう。
未発達や発展途上のそれも悪くはないが、
それを語り出したらタイーホされてしまうリスクがある。
やだよ、僕は。
この歳に限らず前科持ちになんてなりたくない。
二次性徴を迎える際、まず胸が膨らむための前段階として
非常に刺激に敏感になる時期がある。
揉むなんてもってのほか。
衣服が擦れるだけでピリピリヒリヒリ
むず痒いような、痛いような
妙な感覚に耐えねばならない。
その刺激をなるべく和らげるため
また刺激と共に前へと出てきたポッチを隠すため
柔らかい生地の胸の部分が二重になっている肌着を着る。
これが第一段階。
胸が膨らみ始めるのは乳首を中心とする。
大人のおっぱいはお碗型が美しいとされるが
発展途上中のそれは円錐に近い。
その上固い。
脂肪がまだほとんど付いていないのだ。
当然である。
あのマシュマロを比喩される独特の柔らかさは
最初から女性の胸に付いているわけではない。
女性が痛みに耐え、丹精込めて成長させた結果なのだ。
敬意を込めて拝まなければならない存在。
触れる時には細心の注意を払わなければならない尊ぶべき聖域。
それがおっぱいだ。
いかん。
おっぱい愛は語り出したらキリがない。
今はそのおっぱいがおっぱいになるための過程を彼女達に教授するのだった。
違う。
おっぱいの成長過程に合わせて下着の種類が変わると言う話だった。
危ない、危ない。
そう、その円錐状に膨らみ始めた胸は
外部刺激に以前にも増して敏感になるし更なる痛みを伴う。
次第に横に膨らみを増してくるようになり
この時期の胸は成長速度が早くなる。
膨らみ始めたらその分重くもなるしそれを支えなければならなくなってくるし対応が難しい。
その為にカップがついた肌着や
スポブラのようにワイヤーの入っていない、しかし胸を支えるよりも柔軟性に特化したブラジャー
その2つを合わせた柔らかい生地のブラジャーの形をした肌着にカップがついたもの
着け心地や自分の行動パターンに合った物を身につける。
これが第2段階。
後者2つは、いわゆるファーストブラって奴だな。
胸の膨らみがより大きくなり、胸部全体に丸みを帯びてきたら
遂にワイヤーが入ったブラジャーで胸を支える時を迎える。
この第3段階の時期につけるのがジュニアブラと呼ばれる
ワイヤーが入ったブラジャーだ。
大人の女性のおっぱいを支えるのはカーブの深いU字ワイヤー。
アンダーの位置も落ち着いた頃合に
柔らかく重量のあるおっぱいを支えるのに適している。
ジュニアブラの中でもL字ワイヤータイプは
胸の膨らみがまだ途上の女性に勧める。
胸の膨らみが下胸だけではなく上胸にも広がり
ほぼ大人のおっぱいと変わらない形になってきたら
U字ワイヤーのジュニアブラを選ぼう。
どちらのワイヤーも大人用のものとは違い
大抵は樹脂で作られた柔らかいものだ。
大人用とは違い寄せて上げるのを目的としていないため
まだまだ刺激による痛みを伴う胸を優しく包み守ってくれる。
フィット感があり安心感を得られるものが望ましいな。
クーパー靭帯の損傷は、なるべく、ではなく絶対に防がねばならない。
切れたり傷ついたら元に戻らないからな。
どうせ歳をとったら経験する羽目になるのだ。
若くして垂れ乳にはなりたくないだろう。
この時期からしっかり守ってあげてほしい。
勿論、
若さ特有の張りはあるのにクーパー靭帯が伸びきってしまったおっぱいを
決して悪だとは言わない。
おっぱいはどんなものも尊いものだ。
しかし靭帯が伸びきり茄子のようにぶら下がった状態のおっぱいを見ると
なぜもっと早く出会えなかったのだと身悶えしたくなる。
支えてあげれば素直に収まってくれるのがおっぱいなのに。
痛みが落ち着きふっくらと柔らかく、より大きく成長し
乳首の位置やアンダーの位置が下がってきたなら。
その時は大人ブラへとデビューだ。
よく長い間ワガママな幼い胸を支え続けてくれた。
皆から愛されるおっぱいへと成長させてくれてありがとう。
大人用のブラジャーも種類があるが
成長途中のものと違いあれやこれや難しく考える必要はない。
トップとアンダー
2つの数値が分かっていれば基本問題ない。
あとは好みと用途の問題だけだからな。
普段使いするなら金属のワイヤーの入ったしっかりバストを支えてくれる物が良い。
ハズレがなく、特に大きいおっぱいに向いているのがフルカップ
控えめなおっぱいや首元が大きく開く服を着る人には1/2カップ
寄せた肉をカップに収めやすく谷間を強調したいなら2/3カップ
締め付けられると蕁麻疹が出るような人に勧めるのはノンワイヤー。
補整効果は低いがワイヤーが入っていない分肉体への締め付けによる不快感が少なくて済む。
スポブラと違って脱着もしやすいので、ズボラな女性にも勧める。
他には小ぶりな事を気にしている女性にはナイトブラの着用を推奨する。
寝ている間も無理な締め付けなく腹から脇から集めた肉をおっぱいに集中したままキープしてくれる。
どうしても、寝ている間は昼間おっぱいに集めたお肉が無防備にあちこちに流れていってしまうからな。
贅肉への流出を防止してくれるのがナイトブラの役割なのである。
決して激しい上下運動には対応していないので
日常使いするものではない。
スポーツブラジャーはそのまんま、もう、名前の通り。
日常的に程度の大小あれども運動をする人向けの物だ。
おっぱいを支えるのに特化しているランニング用のスポブラの場合、
どんなに激しく動いても1ミリもズレることなく一日中
おっぱいを、クーパー靭帯を支えてくれる。
体育の授業で上下するおっぱいの魅力に釘付けになる男子諸君には大変申し訳ないが、
全ては未来のおっぱいを守るため。
全体育系女子に高性能のスポブラを勧めたい所存だ。
意外と安いしな。
僕が勧めるのは、慣れるまでに着用のしにくさが気になるだろうがホック付きのスポブラだ。
ホールド力が優れているのに締め付け感が気にならず、
その上汗をかいてもサラッとした使用感。
非の打ち所がない、とはまさにこの事。
ウチでも妹が所望したためスポブラは扱っているのだが
Yv◯tt◯と言うメーカーの物にはどうしても劣る。
両親には内緒でコッソリ妹達にプレゼントした程にそこの品は素晴らしい。
…妹にブラジャー贈るとか、よくよく考えると変態の所業だな。
「そう言うわけで、先輩には大人用の物を
後輩さんにはジュニアブラ第3段階のU字ワイヤーの物を
それぞれ勧めます」
ここで取り出すはガンちゃんに用意して貰った白いカバンである。
ご大層に金庫で管理して貰っているのには訳がある。
中身が使用済の下着が詰まっているからだ。
こう書くと語弊があるな。
キチンとそれぞれ洗濯済だ、残念ながら。
この中にはウチで取り扱っている商品の試着用の下着が詰まっている。
あまりにサイズが合っていない下着を着けている人達には、
おっぱいを一刻も早く救うべく下着の貸出をしている。
着け心地を気に入って貰えれば購買にも繋がるし、
宣伝の目的も多少ある。
洗濯した後に返却してさえくれればどんな製品も貸出には応じる。
万が一ほつれてしまったり、ワイヤーが変形してしまったとしても気にする必要はない。
僕が小遣いで社員価格で購入したものだ。
誰も咎めない。
物によってはどこが傷みやすいのか
今後の商品開発の参考になり逆に助かる場合もある。
基本的に下着はサイズが合わなくなった時点が買い替え時と言われている。
あとは、生地が伸びたりほつれたり損傷した時とワイヤーの破損があった時だな。
貸出品の場合は余程酷い扱いをされない限りは買い替えをそもそも必要としない。
僕がこの手でそれぞれミラクルフィットする下着を選んでいるのだ。
当然である。
ここに詰まっている下着達は皆
僕がこの学校に入ってから今まで
沢山の締め付けられ押さえつけられてきたおっぱい達を救ってきた
英雄なのだ。
残念ながら大人向けワイヤー入りの物しか貸出品はない為、
スポーツ先輩と後輩さんへの貸出はない。
図書先輩のサイズは現在はD85だが
導くべき肉をおっぱいに収めれば将来的にF80まで行く。
この両手から溢れるほど豊満なおっぱいを
今までジュニアブラなんて物で押さえつけていたなんて…
おっぱいに失礼だろ!
泣くぞ!!
おっぱいが!!!
いや、いかん妄想が。
乳汁とか考えちゃいかん。
勝手に先輩を経産婦にしてはダメだ。
グラマラスな体型の方向けのブラジャーは
一般メーカーだと可愛いものが少ない。
そもそも、売っていないことが多い。
近年食事や生活スタイルが欧米化しているからと
日本人女性のおっぱいも巨大化している傾向にある。
そのためニーズに応えて各社グラマラス向けのサイズ展開を積極的にしているし
デザインも豊富になってきてはいる。
だが、やはり絶対数は少ない。
だから、値段もその分高い。
先輩の場合収まるもの収めだしたら更に成長するだろうしな…
胸部の筋トレも併用したら、多分Gまで成長するぞ
あの肉の付き方からして。
おっぱいのためを思うなら補整下着を勧めるべきだ。
寄せて上げるとアンダーサイズを下げることが出来るし
よりボディラインを、おっぱいを美しく仕上げることができる。
幸い、サイズは合っていないにしても
触っていないのでなんとも言えない部分はあるが
クーパー靭帯の損傷率は低いように思える。
将来のおっぱいを思うなら、
今から支えるための筋肉を若いうちからつけて
形を整えておくべきだ。
しかし、失礼ながら先輩のご家庭は経済状況があまり良くないようだ。
し◯むらで扱っているような安価な品はウチでは扱っていない。
勿論素材から拘りまくっているから長持ちするし、結果的にお得にはなるが…
下手に勧めて有難いことに気に入ってくれたとしても
買えなかったら悲しませてしまう。
一度ミラクルフィットを経験したおっぱいは、合わないブラジャーを拒否する。
これじゃないと駄々をこね
違和感を覚えずにはいられなくなる。
カップが余ったり締め付けがきつければ当然の違和感だ。
おっぱいの為を想うなら補整下着もブラジャーも貸すべき。
おっぱいの持ち主である先輩を思うなら下手に貸さない方が良い。
ジレンマだ。
沢山あるのだからやれば良い
と言う考えもあるかもしれないが
沢山持っているとは言え先輩とそこまで親密じゃないのに
流石に1万とかするものを簡単には差し上げられない。
先輩が気にするだろ。
変な下心を勘ぐられても困るし。
カバンの中からあれやこれや取り出しひっくり返し
散々考えた結果。
やはり僕はおっぱいを優先させてもらう事にした。
ごめんなさい、先輩。
僕はおっばいには逆らえません。
「先輩は長年サイズの合わない下着を着けてきたので
まずは体型を正しい形にすることを優先すべきでしょう。
こちらの補整下着をお貸しします。
ブラジャーの上から着けた方がより補整効果が高まりますが
これ単品で着用しても構いません。
コチラのサイズで問題がないか確認したいので
試着してみてください。水着のように下から着用して下さい。
僕は後ろ向いているので、着用し終わったらお声掛けください」
いちいちカーテンの外に出ていては時間の無駄になるので
この待ち時間の間に
先程散乱させてしまった下着類を片付ける事にしよう。
……と思ったのだが
図書先輩に背を向けた途端
待機組の4人とバッチリ目が合う。
彼女達が開いているのは色味的にカタログの80ページ以降。
つまり
今散乱させている補整下着含む、大人な下着類のページ。
彼女たちがカタログを見る速度が思いのほか早かったのか
またおっぱいへの情熱スイッチが入ってしまい
思った以上に僕が図書先輩との押し問答に
時間をかけてしまっているのか。
どっちだ。
スマホを取り出し時間を確認するが
昼休みの時間はまだまだ残っている。
彼女達が速読だと言うだけのようだ。
しかも、よくよく見ると
今開かれているページに掲載されているテディを
僕は今ちょうど片付けようと手に持っている。
興味津々、爛々と星が煌めくような瞳。
好奇心に輝く女性と言うのも美しいよね。
獲物を前にした女豹と対峙して居る気分にも同時にさせられるけど。
美しくない言い方をするなら。
蛇に睨まれた蛙状態だ。
「乱暴に扱わないのであれば、どうぞご覧ください」
言ったと同時に
バーゲンセールに群がる女性狩人の如く
あっちにこっちに手に取り広げ眺めはじめる3人。
モデル系後輩さんはその様子を見ているだけだ。
興味がないのか?
とも思ったが、ベッドの上に取り残されたカタログを
黙々と眺めはじめる。
静かなのが好きなのかな。
ちょっとスポーツ先輩!
その総シルクのベビードール高かったんだから!!
もっと丁寧に扱って下さいよ!!!
あぁっ!
後輩さん達もそのテディ繊細なんだから!!
無遠慮に引っ張らないで!!!
彼女たちの中で
乱暴に扱わない=丁寧に扱う
と言う公式が成り立たないのであろうか。
ベビードールのページにたどり着いたら
先輩失神しかねないぞ。
こんな布面積少ないものがまさかの一万円超え!?
と感じる人はやはり一定数いるだろうし。
シルクで出来ている上にふんわりガーリー系のくせに
大人綺麗にも見えるデザイン。
何よりレースの部分がかなり凝っている。
ショーツやガーターも含めたフルセットで3万以上になります。
破けたら流石に請求させて貰おう。
テディなんてほぼ紐とレースで出来ている。
爪にひっかけただけで割きイカのように千切れていくので
頼むから引っ張らないで。
レース部分に使われているゴムってそんな柔軟性ないから。
すぐ千切れるから。
お願い、やめて。
あまりのぞんざいな扱いに
本気で泣きそうになる。
血涙流しながら極限まで洗礼されたデザインにしようと
昼夜頭が沸騰しそうな勢いで机に向かっているのに。
ひどい。
そんなこんなやっている内に
図書先輩が着替え終えたのか声をかけて来る。
一言注釈を入れてから振り返ると……
想像以上の破壊力。
大きさが、ではない。
確かに豊満なおっぱいに顔をうずめたり
あれやこれや挟みたくなる衝動に駆られる
男子諸君は多い事だろう。
だが、しかし!
そうじゃない!!
ただ、着れば良いってもんじゃないだろう!!?
水着ですら着用したら脇の肉を収めるもんじゃないのか!!??
なぜ放置する!!!???
「先輩……大変申し訳ないのですが、
少々、痛みを伴うかもしれません。
ご容赦を」
言って道具袋から手袋を一双取り出し
キュッと両手に嵌める。
効果音はイメージだ。
綿100%で作られている手袋のため音はしない。
気迫に押されたのか先輩は後ずさり壁際へを追い込まれる。
そこに追い打ちをかけるように
僕は先輩の肩を壁に押し付ける。
壁ドンのような格好になったな。
背の低い先輩の身体は、
決して大きいとは言えない僕の身体でも
すっぽりと収まるくらいに小柄だ。
人によっては涙目で見上げて来るその瞳によって
いらん加虐心がふつふつとわき出て来ることだろう。
足を閉じさせかかと、ヒップ、後頭部も全て壁に付ける。
この、肩と言うか肩甲骨も含めた4点を壁に付けて立つのが基本姿勢となる。
猫背で過ごしてきた期間が余程長かったのか、
正しい姿勢を取るだけで身体が引きつるのだろう。
ただでさえ涙目だった顔に苦悶の表情が雑ざる。
そして更なる加虐心が…
チラリと確認するが
こんな状況にもかかわらず息子は沈黙したままだ。
おっぱい王子と言う呼称が嫌なのに
フィッティングをし続けている理由には
この息子の状況を打破してくれる女神が降臨しないかと言う
一縷の望みが込められているのだが。
やっぱダメか。
落ち着いて深く息を吐き、吸う。
それでもいたたまれない状態のおっぱいを一刻も早く救出しなければ
と言う使命感が僕を絶望の底からすくい上げてくれる。
やはり、おっぱいは正義だ。
小さく「失礼」と言い
先輩の許可も取らずに谷間からズボッと右手を入れる。
途端に先輩はニャアと鳴き
待機組はキャアと声を上げる。
ここは学校の保健室だと思ったんだがな。
猫と鹿が生息する奈良公園辺りだったのか。
そいつは驚きだ。
それぞれの悲鳴を気にも留めずに
先輩の左腹部からL字にした手を使いグイグイと
胸へ肉を移動させる。
次は左手で右腹部。
そのまま左手を使って背中からも肉を引き寄せ
脇のはみ出た肉もカップに収める。
その反動で元に戻ってしまった腹部の肉を
そして再び脇の肉をカップへと収める。
右手でも同じことをする。
途中踏ん張りがきかなくて先輩がたたらを踏み
僕の胸へ飛び込んでくるアクシデントがあったが
まぁ、問題ない。
足を踏まれたがその程度の痛み
先輩のおっぱいが強いられてきた窮屈さに比べたら屁でもない。
よし、と満足げに頷く。
先輩の姿を見た待機組からは歓声が上がり小さな拍手まで送られる。
確かにそれ位良い出来栄えだ。
変に筋肉がついていないし、
まだまだ若いから脂肪も柔らかい。
おかげで何も抵抗されることなく皆、本来あるべき位置
つまりはおっぱいへと集まってくれた。
再び先輩に基本姿勢を取らせ、鏡を前に持って来る。
「え!えぇ!!?」
劇的変化、とまではいかないが
腹部がスッキリしたことに驚いたらしく
ぺたぺた自分の腹を触り鏡を覗きこんでいる。
自分の肉体で直接確かめようと思ったようだが
視線を下にずらしても、まぁ、見えないわな。
そんだけ大きいおっぱいぶら下げてたら。
「今僕がしたように補整を続けると
下着を外しても現在の体型に近づくことが出来ます。
先輩はご自身に合った下着を長年着けて来られなかった為
本来あるべき姿と現在の姿に開きがあります。
そちらと、洗い替えをもう一着お貸ししますので
補整がある程度叶いましたら
改めて採寸して、その後体形に合った下着をご購入下さい」
本来あるべきおっぱいの姿はF。
先輩が巨乳志望なら胸筋を鍛え更にグレードアップすることも可能。
いずれにせよグラマラス向けのサイズになる為
補整が完了するまでブラジャーは購入しない方が良い。
さっきも言ったが商品数が少なく見つかり難い上高いからな。
短期間で何度も探し回りやっと見つけた
自分に合ったサイズの馬鹿高いブラジャーに財布を開けて居ては
先輩の家が破産してしまうかもしれない。
おっぱい破産か。
おっぱいにより誰かが不幸になるのは許せない。
だが、哀れなおっぱいを野放しにしておくのは僕の矜持に反する。
なので、一旦ブラジャーの購入は保留して貰う事にする。
「王子…良いの?」
おっぱいが頭に付けられないとなんだかムズ痒くなるな。
いや、おっぱい王子と呼ばれるなら良いって訳では決していないんだけどさ。
「先輩さえ良ければ。
あくまでお貸しするだけです。
くれぐれも、扱いには注意してください。
間違っても
全自動洗濯機にネットにも入れず乾燥機までかける
なんてことしないで下さいね」
その言葉に先輩もそうだが、待機組からも
「「「「え?」」」」
と言う疑問の言葉が上がる。
「……まさかよもや。
皆様漏れなく下着達にそんな酷い仕打ちをしているんじゃぁありませんよね?」
口調には気を付けたが気迫に押されたのか
猿団子のように身を寄せ合い青い顔になる5人。
「ちょっとそこに直りなさい!」
予鈴の音とガンちゃんの静止が入るまで
下着の扱い講座と言う名の説教が始まり
結局僕は今日も昼ご飯を食べ損ねる羽目になったのだった。
まぁ、いつも通り自業自得である。
これが、僕の日常だ。